082:大きな兄弟喧嘩
082:大きな兄弟喧嘩
メッサーとの会談を終えた俺たちは、早馬の伝令兵に会談の内容を書いた密書を渡す。
その早馬が出発するのを見送ってから酒を飲みに行く。
一仕事が終わったところでの酒なので、とてつもなく美味しくて「ぷはぁ!」と歓喜する。
もちろん酒のアテもある。
前世では酒が飲めなかったが、やはりこうなると生まれ変わったんだと思えて来る。
「それにしてもジェイルさまっていうのは、どんな人だったんだ? そこまで詳しくないんだよ」
「俺たちも、そこまで関係があるってわけじゃないんだけど……イメージで言えば礼儀正しくて、頭がキレるってところかな? まぁ破天荒って感じのレオンさまに比べたら、性格は正反対って感じだな」
「似てるっていうところだけなら、レオンさまよりもミケルさまの方じゃないか? まぁミケルさまに比べたら、頭が堅いって感じじゃないけどな」
俺は酒を飲みながら2人に、ジェイルについて何も知らないので質問する。
2人は互いに顔を見合わせながら腕を組んで考える。
レオンに仕えている2人からしたら、ジェイルについては詳しく知らないのである。
しかしイメージでジェイルについて話す。
ジェイルは破天荒なレオンに比べ、礼儀作法もキッチリとしていて頭がキレるというのだ。
つまりレオンとジェイルは正反対なのである。
近く人間で言えばミケルの方だと答えた。
まぁミケルに比べたら、ジェイルの方が頭が柔らかい。
レオンが長男を務めるソロー=ジルキナ家の兄弟たちは、とてつもなく癖の強い集団だ。
「頭がキレる人なのか。なのに重臣に謀反を起こされて、殺されるなんて矛盾してないか?」
「まぁ確かに言われてみればなぁ」
ジェイルという男は、頭がキレると言っていたが、ならばどうして殺されてしまったのかと思った。
頭がキレるのならば謀反の兆しも気がつきそうなのに。
そこの矛盾点に気がついた俺は、2人におかしくないかと聞いたら、ワイツは同意してくれた。
そしてアイゼルは「あ!」と大きな声を出す。
ビックリした俺たちは、口に含んでいた酒を吹き出す。
「ど どうしたんだよ! いきなり大きな声出して」
「俺、気がついたんだけどよ!」
いきなり大声を出して、どうしたのかと俺たちは聞く。
アイゼルは何かに気がついたと言うのだ。
普段はお馬鹿なアイゼルが、そんな事を言うので俺とワイツは互いの顔を見合って「本当か?」と聞く。
大きな声では言えないと思ったアイゼルは、周りをキョロキョロしてから俺たちに、近寄るように手招きしてテーブルの中央に集まるのである。
「確かメッサーが、城主の後釜に推薦したレナードさまって……ミケルさまを推していなかったか?」
「確かに! そう言われれば家督相続の時に、レオンさまではなくミケルさまを推していた!」
「そうなのか? その時は、ただの使用人だったから知らないんだよな……っていう事は、レオンさまの味方になるかもしれないジェイルさまを殺したって事か?」
アイゼルが思いついたシナリオは、これである。
元々ジェイルは家督相続の時にレオンにも、ミケル側にも着いていなかった。
そんな中でジェイルの重臣であるメッサーに、ミケル陣営が接触し何らかの条件を出してジェイルを誅殺させた。
そしてウスタ城の城主にはミケル派である叔父のレナードを据えさせる事を考えたのだ。
「確かに筋が通っているよなぁ」
「じゃあ自分の敵になると分かっている人間を、レオンさまは城主には認めないよな?」
「あぁそうなれば和睦は破棄され、ウスタ城との激しい戦いになるだろうな」
普段はお馬鹿なのに、今回は筋の通った話をした。
確かにそうなれば自分の敵になる人間を、わざわざ城主にする人間なんていない。
レオンは和睦を破棄し戦いの道を選ぶだろうと思った。
そこからさらに深掘りしていく。
「もしかしたらミケルさまは、我らとメッサーが戦いを始めたのを見て戦いに参加する気じゃないか?」
「確かにそうなれば自然な流れで戦いに参加できる。それが狙いだったのか……」
「向こうにはアドニスさまがいる……もしも戦いになったら激しい戦いになるぞ」
ミケルたちの考えが分かってきた。
このまま俺たちと、メッサーの戦いが始まったらミケルたちは自然な形でメッサー側に加勢するつもりだ。
そうなればレオンたちを滅ぼし、名実ともにミケルがソロー=ジルキナ家の当主となれる。
これはかなりキツい。
ミケル側にはボロック州において、最強と名高いアドニス将軍が着いている。
そうなれば激しい戦いが予想される。
「まぁとにかくレオンさまの考えを尊重しよう」
「そうだな」
俺たちが考えたところで、どうにもする事はできないのでレオンの考えを尊重する事にした。
とりあえず今は忘れて酒を飲み交わす事にする。
そしてこの日から2日後に、レオンは新たに使者をウスタ城に送って和睦の答えを伝える。
レオンはメッサーが提案した全てを呑んだ。
つまり城主もレオンに敵対するであろうレナードを据えると言ったのである。
これにはメッサーも少し動揺した。
急いで密書をミケルのところに送る。
「これは想定外です……まさかレオンさまが、これを了承するとは思っておりませんでした。もしかしたらレオンさまは、この仕掛けが分かっていないんでしょうか?」
「いや、兄上が気が付かないわけが無い。ジェイルが殺された時に、この事には気がついていたはずだ……これは我らをおちょくっているんだ。分かっていながら乗ってやるからかかって来いってな」
ビューノサ中隊組頭は、ミケルにレオンは何も分かっていないのかと困惑しているのかと話す。
作戦を考えているビューノサ中隊組頭からしても、これは予想外の事だという事だ。
これに対しミケルは、レオンについて話す。
何も分からず了承したのではなく、全て理解した上で挑発する意味を込めて了承したのだと語った。
見透かされているかのような態度に、窓辺に立っているミケルの顔が怒りで歪んでいる。
本当にレオンが嫌いなのだと分かる。
「ビューノサ」
「は!」
「これからどうすれば良いと思う? このレオンを殺害する為の道筋を考えたのは、お前だろ?」
「それならば思い切った事をするのはどうでしょうか?」
ミケルは窓の外を眺めながら、ビューノサ中隊組頭の名前を呼ぶのである。
これからはどうすれば良いのかと聞く。
このレオンを排斥する為の作戦を考え出したのは、ビューノサ中隊組頭とジョゼキニ中隊組頭のケダルヘイ兄弟であり、何か代案は無いのかと作戦を出すように促す。
そこでビューノサ中隊組頭は思い切った事をしようと、ミケルに提案する。
「思い切った事? こちら側から兄上に攻め込むのか?」
「いえ、こちら側から手は出しません。向こうから手を出させるんです」
「こちらからは手を出さず、向こうから手を出させる」
「はい! レオンさま陣営を、大いに煽って攻撃させるわけです。レオンさまは、私の肌感では煽られれば反応してしまう気質だと思っています。なのでミケルさまが、レオンさまを煽って戦いを引き起こさせるんです」
ビューノサ中隊組頭がミケルに提案したのは、煽りに弱いであろうレオンを煽り倒すというものだった。
馬鹿みたいな作戦に感じるがミケルは可能性を感じた。




