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娘 6

「えりさん、二六歳の誕生日おめでとーーう!」

 パーーン。クラッカーの大きな音と共に、佐賀選手と小さな子供たちが拍手してくれる。

「ええ! ありがとう。佐賀先生も、みんなも」

 大成功〜〜と子供たちは大喜びしている。佐賀選手が、ニヤニヤしながらこっちに歩いてくる。

「びっくりした?」

「そりゃ、びっくりですよ。確かに、いつもはロッカー室に私を呼んだりしないから、子供たちが喧嘩でもしたのかと思いましたよ」

 やれやれ、といった表情を作りながら、でも嬉しくてつい私もニヤけてしまう。

「いやーー、えりがマネージャーになってから今日で三年目か。感慨深いなあ」

 空を見上げながら、佐賀選手がゆっくり言う。

 

 佐賀選手は、三年前に現役を引退し、静岡に戻ってきた。戸川先生から連絡が来て、川波学園で再会することになった。

「ひっさしぶり! えり、元気? いやーー、大人になっちゃって」

 全然変わらない佐賀選手が言う。私は、高校を卒業してから地元の大学に進学し、公務員になっていた。

「四月から、こっちでサッカー教室開こうと思ってるんだよね。で、えりに手伝ってほしくてさ」

 ニコニコしながら言う佐賀選手を、ポカンとした顔で見つめ返す。

「マネージャーだよ。ほら、私サッカーしかしてこなかったからさ、お金のこととかよくわかんないし。戸川先生から聞いたけど、えり、経済学部行ったんでしょ? お金のこと得意そうじゃん」

 確かに私は経済学部に行った。でも、専門は経済の歴史だったし、勉強したのも随分前のことだ。

「で、でも。私サッカー全然詳しくないし、今は公務員として働いてるし」

「お願い!」

 あの日みたいに、深くお辞儀しながらデカすぎる声で佐賀選手が言う。困ったな、と思いながら、少しワクワクしている自分がいることに驚く。

「まあ、佐賀選手がそこまで言うなら」

 あくまで仕方なくですよ、という感じの雰囲気を出しながら返す。

「まじ!? やったーー! ありがとね。本当ありがとね」

 私の両手を包んで激しく振りながら言う。

「痛い、痛いです」

 私も笑いながら手を振る。


 あの日から三年。サッカー教室の生徒数は順調に右肩上がりだ。最初は慣れないことばかりで大変だったけど、今やサッカーのことなら何でも聞いて、と言えるくらいまでにはなった。

「そういえば、お母さん元気?」

 佐賀選手が、今思い出した、といった感じで聞いてくる。きっと、ずっと気になってたんだろう。

「元気です。この前、一年生のデビュー戦、見に来てましたよ」

「え、それ本当!? 言ってよーー」

 もお〜〜と言いながら、頭をわしゃわしゃされる。

 佐賀選手のおかげで、母とはあれから毎日話すようになった。母の話もたくさん聞いた。大学に進学をすることを決めた時も、公務員試験に合格した時も、公務員をやめてマネージャーになることを決めた時も、母はとても嬉しそうに聞いてくれた。

「それはごめんなさい。でも、とっても集中されてたので、声をかけれなかったです」

 肩をすぼませてニヤニヤしながら返す。

「先生――! はやく練習しましょーー!」

 トレーニングシューズに履き替えた子供たちが叫んでいる。

「はーーい! 今行くからねーー! ほら、マネージャーも行くよ」

 走り出した佐賀選手の背中を眺めながら、グラウンドを駆け抜ける。

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