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084:愚かな行為

084:愚かな行為

 俺たちはヘンホ村に物資を輸送するのだが、このヘンホ村はレオンが仕切っているタールド城とウスタ城の中間地点にある村だ。

 この立地な為、レオンとミケルの戦いになったら最前線となるのは必至だろう。

 だからこそレオンは戦争に備えて、物資をヘンホ村に運び入れているのである。

 俺はその輸送の護衛をする部隊に入った。


 半日かけてヘンホ村に到着した。

 やはりレオン贔屓であるヘンホ村は、俺たちがやって来たのを大いに歓迎してくれている。

 歓迎されていなければ物資の搬入は時間がかかる。

 しかし村人総出で手伝ってくれるので、俺たちは予想の半分の時間で物資の搬入を終えた。

 その間も俺たち兵士は周りを警戒している。

 盗人たちが襲いかかってくるかもしれないからだ。


 すると俺では無いが、別の見張っている兵士の1人ざ目を凝らして遠くの何かを見ようとしている。

 その方向はウスタ城の方向だ。

 何かあるのかと俺も視線を、その兵士の方に向ける。

 俺も兵士は視界にとらえ「なっ!?」と声を出して驚いて、これは急いで周囲に教えなければとアタフタする。

 そんな俺たちを見たイーレンが俺のところに来る。



「どうかしたのか? 何か怪しいものでも見つけたか?」


「それがウスタ城の方向から砂埃が見え、誰かと思って目を凝らしたら旗が掲げられていました」


「旗? どこの旗だ?」


「ケダルヘイ家の家紋が入っているかと……」



 俺たちが発見したのは、反レオン派の筆頭格でもあるケダルヘイ兄弟の旗だった。

 まさか攻めて来たのかと俺たちは驚いたのだ。

 その説明を聞いたイーレンは、考えているような表情をしてから俺たちに「よく気がついた!」と言って、もっと上の上官に話を伝えに行った。



「急いで防御陣形を組め! レオンさまの家臣で有りながら、与力のミケルに肩入れしている裏切り者の軍だ!」



 上官である男は、軍全体にケダルヘイ兄弟は敵と判断しても良いと叫ぶのである。

 その為、軍は直ぐに防御陣形を取る。

 この陣形のままケダルヘイ兄弟の到着を待つ。

 こっちから手を出すわけにもいかないので、どうやってくるのかとケダルヘイ兄弟の動きに注視する。


 次第にケダルヘイ兄弟たちが近づいてくる。

 俺たち兵士たちは戦いが始まるのかと、緊張感が走った上で、体に力が入るのである。

 しかしこれだけ身構えている俺たちを嘲笑うように、剣を引き抜く事なくニヤニヤしながら上官の前で止まる。

 どうやら今のところは戦闘の意思は無いらしい。



「こんなところで、何をしているのかな?」


「ここで何をしているかって? レオンさまの領地なんですから、その領地に物資を運び込んでるだけですよ。何か文句でもあるんですか?」


「そうか、ここはレオンさまの直轄領かぁ。それにしても良いところだよなぁ……そうだ! ここくれよ、ミケルさまが治めるのに相応しい場所だ」


「くれよって、アンタねぇ。そんな事できるわけないでしょn……」


「誰に向かって、そんな口効いてんだ?」



 ビューノサ中隊組頭はダル絡みするように、この村をミケルにあげて欲しいと言うのだ。

 もちろんダル絡みだと上官は分かっているので、そんな事できるわけないと溜息を吐きながら断った。

 するといきなりビューノサ中隊組頭は剣を抜いた。

 そのまま躊躇する事なく上官の首を刎ねた。

 刎ねた時のビューノサ中隊組頭の顔は真顔だった。


 俺たちは目の前で上官を殺されたので、一気に血が頭に昇って剣を握る。

 今ここで戦いが始まるのかと緊張感が走った。

 俺としては喧嘩を売って来たのは、向こうなのだから戦っても良いと思っている。

 しかし上官たちは動揺している上に、戦う度胸が無い。

 全軍に対し「撤退だ!」と叫んだ。


 上官の指示に従わないわけにはいかないので、俺たちは物資を持てるだけ持って撤退していった。

 振り返ってみるとビューノサ中隊組頭たちが、高笑いしているのが見えた。

 別に向こうとしても背を討つつもりは無いらしい。

 それにしても腹立たしい奴らだ。

 領地と当主の座が欲しいのならば、真っ向からレオンや俺たちに挑んで勝利すれば良いのに。

 度胸もないのに騎士を名乗るなと思った。


 この事は直ぐにレオンたちの耳に入る事なる。

 もちろんだがレオンの側近であるルシエン参謀総長たちは額に血管が浮かび出るほどに怒っている。

 これだけの挑発を受けた事が無いのだろう。

 今にも飛び出して行こうとするくらいの怒りを、オーラとして全身から放っているのである。



「レオンさま! これは明らかな宣戦布告ですよ、黙って見過ごすわけにはいきません!」


「そうかぁ? これも今までと同じ挑発だろ?」


「しかしこれを見過ごせば腰抜けだと思われてもおかしく無いんじゃないですか!」


「ルシエンにしては珍しく燃えてるじゃないか。まぁ確かにルシエンの言っている事は筋が通っているな、このまま黙って見ていたら周りからは力を失ったと思われかねないか……よし! 入念に準備をするぞ!」


「は! 承知しました!」



 ルシエン参謀総長は普段の冷静な感じとは異なり、声を荒げて戦うべきだと主張するのである。

 まさかそんな事を言われるとは思っておらず、レオンは少し「ほへ」と笑みを溢す。

 ルシエン参謀総長にしては珍しいからだ。

 戦いたいルシエン参謀総長の主張は、明らかな宣戦布告に対応しなければ腰抜けと言われる可能性があると、だから戦いたいのだと言う。

 本当は挑発に乗るような事はしたくないレオンだが、今回の事に関してはルシエン参謀総長の主張も正しいとし、戦争に備えて準備を始めろと指示を出した。

 家臣団たちはミケルたちとの戦いに備える事にした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ビューノサ中隊組頭がレオン軍の兵士を殺した事は、少なくともミケル陣営も動揺させる結果となった。

 今回の事に異議を申し立てたのは、ビューノサ中隊組頭の弟であるジョゼキニ中隊組頭とアドニス将軍の2人だ。



「今回の事に関しては、明らかな握手にしか思えん! これはどういう事なのか、説明して貰おう!」


「アドニスさま、そんな事を言っている暇があると思っていますか? 明らかにレオンさまは、少しづつ力を戻しつつある。うかうかしていたら、こちら側から手を出す事が不可能になってしまう」


「それでも兄貴はやり過ぎだ! これでは周りから見たら我らが賊軍では無いか!」



 アドニス将軍とジョゼキニ中隊組頭は、今回の事について握手であると非難した。

 しかしビューノサ中隊組頭は悪びる様子は無い。

 これはミケルの為にやった事だと声高々に宣言する。

 2人は間違った事をしたと思っているが、心の底ではビューノサ中隊組頭の言っている事も理解できる。

 やらないよりもやった方が良いのかと混乱して来る。



「3人とも、ここで仲間割れは止めてくれ。俺たちの敵はレオンであって、身内を突いている暇は無い……それにもう起こってしまった事は、無かった事にする事はできないのだからな」


「それは確かにそうですが、こんな事を続けていればミケルさまの評価が下がってしまいますぞ。そこら辺を、どう考えていらっしゃるのか」


「アドニス、お前には大いに世話になっている。しかし俺の指示に従えないというのならば、レオンのところに行っても構わないぞ? 俺はこういう方針で、レオンに勝利しボロック州を手中に納めるんだ」



 アドニス将軍の忠告を、ミケルは否定して指示を聞かなければ出ていって良いと宣言する。

 これでは何も言えなくなってしまう。

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