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内乱記異聞  作者: 奪胎院
第一部:イタリア電撃戦

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第四章:コルフィニウムの再会

レビルスとその仲間たちがコルフィニウム近郊に到着した時、そこに広がっていたのは、まだ混沌とした設営初期の光景だった。


カエサルの本隊は到着したばかりであり、兵士たちが巨大な野営地を築くために、凍てついた大地を掘り起こし、木々を伐採している最中だった。


町の城壁はまだ遠くに見え、完全な包囲網は影も形もなかった。


「…間に合ったか」


レビルスは、眼下で慌ただしく動き回る数千の兵士たちを見下ろし、安堵の息を漏らした。


彼の計算では、カエサル本隊の到着とほぼ同時にこの地に着くはずだった。その計算は、今回もまた正しかった。


「レビルス殿、あれを」


斥候のシルウァヌスが、野営地の一角を指差した。

そこには、ひときわ大きく、そして簡素な総司令官の天幕が、まさに設営されようとしていた。


「行くぞ」


レビルスは、仲間たちを伴って丘を下り、カエサルの元へと直行した。


彼らが天幕の前にたどり着くと、ちょうどカエサルが中から現れたところだった。


彼は、レビルスの顔を認めると、その彫りの深い顔に満足げな笑みを浮かべた。


「待ちわびていたぞ、レビルス。お前の到着は、まさに神の啓示のようだ」


二人きりの私的な空間ではないため、カエサルは最高指揮官としての威厳を保った口調だった。

だが、その声色には、再会を喜ぶ親密さが滲んでいた。


「閣下のご命令通り、馳せ参じました。後方の維持管理は、第八軍団の筆頭百人隊長に引き継いであります」


「見事な手際だ。そして、お前が来るのを待っていたかのように、獲物の方から檻に入ってくれた」


カエサルは、忌々しげにコルフィニウムの城壁を睨みつけた。


「我が政敵、ドミティウス・アヘノバルブスが、30個大隊以上の兵を率いて籠城している。奴は、ここを拠点にイタリア中から兵を集め、我々を迎え撃つつもりらしい」


「…愚かな」


レビルスは、即座にドミティウスの戦略の欠陥を見抜いていた。


「これほどの盆地に籠城すれば、完全に包囲されて補給路を断たれるのは自明の理。ポンペイウス本隊からの救援も、この地形では容易ではありません」


「その通りだ。だからこそ、レビルス」


カエサルは、向き直ると、レビルスの目を真っ直ぐに見据えた。


「この包囲戦、お前に任せる。この町を、一滴の血も流さずに、そして可能な限り短時間で陥落させるための、完璧な包囲網を設計しろ。お前が率いてきた工兵部隊と、私の軍団の兵士たちを好きに使っていい。お前の計算で、ドミティウスの希望を、根絶やしにしてみせろ」


それは、カエサルからの、絶対的な信頼の証だった。レビルスは、その重責に身が引き締まるのを感じながら、深く頷いた。


「御意に」


その瞬間から、レビルスは戦場の指揮官から、冷徹な計算者へと変貌した。


彼は仲間たちを呼び寄せると、休む間もなく測量と設計を開始した。


「シルウァヌス、町の周囲の地形、高低差、水源の位置、全てを調べ上げろ。多少の誤差は許容する。可能な限り速く頼む」


「ボルグ、セクンドゥス、工兵部隊を率いて資材の確保を。必要な木材の量、石材の数、全てここに記してある。今すぐだ」


「ガレウス、ルキウス、町の城門から弓が届く範囲を特定し、誰もその内側に入れさせるな」


レビルス自身は、丘の上に広げた巨大な羊皮紙の上に、恐るべき速度で設計図を描き上げていく。


塹壕の深さと角度、土塁の高さ、監視櫓を建てるべき正確な座標、投石機を配置すれば最大の効果が得られる位置。


彼の頭脳は、この土地の全てを数字に変換し、最も効率的で、最も破壊的な幾何学模様を紡ぎ出していく。


レビルスの設計図が完成するや否や、数千の兵士を動員した、前代未聞の大規模工事が開始された。


レビルスの仲間たちが各部隊の監督役となり、彼の計算を寸分の狂いもなく現実の形へと変えていく。


ガリアでの戦いを経験していない兵士たちは当初、この若き司令官の、あまりに緻密で人間味のない指示に戸惑っていた。


だが、作業が進むにつれ、その設計の恐るべき合理性に気づき、畏敬の念を抱き始めた。


わずか数日で、コルフィニウムの周囲には、巨大な環状塁が姿を現した。


それは、レビルスの目に映った通りの、完璧な幾何学模様だった。城壁の上のドミティウス軍は、日に日に完成していく巨大な罠を前に、希望を打ち砕かれていった。


そして包囲開始から一週間後。固く閉ざされていた城門が、軋むような音を立てて開かれ、中から白旗を掲げたドミティウスが現れた。レビルスの計算は、一滴の血も流すことなく、敵将を降伏させたのだ。


ドミティウスは、カエサルの前に引き出されてもなお、傲岸な態度を崩さなかった。


「殺すがよい、ユリウス家の男よ。貴様の寛容などという偽善、受けるつもりはない」


だが、カエサルの答えは、全ての者の予想を裏切るものだった。


「ドミティウス殿、貴殿は自由だ。どこへなりと行くがよい」


その夜、レビルスはカエサルの天幕に一人、呼び出された。


「見事だった、レビルス。お前の計算が、私の**『寛容』を、最強の兵器へと昇華させてくれた」


カエサルは、心からの称賛を口にした。彼の前には、解放されたドミティウスが残していった、莫大な私財の目録が置かれている。


「レビルス、よく聞け。我々は、武力でイタリアを制圧するのではない。圧倒的な速さと、敵さえも許すという『寛容』**によって、人心を掌握するのだ。私は、今の共和政を根底から作り変える」


壮大な構想だった。それは、もはや戦争の勝利という次元を超えた、国家のあり方そのものを変えようとする、冷徹な「国家の建築家」としての宣言だった。


カエサルはレビルスに向き直ると、その目に真剣な光を宿した。


「この私の構想を、お前の力で、実行可能な作戦計画へと落とし込んでほしい」


それは、正式な命令だった。


「寛容を、いつ、どこで、誰に示すのが最も効果的か。どの都市を、いつ解放すれば、最大の政治的利益を生むか。兵士たちの不満を抑えつつ、この**『寛容の戦い』**を勝利に導くための方程式を、お前が作り上げろ。お前の計算が、これより先の、我々の道標となる」


レビルスは、その壮大すぎる任務の重さに、一瞬息を呑んだ。だが、彼の心にあったのは、恐怖ではなかった。自らの才能を、これ以上ない形で求められているという、静かな高揚感だった。


「…御意に、カエサル」


彼は、深く、そして力強く頷いた。


カエサルの描く未来予想図と、レビルスの冷徹な計算。


二つの偉大な頭脳が、この夜、コルフィニウムの片田舎で、完全に一つとなった。ローマの運命が、新たな段階へと移行した瞬間だった。

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