母 5
宗介が大学を卒業してすぐ、婚姻届を出した。生活の拠点も静岡に移り、宗介の両親が暮らす一軒家から歩いて五分ほどのところのマンションを借りた。
「なんか、感慨深いな」
引越しが完了して二人で外を歩いていた時、宗介が空を見上げながら言った。
「俺さ、夢だったんだ。こうやって好きな人と結婚して、特別なことは起こらなくても平和な毎日を過ごすの。その相手が、里子で本当に良かった」
宗介の言葉を聞きながら、目に涙が浮かんできた。
「私も、宗介と結婚できて本当に嬉しいよ。ありがとう」
宗介が差し伸べてきた手を、ぎゅっと握り返した。
結婚して二年が経ち、子どもが生まれた。
「ただいま〜、えり。パパだよ〜」
宗介が「えり」と名付けた娘は、宗介が帰って来るとハイハイしながら玄関に向かうようになった。
「今日も可愛いな。な」
「宗介。えりと遊ぶのも良いけど、お風呂掃除もお願いね」
「あ、悪い。今日は俺の番だった」
そそくさとお風呂場に向かう宗介を眺めながら、えりを抱き抱える。
えりが生まれてから、宗介と喧嘩をすることが増えた。些細なことが気になって、それを宗介にぶつけてしまう。
「そうだ。今日は大事な試合だ」
お風呂掃除を終えた宗介が、テレビの前に座って野球を観始める。
「ねえ。私のいないところで観てほしいってずっと言ってるよね」
「そうだけどさ、大画面で観たいんだもん」
「こっちの気持ちも考えてよ」
悔しくて、涙が出そうになる。スポーツが嫌だと何度も言っているのに、なかなかやめてくれない。
「ごめん」
フワッと宗介の腕に包まれる。宗介は、いつもそうだ。こういうところが好きだけど、ずるいなと思う。
えりはとても静かな子に育っていた。小学生になっても、他の子と遊ぶことなく毎日家で本を読んでいた。
「あんまり心配しすぎるなよ。えりは、家にいるのが好きなんだから。無理に外に出すことないよ」
宗介にえりのことを相談しても、いつも同じことしか言われない。
もどかしかった。自分の子育てが間違っているのではないかと、毎日不安だった。
えりが高校生になったある日、とんでもないことが起こった。
友達と遊びに行く、そう言い出したのだ。友達がずっといなかったえりの口から出た言葉に、驚いた。同時に、私はとても嬉しかった。可愛い服を買ってあげよう。そう思って、毎日近くのショッピングモールに足を運んだ。
えりの友達は、どんな子だろう。もしかしたら、家に遊びに来るかもしれない。その日から毎日、えりが帰って来る時間に合わせて、家がきれいになっているように整えるようになった。
「こんにちは!サッカー選手をしております、佐賀りりかと申します!」
そんな毎日を過ごしていたある日、えりがサッカー選手を連れてきた。




