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アスリート 5

「佐賀選手のご入場です! 拍手でお迎えください!」

 高校生のキラキラした表情と拍手に迎えられながら、体育館に足を踏み入れる。様々な思い出が蘇る。高校時代の思い出は、ほとんど母親の看病で埋まっているが、昼休みにバスケをして遊んでいる時は、何もかも忘れることができていた。


「佐賀選手は、普段どういったことを心がけていますか?」

「そうですね、監督とかチームメイトとか、とにかく周りのことを忘れないっていうことですかね。自分が競技を続けられているのも、ひとえに周りのお陰なので。もう嫌だな、練習行きたくないな、っていう日は、特にこのことを思い出すようにしてます。そうすると、自然と力が入るんです」

 高校生の熱烈な視線を感じながら、質問に答えていく。今座って聞いている高校生は、私の高校時代のような苦悩があるのだろうか。

「佐賀選手のこと、テレビとかで見とことあるよって人?」

 高校生たちが、ザワザワしながら手を挙げている。どんな子たちが聞いてくれているのか気になり、高校生たちの方を向く。

 あ。一人の女の子と目が合った。周りが楽しそうに手を挙げながらこっちを見ている中、一人だけ気まずそうな顔をしている。手は、挙げていない。我ながら、驚いた。テレビを見ていれば、嫌でも目にするはずだ。どんな子なのだろう。


「ただいま」

「りりかー! 待ってたぞー」

 想像していた三倍は人がいる。この狭い実家で、いつから待機していたのだろう。親戚だけではなく、近所の人たちも待ってくれていたらしい。

 久しぶりに実家で食べるごはんは、とてつもなく美味しかった。ごはんを食べてから、母親の元に行く。本当は、帰って来てからすぐに行こうと思ったが、あまりにも騒がしかったため断念した。

「ただいま」

 声をかける。再び、高校時代の思い出が頭を巡る。

「世界一に、なったよ」

 写真の中で微笑む母親の口角が、少し上がったように感じた。

 父親に呼ばれ、リビングに戻る。

「また来週も、静岡来るから。でも、試合だからホテルになる」

「そうか。また、帰ってこい」

 それだけ言い、父は寝室へと向かった。


 スタジアムで、グッズを手渡しすることが好きだ。グッズ売り場に向かい、並んでいる人の前に立つ。

「あれ、どっかで見たような」

 あ。あの子だ。ん、でもこの前手を挙げてなかったから、私のことは知らないはず。

 動揺を隠すように、とりあえず並んでくれている全員に向かって挨拶する。

 その後、目の前にいる、あの時の子に話しかけた。明日川波学園に行くことを伝えたことだけは覚えている。戸川先生からまた連絡が来たのだ。渡したいものがあるから、と。あの子は、きっと何か内に秘めている。あの子を見ていると、自分が高校生だった頃を思い出す。もしかしたら、また川波学園で会えるかもしれない。そう思い、そのことを伝えた。他に何を話したかは、記憶にない。


「お、佐賀! こっちこっち」

 戸川先生の声の方に向かって歩く。

「悪いね、試合の次の日に。職員室の奥の部屋に行ってほしい。本当は俺も行きたいんだけど、一年生で具合悪くした生徒がいて、そっちに行かなきゃならなくなった。生徒と二人でも良いか?」

「私は、良いですけど」

「アイツなら大丈夫だと思うから。じゃ、また」

 それだけ言うと、戸川先生は反対方向に走って行った。

 職員室の奥の部屋で待っていると、女の子の声とともにドアが開いた。

 入って来たのは、あの子だった。

「あれ、やっぱりまた会えたじゃん」

 少し動揺したが、怖がらせては悪いので、とびきりの笑顔で迎えた。

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