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086:副将の戦い

086:副将の戦い

 開戦の鐘が鳴ると左翼も中央も突撃を始める。

 ミケル軍において最も強いアドニス将軍に、レオンがぶつけようと選んだのは筆頭家老でありながら唯一対抗できるであろうアルバート大将軍である。

 レオンを裏切ったアドニス将軍たちを、家臣の代表である筆頭家老のアルバート大将軍は許せなかったのだ。



「あの裏切り者たちを討ち取るのだ! 絶対に逃すな、あの者だけは絶対に討ち取れ!」


『おぉおおおお!!!!!』



 アルバート大将軍は鬼の形相で、アドニス将軍に向かって飛び込んでいくのである。

 性格から言えばアドニス将軍が狂犬のように、敵に向かって行く感じがする。

 しかし落ち着いている様子で右手を挙げた。

 そのままアドニス将軍は「行け」とだけ、冷静に言って兵士たちを突撃させる。

 この正反対な感じが、どう戦いに影響するのか。


 アルバート大将軍の騎馬隊が、歩兵の先頭に衝突する時に激しい衝突音がした。

 そして先頭の歩兵たちは激しく吹き飛ぶ。

 アドニス将軍の部隊は、ケダルヘイ兄弟の軍とは異なりレオンたちと同じ兵士専業の人間たちで構成されている。

 その為、敵兵に尻込みする事は少ない。

 そのはずだった。


 だが先頭に立っているアルバート大将軍の気迫に、兵士たちは怯えて後退りしようとしてしまった。

 しかし後方で控えているアドニス将軍が、自分のハルバードを地面にドンッと叩きつける。

 その音を聞いた兵士たちの恐怖が吹き飛ぶ。

 アルバート軍に向かって前のめりになった。

 この変わりようにアルバート大将軍は、眉を歪めて「アドニスの野郎が……」と呟く。

 さっきまでの勢いがなくなり、止まっての戦いになる。



「長蛇の陣から魚鱗の陣に変えるぞ! とにかく目の前の敵兵たちを薙ぎ倒すんだ!」


『おぉおおおお!!!!!』



 アルバート大将軍は1列の陣形から、魚の鱗のように三角形の部隊を密集させ敵陣の中央を突破する魚鱗の陣に変更して強行突破を計る。

 素早く戦いの決着を付けたいからだ。

 練兵していた通りに、アルバート軍の兵士たちは魚鱗の陣に移行するのである。

 やはり練兵しているだけはある。

 とても素早く陣形が変わった。

 これは早期に決着が付くかもしれないと、アルバート大将軍の部下たちは思った。



「アルバート殿にしては、随分と決着を急いでいるみたいだな。確かに数で不利なレオン軍からしたら、魚鱗の陣で早期に決着を付けたいだろう……しかしそう簡単にはいかないと知っているでは無いか。左右の軍をアルバート軍の横っ腹と背後に回させろ」


「はっ!」



 アドニス将軍は落ち着いている様子で、アルバート大将軍が勝負を焦っていると感じた。

 陣形の選択は悪くないが、この数の差ではダメだと性格に合わないセリフを吐く。

 そしてアドニス将軍は指示を出す。

 自軍の左右の兵士たちを、アルバート軍の横っ腹と背後に回させて挟み撃ちにするというものだ。

 魚鱗の陣は背後と横っ腹に弱い。

 完全に弱いところを突かれてしまった。

 普通ならば死ぬほど焦るところだ。

 しかしアルバート大将軍は違う。



「アルバートさま! アドニス軍の左右が分裂し、側面と背後に回り込もうとしております!」


「そうか、やはりアドニスはバカではあるがアホでは無いみたいだな。よし、こっちも動くぞ!」


「は! 全軍に通達します!」



 アルバート大将軍は魚鱗の陣を選択した事で、アドニス将軍が動いてくると考えていた。

 この状況はアルバート大将軍が作り出したものだ。

 部下からアドニス軍が動いたと聞いたアルバート大将軍は、こちら側も動くと言う。

 副長が全体に指示を出した。

 その指示通りにアルバート軍は魚鱗の陣から、方円の陣を取るのである。

 これは多方向に囲まれた状況で有利に進む。


 アドニス軍はアルバート大将軍たちを取り囲む為に、陣形を間延びさせてしまっていた。

 こうなれば数の差は、ほんの僅かであるが解消される。

 この状況をアルバート大将軍は考えていたのだ。

 そしてそれが上手くハマって、アルバート軍はアドニス軍を圧倒し始めたのである。



「やはり勝負を急いでいたわけでは無いのか……さすがはアルバート殿だ、そう簡単に決着が付くわけが無いか。それなら俺の手で自ら、アルバート殿の首を取ってやろうか」


「ちょっとお待ちください! アドニスさまのご意向に反しているのは承知しておりますが、どうか意見する機会をいただけないでしょうか」


「ライエス、お前にしては珍しいな。俺は気にしないから自分の考えている事を言ってみろ」


「は! ここは私に任せて頂けないでしょうか、この軍の大将であらせられるアドニスさまが行くには危険すぎるのでは無いでしょうか。もちろんアドニスさまが勝つのは目に見えているのですが、それでも危険なのには変わりありません。そこで私に任せて頂きたいのです!」



 アドニス将軍が動こうとしたところで、ちょっと待ったをしたのはアドニス軍の第5将《ライエス=リタラ》だ。

 武闘派であるライエスは普段からアドニス将軍を、神のように扱っていて意見するなんて素振りは一切として見せようとして来なかったのである。

 しかし今回は意見させて欲しいと言って来た。

 これには何かあると思ってアドニス将軍は、とりあえず話を聞いてみる事にした。

 ライエスは感謝を述べてから意見を始める。


 ライエスはアドニス将軍に変わって、自分に戦わせて欲しいと頼んだのだ。

 もちろんアドニス将軍とアルバート大将軍が戦ったら、アドニス将軍が圧勝するのは分かっている。

 しかし今回の敵は普段とは違うので、もしもの事があったら困るからと提案したのだ。

 アドニス将軍は「ライエス……」と呟いた。

 ライエスの目は、とてつもなく真剣なものだった。



「そうだな、大将である俺が動きすぎるのはマズイか。それならここはライエスに任せようじゃないか」


「アドニスさま! ありがとうございます! アルバート大将軍の首は、この俺が見事に討ち取ってみせます。ぜひともお待ち下さい!」


「あぁ期待しているぞ」



 アドニス将軍はライエスに任せる事にした。

 任されたライエスは、ゴツい男とは思えないくらいに目をキラキラさせて喜んでいる。

 子供かと突っ込みたくなるが、そこはグッと我慢する。

 そのままライエスは「行ってまいります!」と叫びながら馬を走らせてアルバート大将軍のところに向かう。

 アドニス将軍は微笑みながらライエスの背中を見送る。

 そして微笑んだまま近くに控えている副長の《アラルコス=オカカ》に「おい」と声をかける。

 するとアラルコスはアドニス将軍に駆け寄る。



「今この状況で離脱していい人数の限界はどれくらいだ」


「この状況からして……半分はいけるかと思いますが」


「そうか、500は離脱できるんだな? なら今から直ぐに500人を選別しろ」


「は? それはどういう事でしょうか」


「ここはライエスに任せる。俺たちは500人を連れ、レオンさまの本陣へと攻め込む」



 アドニス将軍はライエスに、この場を任せ自分たちは別働隊としてレオン軍の本陣を狙うと言うのだ。

 それを聞いたアラルコス副長は「マジか……」と思う。

 いきなり本陣を狙うのかと驚くのである。

 アドニス将軍の目は本気だ。

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