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内乱記異聞  作者: 奪胎院
第四部 エジプト・王家の内乱

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第十三章:ファロスの大敗

夜明け前の、最も深い闇。それを合図に、カエサル軍最後の精鋭部隊が、音もなく動き出した。


レビルスの計画に基づき、ローマ軍は灯台と連絡橋へ総攻撃を仕掛ける。


百人隊長スカエウァが率いる突撃部隊は、小舟を連ねて、ファロス灯台と本土を結ぶ長大な連絡橋ヘプタスタディオンの、ちょうど中間地点に奇襲上陸を敢行した。


作戦は、当初、完璧に進んでいるように見えた。


不意を突かれたエジプト軍の守備隊は、ローマ兵のあまりの猛気に圧倒され、次々と駆逐されていく。


スカエウァの部隊は、連絡橋の中央部を確保すると、そこを拠点に、灯台側と本土側の両方へと、攻撃を開始した。当初は優勢に進めていたのだ。


「行け!行け!このまま、橋を制圧するのだ!」


スカエウァの咆哮が、夜明け前の港に響き渡る。


ローマ兵たちは、数ヶ月にわたって溜め込んできた鬱憤を爆発させるかのように、勇猛果敢に戦った。


だが、その光景を、敵将ガニュメデスは、灯台の頂上から、冷ややかに見下ろしていた。


(……面白い。鼠が、自ら罠にかかりに来たか)


彼は、ローマ軍が港を狙ってくることを、そして、その手薄な中央部を突いてくることさえも、完全に予測していた。


彼は、すぐさま、本土側に控えていた主力部隊に、連絡橋へと突入するよう命令を下した。


「申し上げます!敵の増援です!本土側から、おびただしい数の敵が!」


報告を聞いたスカエウァは、舌打ちした。


「構わん!バクルス、貴様の部隊で、本土側を死守しろ!我々は、その間に、灯台を落とす!」


百人隊長バクルス率いる守備部隊が、橋の上で盾を組み、本土から押し寄せるエジプト軍の波を防ぐ。


その背後で、スカエウァの突撃部隊が、灯台の入り口へと殺到した。


だが、それこそが、ガニュメデスの巧みな反撃の始まりだった。


彼が合図をすると、それまで闇に潜んでいたエジプトの小型艦隊が、連絡橋の両側面から、一斉に姿を現したのだ。船上には、無数の弓兵が待ち構えていた。


「しまっ……!」


スカエウァが気づいた時には、すでに遅かった。


連絡橋の上は、逃げ場のない、完璧な射線の中にあった。側面から、雨あられと矢が降り注ぎ、ローマ兵たちは、盾で身を守る以外になすすべもなく、次々と倒れていく。


ローマ軍は大混乱に陥った。


さらに、灯台の内部からも、エジプト兵がなだれ込んできて、ローマ軍を挟み撃ちにする。


「退却!退却だ!」


スカエウァは、苦渋の決断を下した。


だが、パニックに陥った兵士たちでごった返す狭い連絡橋の上では、もはや統制の取れた撤退など不可能だった。


その頃、カエサルは、本営からこの戦況を、歯噛みしながら見つめていた。


「……予備兵力を出せ!スカエウァたちを救出するのだ!」


カエサルは自ら小舟に乗り込み、救援部隊を率いて、地獄絵図と化した連絡橋へと向かった。


だが、その救援行動が、かえって混乱を助長する結果となる。


敗走してくる味方の兵士たちが、助けを求めて、カエサルの船団へと殺到したのだ。


定員を遥かに超える兵士が乗り込もうとした小舟は、次々と転覆していく。


兵士たちは、重い鎧のまま、アレクサンドリアの海へと沈んでいった。


食料も矢も尽きかけていた中でのこの大敗北は、カエサル軍にとって、まさに決定的なものだった。


やがて、カエサルが乗っていた指揮船もまた、殺到する兵士たちの重みで、大きく傾き始めた。


「閣下、お逃げください!」


護衛の兵士が叫ぶ。敵の矢が、すぐそこまで迫っていた。


カエサルは、一瞬、天を仰いだ。


そして、自らの指揮官の証である、緋色のマントを脱ぎ捨てると、燃え盛る船から、躊躇なく、海へとその身を投じた。


カエサル自身も海に飛び込んで辛くも脱出するという、最大の危機が訪れたのだ。


彼は、左腕に矢を受けながらも、必死で泳ぎ、数百メートル先の、味方の小舟に、辛うじて救助された。


その日、ローマ軍は、四百名近い軍団兵と、数名の勇敢な百人隊長、そして同数以上の船員たちを、アレクサンドリアの海に失った。


最後の賭けは、最悪の形で、失敗に終わった。


夜、王宮地区に戻ったカエサル軍の陣営は、もはや、死の沈黙に支配されていた。


レビルスは、ずぶ濡れで、傷を負い、それでもなお、静かに星空を見上げる主君の姿を、ただ、言葉なく見つめることしかできなかった。


全ての希望が、今、完全に、絶たれたように思われた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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