081:明け渡す為に
081:明け渡す為に
これはレオンに変わっての公式の訪問なので、俺は身分の事を考えてワイツとアイゼルの後ろを歩く。
城主代行をしているメッサーの家来に案内して貰う。
メッサーの政務室に入ると、メッサーであろう男が疲れ切った表情で椅子に座っていた。
俺たち3人は深々と頭を下げて挨拶をする。
「レオン=ソロー=ジルキナが家臣、下級家臣の《ワイツ=ポゼッティ》と申します」
「同じく下級家臣《アイゼル=クトシモフ》と申します」
「そうか、俺はウスタ城城主代行をしている《メッサー=パウジーニ》だ。わざわざこんなところまで来て貰って悪いな……こんな事になるとは、俺も想定していなかった」
歩兵である俺は座る事も喋る事も許されない。
2人の後ろにピシッと立って話を聞く。
メッサー城主代行は、主君を殺しているのだから凄い人間なのだろうと思った。
しかし顔を合わせてみたら印象が異なる。
小太りではあるが目の下にはクマがあり、全身からは疲れているといったオーラが漂っている。
こんな人間が主君殺しのをしたのかと疑うくらいだ。
本人もこんな事になるとは思っていなかったらしい。
どの口が入っているのかと思いながらも、ワイツとアイゼルは話を先に進める。
「メッサー殿、城を渡しては貰えないでしょうか? このままでは大きな身内の戦いになりかねません。我々には、そんな事をしている時間はないんです」
「どうでしょうか? こちらからは城を明け渡して貰えればメッサー殿の条件も考慮すると、レオンさまは仰っておりました」
「レオンさまが、そんな事を仰っていたのか。もちろんこちらとしてもレオンさまが、そこまで仰るのならば明け渡しても構わないとも……しかし! 2つだけ条件と言ったら聞こえが悪いが、約束して欲しい事がある」
「約束して欲しい事ですか? まぁある程度の決定権は任せられているので、話だけでも伺わせて頂きます」
ワイツとアイゼルは、レオンが言っていた事をメッサー城主代行に伝えるのである。
レオンの言っていた事とは、城を明け渡してくれるのならば求めている事を考慮するというものだった。
そんな事をレオンが言ったのかと、メッサー城主代行は驚きながら頭をポリポリと掻いた。
そこまで言われたら断る事なんてできない。
しかし明け渡しても良いが、約束して欲しい事があるとメッサー城主代行は目力を強くして言った。
ある程度の決定権を持っているワイツたちは、少し顔を見合わせてから何かと聞いた。
「まず1つ目は、俺の家臣たちに処分を下さないで頂きたい。今回の謀反を考え、決行したのは俺だけであり家臣たちは、俺の命令を素直に聞いただけだ。是非とも命を助けて頂きたい!」
「それでしたら、レオンさまもお認めになるでしょう。私たちからも命を助ける事を善処させて頂きます。それで2つ目のお願いというのは?」
「この2つ目のお願いこそが、最も重要な事だ。この城を明け渡した後に、新しい城主を立てるだろ?」
「えぇ当然そういう事になるでしょうね」
「そこで新たな城主に……《メナード》さまを立てて頂きたい! これは絶対にだ!」
メッサー城主代行が、城を明け渡す条件として挙げた1つ目は家臣の命を助けて欲しいというものだった。
もちろんこれに関してはレオンも考えていたので、ワイツたちに許可するように言っていた。
その為、易々と許可される事になるのである。
重要なのは2つ目だった。
メッサー城主代行は、城を明け渡した後に新たな城主としてメナードという名前を挙げた。
この人間にして欲しいと。
メナードとはレオンたちの叔父さんであり、シーメンやレオンの父親とは兄弟の人物である。
まさかそんな人間を指名するとは思っておらず、ワイツたちは困惑する。
「れ レナードさまですか、それは……どうして?」
「どうしても何もないだろ? 城主というのは、それに見合うだけの才覚が無ければならない。レナードさまならば城主に相応しいと思っているだけだ」
「そ それは……さすがに私たちだけでは、判断しきれませんので、その件に関してはレオンさまに報告してみなければ、お答えしかねます」
ワイツはどうしてレナードを、この城の城主にしたいのかと聞いた。
質問にメッサーは城主に相応しいからと答える。
これに何とも言えないワイツたちは「うぅん……」と困惑しながら悩んでいる。
この件は自分たちの判断域を超えているとした。
帰城してからレオンに伝えると答える。
その俺たちの態度に、メッサー城主代行は「うんうん」と満足げな顔をしながら椅子の背もたれに寄りかかった。
「これで今、話せる事は話し切りましたかね?」
「そうだな、あとはレオンさまの判断を仰ぐだけだ。それで今日は、どうするつもりなんだ? もう外は暗くなって来ている、今夜はココに泊まって行ったらどうだ?」
「いえ、そういうわけにはいきません。こんな事を言うのは、とても心苦しいですが……貴方は主人を殺した大罪人なんです、そんな人間の城に泊まるという事は容認する行為と取られても仕方ありませんので」
「そりゃあそうだ、こっちも建前として言っただけだ。そうカリカリするんじゃない」
もう外が暗くなっているので、今日はウスタ城の城下に泊まる事にした。
メッサー城主代行は城に泊まらないかと言って来た。
滞在人のいる城に、レオンの配下の人間が泊まれば問題になりかねないと答える。
断られた事にメッサー城主代行は笑いながら「建前だから気にするな」と返した。
何も笑えないまま、愛想笑いだけをしてウスタ城を後にするのである。
俺は「何か変じゃないか?」とワイツたちに言った。
「確かに気になるところがあるよな。どうして後釜の城主にレナードさまを指名したのか……」
「あとは今回の謀反の作戦を、本当にメッサーが主導で考え実行したのか」
俺とワイツは2人で、今回の件に関して気になるところを挙げて話している。
その時アイゼルは、俺たちの方を交互に見る。
何かおかしいと感じながらも、俺たちの脳では考えつかないと溜息を吐く。
そんな俺たちを見かねたアイゼルが肩に手を回す。
「とりあえず今、考えたって仕方ないだろ? それなら悩んでないで、パァッと酒を飲んで楽しもうや!」
「アイゼルらしい考えだな……」
「まぁアイゼルの言う通りかもしれない。今日は大仕事も終えた事だし、酒を飲んで行こうじゃないか」
アイゼルは考えても分からないなら、ここで考えても仕方ないと笑いながら言う。
なら悩んでいないで酒をパァッと飲もうと提案する。
これはアイゼルらしい。
俺は確かにアイゼルの言う通りであるとして、ここは酒を飲んで行こうと切り替える事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サムス城の城主であるミケルのところに、現在は与力として配置されているビューノサがやって来る。
本来はレオンの家臣であるが、今はミケルに肩入れしているところなのだ。
「報告いたします、メッサーにはレオンとの和解条項としてウスタ城の城主にレナードさまを据えるように指示いたしました」
「そうか……これで万事問題ないんだろうな?」
「はい! ここからです、我らがレオンの首を取り……ミケルさまは、このボロック州の覇者になるのです」
今回のメッサー事件には、ミケルたちが一枚噛んでいたのである。




