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085:ヘンホの戦い

085:ヘンホの戦い

 レオンとミケルの対立は明らかとなった。

 レオンの直轄地であるヘンホ村を、ミケルたちが押領し砦を築いたのである。

 これには静観を貫こうとしていたレオンも黙ってはおられず、直ぐに軍備を整え始める。

 大きな戦いになるという事で、準備は大変になるのであるが、軍備を整えるのと並行してアルバート筆頭家老の兄である《レジーナ=ムッツィ=ドサパノフ》が、ミケルたちの建てている砦の目の前に同じく砦を築き始めた。

 俺たちも練兵を続けていて、遂に8月22日に両陣営の砦が完成する。



「遂にボロック州で1番の兄弟喧嘩が終わるんだな」


「あぁここで悲しいが、ミケルさまを討ち取らないとボロック州を統一する事もできないだろうし、レオンさまが天下を統一する事はできないはずだ」


「確かにミケルさまは、絶対にレオンさまが良い思いをしようとしたら邪魔をするはずだ。コテンパンにやるだけじゃなくて、首を取らないと安心できないよな」



 俺とワイツは戦いの中心となるヘンホ村に向かいながら戦いの終わりについて話すのだ。

 兄弟喧嘩という括りを大いに超えているかもしれない。

 それでも兄のレオンと、弟のミケルが命を賭けて戦っていくのだから兄弟喧嘩だ。

 温情をかける事もできる。

 しかし首を取らない限りは、レオンが安心して天下統一する事ができないと俺たちは思っている。

 だからこそ負けられないのだ。


 俺たちは行軍して戦いが始まる前日には、ヘンホ村に到着するのである。

 この戦いには多くの騎士が参加する。

 総大将にはレオン、副将にはアルバート筆頭家老、左陣将にはケイネス大隊組頭、右陣将にはルシエン参謀総長、中央将にはアルバート筆頭家老が務める事になった。

 レオン軍の総勢は700人。

 これに対しミケル軍は、アドニス将軍の1000人とケダルヘイ兄弟の700人が合わさった1700人である。

 明らかに人数差はあるが、それでも戦わないわけにはいかないのだ。



「なぁこの戦い、勝てると思うか?」


「んー、勝てるんじゃないか?」


「そんな簡単に言うんじゃねぇよ……こっちは700人で、向こうは1700人だぞ? そう簡単に勝てるとは思えないんだけどなぁ………」


「なに弱気になってるんだよ! こっちには最強のレオンさまが着いているんだ、俺たちに怖い事はねぇんだよ。あと俺たちができるのは、レオンさまを信じて目の前の敵を薙ぎ倒していくだけだ」



 前の戦いの事もあって、俺は少しナーバスになっているのかもしれない。

 だから俺はワイツとアイゼルに勝てるかと聞いたのだ。

 するとワイツは勝てるんじゃないかと、何も考えていないように答えるのである。

 そんな簡単に言えるもんなのかと俺は呟いた。

 だって俺たちは700人なのに対し、向こうは1000人も多いのだからな。

 どうしたら簡単に勝てると言えるのか、俺は疑問に思って2人に聞くのである。

 この質問にワイツたちは、自分たちにレオンが着いているんだから心配は無いと胸を張っていった。

 だから俺たちは何も心配せず、目の前の敵を薙ぎ倒せば良いのだと、ワイツは胸をドンッと叩く。

 それを聞いて俺は、霧が晴れたような感じがした。



「そうだな、お前たちの言う通りだ……やってやろうじゃねぇか! 俺たちの力で、レオンさまに天下を取って貰おうじゃんよ!」


「お おう! 何が何だか、分からねぇけどやろうぜ!」



 俺は気合いが入った。

 どうして1回の失敗で、人生の全てに敗北という最悪な判断をしようとしてしまったのか。

 とにかく俺たちはワイツやアイゼルと共に、レオンを天下人にするべく頑張ろうと思った。

 そして夜が明ける。

 遂にボロック州で1番の兄弟喧嘩が、レオンとミケルの間で起ころうとしていたのだ。


 帝暦555年8月24日。

 軍議で決まった通りに布陣する。

 総大将であるレオンとミケルは、1番後方から向こうに見える敵総大将を見つめている。

 きっと2人は分かっているのだ。

 この戦いの勝者が、これからのソロー=ジルキナ家を引っ張っていくのだと。


 正午になった。

 俺は右翼に配置され、いつ戦いが始まるのかと血が煮えて来るような感覚になっていた。

 これはアドレナリンが出ている状態なのだろう。

 この状態になったら、戦いが終わるまで興奮状態のままだと戦いの経験値が言っている。

 そして待ちに待っていた開戦の合図を知らせる鐘が、ゴーンゴーンゴーンッと戦場に鳴り響く。



「突撃ぃいいいい!!!!!」


『うぉおおおお!!!!!』



 右翼の大将であるルシエン参謀総長は、俺たちに向かって突撃するように合図を出した。

 この合図に答えるように叫びながら走り出す。

 俺も大隊を率いるまでになったので、後ろの兵士たちを引っ張っていかなきゃと気合いが入っている。

 俺は大隊の組頭でありながら先頭を走っている。

 敵兵たちは鬼の形相である俺たちに、ビクビクしながら槍を構えていた。

 こちら側は兵士を専門としている人間で、向こうは農民から集めた兵士たちだ。

 この気持ちの差は大きなものとなる。



「何を怯えている! 向こうの人間たちは、我らが軍の半分以下なんだぞ! そんな人間たちに怯える必要は無い」


『おぉおお!!!!』



 上官が農民兵たちに、気合を入れさせた。

 俺たちが向かっている右翼は、ミケル軍の左翼を担当しているビューノサ軍とぶつかる。

 レオンを裏切った恨みがあり、普通より士気が高い。

 俺はスーッと息を吸い込むと、一気に力を込め槍を構えている敵歩兵に向かって振るうのである。


 俺の剣の勢いに敵歩兵の一部が吹き飛ぶ。

 その切り口からレオン軍の歩兵たちが、ドドドドッと流れ込んで行くのである。

 まだ戦争は、そこまで経験しているわけでは無い。

 しかし何故か、1番最初の突撃隊の役割に関しては誰にも負けないと思えてきている。

 そして今回もそうだ。

 上手く突撃ができた。



「ドンドン、周りの敵兵たちを斬れ! こっちは倍以上も違うんだ、1人が3人を斬るまで死ぬ事を許さん!」


『おぉおおおお!!!!!』



 俺は大隊の部下たちに、周りにいる兵士を3人斬るまでは死ぬ事を許さないと叫んだ。

 それは当然の事だろう。

 目の前にいる敵の数は、自分たちの倍以上の数なんだ。

 それくらいしなければ倍以上の数の敵に、勝利する事は不可能だと俺は思っている。

 もちろんそう発言した俺は、普通の兵士の3倍は斬る。

 目に入った敵兵を、片っ端から斬りかかる。


 すると背後から異様な殺気を感じ、パッと振り返ると笑みを浮かべている男が斬りかかって来ていた。

 咄嗟に剣を出して男の攻撃を防ぐ。

 しかし体勢が悪かった事もあって、攻撃は防げたが数メートル弾き飛ばされた。

 俺を弾き飛ばしたのは、どこの誰かと顔を上げる。

 そこには30代くらいで卵型の輪郭をしている体格の良い男が立っていたのである。



「こんなガキが歩兵大隊の組頭だって? 随分と面白い事をしてるなぁ、レオン軍ってのはよぉ!」


「アンタ……誰だ? 最後の最後の殺気以外は、近づいて来たのに気が付かなかった。随分とやれるな?」


「まぁそれなりにはやれるぞ?」



 男は終始ニヤニヤしている。

 男のニヤケヅラに苛立つ。

 しかしこの男が強いというのは、忍び寄って来た時の上手さから見ても確実だろう。

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