母 1
「うるさい!」
大声で泣く私に、ママが一言放って自室に入った。ただ、構ってほしかった。今日何があったのか聞いてほしかった。夕方から、ずっとママの帰りを待っていた。泣いたら、絶対に心配してくれると思ったのに。
「おばあちゃん!」
次の日、家に帰るとリビングにおばあちゃんがいた。
「おかえりなさい。待ってたのよ」
おばあちゃんが、私を抱き寄せてくれる。また泣きそうになったが、ママに言われたら怖いので我慢した。
「ねえ、お友達がたくさんいるところに行ってみない?」
私は、よくわからないまま頷いた。連れて行かれた場所は、家から歩いて七分のところにある公民館だった。
いつもは横を通るだけで、中に入ったことはなかった。奥の方から、子供たちの笑い声が聞こえてきた。
「あそこの部屋で、学校が終わった後に遊べるのよ」
おばあちゃんが、私の手を握ってこっちを見る。不安そうな顔を浮かべる私に、にっこりと微笑む。
「あら、こんにちは」
中に入ると、おばあちゃんより少し若そうな女の人がこちらに歩いてくる。
「すみません、急に。この子を、ここにお願いできないかしら」
おばあちゃんが、握った私の手を上下に振りながら話す。私は、おばあちゃんがどうしてここに私を連れて来たのか、なんとなくわかった。
「里子ちゃん、ごめんね。本当はばあちゃんの家に連れて行きたいんだけど、おじさんの家族もいるでしょう。小学校が終わるまでは、学校が終わったらあそこで遊ぶのよ」
家に戻ってすぐ、おばあちゃんが申し訳なさそうに話し始めた。私は今、小学校三年生。あと三年は、あそこに通うことになる。おばあちゃんの家には、ママのお兄さんの家族が住んでいる。確か、この前赤ちゃんが産まれたばっかりだった。本当は、おばあちゃんと過ごしたかったが、家で一人で待つよりは公民館にいた方が良いかもしれないと思った。もう、一人は耐えられない、そう思った。
「すみません、はい、すみません」
ママが、ずっと電話で謝っている。私の視線に気づくと、キッと睨みつけて自室に入ってしまった。しばらくしてリビングに戻ってくると、コーチに呼ばれたから、とまた家を出てしまった。
私のママは、静岡のバスケットボールチームに所属している。私を産んだのは、ママがまだ十代だった頃。当時付き合っていた人は、逃げてしまったそうだ。おばあちゃんとママが話していたのを、たまたま聞いてしまったことがあった。私を産むか迷っていたこと、スポーツ選手と子育てを両立するのは無理だと思ったこと、私を産んでからもチームには私の存在を伝えていないこと。私が寝たと信じて、狭い寝室で二人が話しているのを、聞いてしまった。




