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内乱記異聞  作者: 奪胎院
第四部 エジプト・王家の内乱

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第19章エピローグ

第一場:ローマの火種

季節は巡り、ローマには、エジプトからの、待ち焦がれていた報せが届いていた。


ナイルの戦いにおける、カエサルの決定的勝利。


その報に、カエサルの代理人として首都を預かるオッピウスとバルブスは、書斎で、安堵のため息をついていた。


「……やれやれ。心からの疲労、とはこのことだな」

バルブスが、数ヶ月にわたる極度の緊張から、ようやく解放されたように言った。


「あと数週間、あのミトリダテスとかいう男の援軍が遅れていたら、我々も、カエサル様も、今頃は、あの世でポンペイウスと再会していたやもしれんな」


二人は、今回の勝利が、いかに薄氷の上にあったかを、改めて振り返っていた。


だが、安堵も束の間、オッピウスが、次々と届く悪い報せのパピルスを、机の上に広げた。


「喜んでいる暇はないぞ、バルブス。エジプトの火は消えても、ローマ世界の至る所で、新たな火の手が上がっている」


彼の指が、一枚の報告書を叩いた。

「まず、小アジアだ。ドミティウスが、ファルナケスに大敗を喫した。我々の東方における防衛線は、半ば崩壊したと言っていい」


「ヒスパニアも、依然として危険なままだ」

とバルブスが続けた。


「ロンギヌスの悪政が、いつ反乱に繋がってもおかしくはない。そして、最大の問題は……」


二人の視線が、最後に残った一枚の、アフリカからの密偵の報告書へと注がれた。


「ラビエヌス、小カトー、メテッルス・スキピオ……ポンペイウスの亡霊たちが、ヌミディア王ユバの下に結集し、ファルサルスを遥かに超える大軍を編成している。彼らは、もはや『共和政を守る』という理念の怪物と化している。エジプトを平定しても、本当の決戦は、これからだ」


二人の間には、重い沈黙が流れた。

「……アントニウスでは、もう抑えきれん。カエサル閣下に、一刻も早くローマへ帰還していただくよう、嘆願の使者を送るべきだ」


オッピウスは、静かに、しかし、固い決意を込めて言った。



第二場:若き獅子たちの対話


同じ頃、若きオクタウィアヌスの邸宅では、彼と、親友アグリッパ、そしてもう一人の友人であるマエケナスが、エジプト平定の報について、語り合っていた。


季節は変わり、ローマにエジプト平定の報が届き、市民は勝利に沸き立っている。


「それにしても、見事なものだ」


アグリッパは、軍事的な視点から、純粋な称賛の言葉を口にした。


「あれだけの劣勢を、最後には覆してしまうのだからな。大叔父上の戦の才は、まさに神業だ」


「だが、街の連中の声は、少し違うようだぞ」

マエケナスが、いつものように、皮肉めいた笑みを浮かべて言った。


「私が市中で耳にするのは、勝利への賛辞だけではない。


『カエサル様は、ローマの危機を放置して、エジプトの女王と戯れている』という、市民と元老院の囁きだ。彼らは、カエサル様が、ローマへ帰ってこないのではないかと、不安になっているのさ」


その言葉に、オクタウィアヌスは、冷徹に反論した。


「大叔父上が、単なる色香に惑わされるような男ではないことは、君たちも知っているはずだ。彼は、エジプトの富と穀物を完全にローマのものとするため、クレオパトラという『楔』を打ち込んでいるに過ぎない。政治的な、極めて合理的な判断だよ」


「合理的、ねえ」

マエケナスは、面白そうに、オクタウィアヌスの顔を覗き込んだ。


「もちろん、それが第一の理由だろうさ。だが、相手は、あの若く美しい女王だぞ?そして、何より、我らがカエサル様は、若い頃から、行く先々で女性と恋に落ちてきた、という輝かしいご経歴をお持ちだ。本当に、政治的な理由だけだと、君は言い切れるのかい?」


その揶揄するような言葉に、オクタウィアヌスは、一瞬、言葉に詰まった。


アグリッパは、思わず吹き出しそうになるのを、必死でこらえている。


「……いずれにせよ」

オクタウィアヌスは、咳払いをして、話を元に戻した。


「重要なのは、市民が、もはや単純な勝利を求めてはいない、ということだ。彼らは、この終わりの見えない混乱に、疲れ果てている。そして、一日も早い、平和と秩序の到来を、待ち望んでいるのだ」


若き獅子たちは、もはや、ただの子供ではなかった。


彼らは、ローマという巨大な国家が、今、何を求め、そして、どこへ向かおうとしているのかを、それぞれのやり方で、しかし、確かに、見据え始めていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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