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アスリート 4

「佐賀にパスが回る。ここで決めれば逆転。逆転。決めた〜〜! ラストは佐賀! 日本の誇り、佐賀が決めた〜〜!」

 もう何回目だろう。今週のニュースは、この話題ばかりだ。我ながら恥ずかしい。が、同時に、母親にも見てほしかったな、とも思う。

 世界一。四年前にゆうじさんがくれた電話の後、自分が目指す場所として決めた。遊びじゃない。そう言われて、目が覚めたような感覚が脳を走ったのを、今でも思い出す。

 ブーー。また携帯が鳴る。次は誰だろう。通知を確認する。

「うわ、懐かし」

 高校の時の担任の先生からだった。

『おめでとう。高校生が、会いたがってる』

 戸川先生らしい文章に、思わず笑みが溢れる。肩の力もスルスル抜けていく。ここ最近、ずっと緊張していたことに気づく。


 世界一を決める最後の試合。アディッショナルタイムで、宮川選手から絶妙なパスが回ってきた。アドレナリン全開で、ゴールを決める自分しかイメージできなかった。そのイメージのままボールを蹴り、イメージのままシュートが決まった。同時に、試合終了のホイッスルが鳴った。

 それが、世界一になった瞬間だった。その日の夜、私は日本中に名を知られることになった。


『ありがとうございます。もっと大きくなったら、行かせてください』

 送信ボタンを押し、玄関に向かう。もっと、もっといける。

 外の空気は、いつもより澄んでいるように感じた。

「おはよ」

 宮川選手が、ポンっと肩を叩きながら隣に並ぶ。

「今日が、最後かな」

 宮川選手は、この前の試合で引退を決めた。世界一になったら、引退すると決めていたそうだ。

「りりかコンビも、解散かなあ」

「そんなあ。寂しすぎますよーー」

 涙が出そうだった。宮川選手の目も、潤んで見えた。りりかコンビ。いつからか、ファンの人たちからそう言われるようになっていた。二人が試合に出ると、りりかコンビと書かれたタオルが一斉に出されるのが恒例となっていた。

 宮川選手にとっての最後の試合も、りりかコンビで溢れていた。そして、最後は二人で決めたゴールだった。ファンの人たちの熱狂もすごかったが、私たちの抱擁も、とても熱かった。


「佐賀選手、あとは頼んだ」

 宮川選手が、体をこちらに向け、手を差し出す。握手をしてしまうと、本当に終わりを迎えてしまう気がして、なかなか握り返せない。

「ほら! あとは、頼んだよ」

 宮川選手が強引に私の手を自分の方に持っていく。私はもう片方の腕を顔に持っていき、気づかれないように涙を拭った。


『来年、講演しないか』

 前回のやり取りから、一年半ほど経っていた。来年のスケジュールを頭の中に出す。試合は、比較的落ち着いている。おそらく、戸川先生もそれを分かった上で、依頼してくれたのだろう。

『お久しぶりです。来年、やります』

 講演とは、母校である川波学園で恒例行事となっている、有名人から学ぼう的なアレのことだろう。高校時代、結構好きだった。

『ありがとう! 詳しい日程などは、また送る』

 すぐ返信が返ってきた。静岡には、たまに試合で帰るが、なかなかゆっくりはできていない。父親やゆうじさんは、気を遣ってくれているのか、あまり連絡をしてこない。川波学園に行く時は、ホテルじゃなくて実家に泊まろうか。そんなことを考えていると、母親にも挨拶に行きたくなった。

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