【アイツは何者②】
その後ハンスは武器庫でアイツに銃の整備をさせ、射撃場で撃たせ、新しく出来た模擬市街戦場へとアイツを連れて行った。
少し、いや、大いに妬ける。
僕だってこんなに長い時間ハンスを独り占めにしたことはないというのに、アイツときたら今日の昼過ぎに来たばかりなのに夕方までハンスに外人部隊の各施設を案内させている。
勿論それは「案内」ではなく「入隊審査」なのだろうし、ハンスはアイツを落とす様に上司から与えられたカリキュラムを遂行しているに過ぎない事は分かっているつもり。
だが時間が進むにつれて、事務的だったハンスの雰囲気が緩んできているように感じるのは僕の思い過ごしではないような気がしてきた。
何故ならアイツはハンスには負けたものの、モンタナとブラームと言う屈強な隊員でさえ敵わない相手を2人とも倒し、おそらくその後も次々とカリキュラムを与えられて居るということはつまり「合格点」を叩き出しているに違いない。
作業が終わり部内の書類を事務所に持って行く用事を引き受けた僕は、ついでにアイツの事を探ってみた。
「今日面接に来た事務員は雇うことにしたんですか?」
書類を渡す時、世間話程度のノリで事務長に聞いてみると、彼は渋い顔をしてアレは事務員ではないと答えたがその他の情報については何も漏らさなかった。
あまりしつこく聞いても変に思われるので、その場は何事も無かったように済まして事務所を出た。
まあ当直の時にハンスに聞けばわかるだろう。
そう思って技術部の建屋に戻っていると、丁度反対方向から事務長の腰巾着が来たのですれ違いざまにカマをかけた。
「やあメエキさん今日は大変でしたね。女性隊員の入隊、実技試験の結果は上々だと伺いましたが」
メエキは僕が知っていることに少し不思議な表情を見せたが、僕が事務所に用事で行っていたことが分かると事務長が既に話したのだと思ったらしく見事に引っ掛かってくれた。
「まったく誰が後ろで手を曳いているのか知らないけれど、女性隊員は採用しないって言っているのに困ったもんだ」
「噂では国軍の推薦だとか?」
「いやぁ俺は違うと思うな」
「と言うと?」
「国軍の企みならウチのトライデント将軍も何らかの情報を得ていたと思うが、将軍もどんな奴が来るかは知らなかった。と言うことは、もっと上の仕業だと俺は睨んでいるんだ」
「さすがですね。しかし上は……」
「おそらく国防省や、もっと上の首相や大統領かも」
「なるほど、さすが読みが深い! それで、えっと何て言いましたっけ彼女……」
「ナトーだ。ナトー綴りはN・A・T・O・Wでナトー」
「そうそう。そのナトーさん、なんと実技テストを合格されたと聞きましたが?」
「ああ、それ。ハンスの野郎に、絶対合格できない実技テストをするように指示しておいたのに突破されたとぬかしやがった。おかげで今度はこっちが割を食う番になってしまった」
「割を食う番、と言うと?」
「絶対合格不可能なテストを準備しろだとさ、あの禿げ頭……」
禿げ頭と言うのは、事務長のテシューブの事だろう。
調子に乗せたメエキからは様々な情報を得ることが出来た。
アイツの名前は、ナトー・エリザベス・ブラッドショウ。
書類上の国籍は、イラク。
年齢は18歳で、性別は女性。
身長176cm、体重65kg。
ただし身長以外は、嘘の可能性があるという事だった。




