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083:好き勝手に

083:好き勝手に

 俺たちがウスタ城に行ってから1ヶ月が経った。

 時期は6月に入ってきて、俺は怪我が完全回復し練兵でも本調子が戻ってくる。

 何なら怪我する前よりも調子が良い。

 そんな最中でミケルは大きく動き出した。

 ミケルはソロー=ジルキナ家において、当主しか名乗る事ができない初代の名前である《ビリーテスト》という名前を自称し始めたのである。

 これは明らかな挑発だと誰もが思った。



「レオンさま、これはどういたしましょうか? 明らかにミケルさまは、レオンさまを挑発しています。乗らないのも良いとは思いますが、このまま調子に乗らせるのもいかがなものかと考えています」


「頭がカチカチなミケルが、こんな事を考えるとは全くもって思えない……という事は、周りにいる誰かが指図をしている可能性が高いな」


「ミケルさまの周りで、ミケルさまに指示を出せるのは限られていますね。それこそアドニス殿とかですか」


「あぁ1番最初に思いつくのはアドニスだろうな……だが、アドニスのような単純な男に煽るという選択肢が出てくるとは考えずらい。そうなれば他に指示を出せる人間」


「まさかビューノサとジョゼキニですか!? アレらははレオンさまの家臣であり、ミケルさまのところには与力で行っているだけのはず……」



 ルシエン参謀総長は煽り散らかしているミケルを、このまま放置しても良いのかと聞いた。

 もちろん煽りだと思っているので、わざわざ手を出さなくても良いとは思える。

 しかしそのままやらせておくわけにもいかない。

 このままではミケルたちが調子に乗る可能性が高い。


 そんな中でレオンは、頭がカチカチなミケルに相手を挑発して攻撃を仕掛けさせるという事は考えずらい。

 つまりミケルの周りにいる発言力のある人間が、動いている可能性が高いと指摘する。

 その第一候補としてアドニス将軍が上がった。

 しかし性格や思考を考えれば、アドニス将軍が考えた作戦とは思えないとレオンは語る。

 ならば残った人間をルシエン参謀総長は考えた。

 すると思い当たる人間がいた。

 それはビューノサ中隊組頭とジョゼキニ中隊組頭のケダルヘイ兄弟だった。

 この考えはしたくは無かった。

 2人はミケルの与力であり、忠義はレオンにある為だ。



「でも、どうしてケダルヘイ兄弟は与力でありながらミケルさまに手を貸しているんでしょうか? 明らかに忠義の意思とは異なるように感じますが」


「アイツらは俺たちが生まれる前から、ソロー=ジルキナ家に仕えている。そんな忠義を示さなければいけない主人の家の当主が、新たに破天荒な人間が就くってなったら文句があるんじゃないか? 親父殿の性格に最も似ているのは、ミケルなのは俺も思っている事だからな」


「そうですね、奴らは昔が見ていますが、保守的なところがあると思っていました。時代を大きく前に進めようとしているレオンさまは、主君に仰ぐにしては危険な要素が多くに孕んでいると考えたんでしょうね」



 ケダルヘイ兄弟の忠義に反する行動は、どうして起こってしまったのかとルシエン参謀総長は聞く。

 この兄弟はレオンたちが生まれる前から、ソロー=ジルキナ家に仕えている古参である。

 そして保守的なところもあった。

 この2つが重なって破天荒であり、現状を大いに覆そうとしているレオンが恐ろしかったのだろう。

 それなら先代に似ているミケルを、本当の当主に据えたいと考えたはずだと、レオンは考えている。



「それではどう致しますか? ケダルヘイ兄弟が不穏な動きをしているのならば、主君の命令と称して誅殺するという事もできると思いますが」


「いや、まだ様子を見ようじゃないか。向こうを俺を動かそうと必死になっているんだ、どんな事をするのか面白そうだとは思わないか?」


「それは確かにそうですね、向こうは悪巧みのケダルヘイ兄弟に腕っぷしのアドニス将軍ですからね。どんな事をしてくるのか、ちょっと楽しみになって来ます」


「そうだろ? この件に関しては静観という事にして置くとして、戦いの準備だけは怠るなよ? ヘンホ村に物資を運んでおけ、そこが最前線になり得るからな」



 ルシエン参謀総長はケダルヘイ兄弟を、主君への謀反の疑いアリとして誅殺するかと確認した。

 しかしレオンは、それを望んでは居なかった。

 こんなに面白い状況は、中々ないと面白がっていた。

 ミケルたちは、レオンを動かす為に必死になっているのだから、どんな事をするのかと笑すら浮かべている。

 そんなレオンにルシエン参謀総長は「さすが」だと心の中で思うのである。

 向こうは腕っぷしのアドニス将軍や、悪巧みをするのには向いているケダルヘイ兄弟なのだから、どんな手を使ってくるのかとルシエン参謀総長すらも面白がっている。


 だが状況は見るとしても、戦いになるのは避けられないだろうからと、ルシエン参謀総長に戦争の準備だけはするように指示をする。

 戦いの最前線になるであろうヘンホ村に物資を運ぶように、それだけは言って置くのだ。

 ルシエン参謀総長は早急に手配をすると言った。

 そしてその物資輸送の警備隊に、俺も配属される事になったのである。

 この頃に俺はルバート将軍を討ち取った事による功績として、歩兵中隊組頭に昇格していた。



「お前が例のフェリックスか? ルバート将軍を討ち取った上に、あの戦いで生き残ったっていう」


「え? あぁ……はい、そうですけど」


「おぉ! そうかそうか。凄い活躍だったって聞くぞ」


「いやぁ、アレは兵士である俺からしたら、何もできなかった戦いなので……誇れるわけじゃあ」



 俺が物資の横を周りを確認しながら歩いていると、そこに味方の騎兵が1騎やってくる。

 そして俺にルバート将軍を討ち取り、戦いに生き残った人間なのかと聞いて来た。

 俺は作り笑いをしながら答える。

 すると興奮しているみたいだ。

 しかし俺的には守護対象を守れなく、俺だけが生き残ってしまったので恥ずかしい限りだと答えた。



「生き残った事が恥ずかしくて誇れない? なに言ってんだよ、生き残る事の何が悪いんだよ?」


「守るべき対象を守りきれず死なせた上に、自分の命だけが助かっているのがどうも……」


「その考えは改めた方が良いな。お前は真っ正面からリキャルドと戦った上で生き残ったんだろ? そこの何に恥ずかしさを感じるんだよ、もちろん主君を置いて惨めに逃げて来たっていうなら話は別だぞ?」



 この騎兵は俺に生き残った事を、恥ずかしく思うという思考を変えた方が良いと言うのだ。

 真っ正面から主君を守る為に戦って、その結果が今回のようなものなら仕方ないとしか言えない。

 もしもこれが逃げて来たっていうなら話は別だ。

 それは主君を置いて逃げたという最悪の汚名によって、生き残ったという言葉が悪になる。

 戦って生きていたなら運が良かったと思うべきである。

 それくらいの気持ちでなければ、これからの戦場では生き残れないと騎兵は教えてくれた。



「ご指導ありがとうございます、おかげで思考が少し変わりました。お名前を聞いても宜しいでしょうか?」


「俺か? 俺は下級家臣の1人で小隊組頭を仰せつかっている《イーレン=クレサン》だ!」



 俺の思考は少しだけ変わった。

 新しい考え方を教えて貰ったので、俺は深々と頭を下げて感謝を伝えるのである。

 この人は下級家臣の1人《イーレン=クレサン》だというらしく、小隊組頭だったのでワイツとアイゼルと同じ階級となる。

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