079:心落ち着く
079:心落ち着く
俺はレオンに宥められながら、起き上がらせて貰って政務室の椅子に座らせて貰った。
泣いていた俺を気遣って温かい紅茶を淹れて出してくれたのである。
それをゴクンッと飲んで「ふはぁ……」となった。
やっぱり温かい飲み物って凄いな。
さっきまでの辛い気持ちが、スーッと落ち着いた様に感じ、冷静さを少し取り戻した。
「聞いたんだけどよ、ルバート将軍を討ち取ったっていうのは本当か? リキャルド尊極大名は若い兵士に討ち取られたって言ってるらしくてな、送り出した歩兵の中でフェリックスよりも若くて強い人間を知らねぇんだ」
「そうですね、ルバート将軍を一騎打ちの末に討ち取りました。その時に、こんな大きな傷を貰いましたけど」
レオンは落ち着いたところで俺に、ルバート将軍を討ち取ったのは俺かと聞いて来た。
それに俺は小さく頷いた。
激しい戦いだったのは覚えているが、どうも出血やらで頭がポワワッとしていて、細かいところは記憶が飛んでしまっている。
そして俺はレオンに傷を見せる。
それはルバート将軍から受けた傷である。
エドマンズさんの治療の力で傷口は塞がっているのだが、さすがに傷跡だけは消せない。
俺の胸には大きな切り傷が付いている。
傷を見たレオンは目を細め痛々しいと感じている。
「それだけの傷を受けながらも、ルバート将軍を討ち取るのは凄いな。四天王では無いが、その実力は他国も認める将軍だ……それを討ち取ったとなると、フェリックスという名は帝国中に轟くかもな」
「別に凄い事をしたって実感は無いんですよね。とにかくルバート将軍が強くて、必死に生き残る事だけを考えて戦ってました。その結果が俺の勝利だっただけで、俺が討ち取られるという結果になってもおかしく無かったと今でも思ってます」
「アレだけの大物を、一歩兵であるフェリックスが討ち取ったんだぞ? 普通の歩兵だったら、万歳三唱から周りへ自慢するような気がするが……お前は落ち着いてるな。悪い事じゃないが、喜んだって良いんだぞ?」
レオンはルバート将軍は、グルトレール四天王では無いが、もちろん帝国中に名前を轟かせている将軍の1人であるのには変わりない。
もしかしたらルバート将軍を倒したのは、ボロック州のフェリックスだと知れ渡るかもしれないと言う。
しかし俺からしたら、あんなギリギリの戦いで、ほんの少しの違いから俺が殺されていたかもしれない。
だから手放しで喜ぶ事はできないと思ったのだ。
この姿にレオンは「腰が低い」と感じたらしい。
普通の歩兵だったら大喜びして、周りに自慢するくらいの武功であるのは確実だ。
それをしないなんて凄いと思ったみたいだ。
「本当に紙一重だったんで、もしも2回目があったら負けるかもしれません。ここは慢心せずに行きます!」
「真面目だなぁ、その真面目さが良いんだけどな。そうだ、ここを出たらワイツとアイゼルに顔を見せてやるんだぞ? アイツらは、お前の事を本気で悲しんでたんだからな」
「はい、とても誇らしいです。そんな人間を作れるとは思っていなかったので、頑張ろうって気合いが入るんですよね」
「それは良い事だ、そうなれる友こそが本当の戦友になれると俺は思うぞ」
レオンもワイツとアイゼルが、本気で悲しんでいたと言っている。
そこまで悲しんでくれるってなると嬉しい。
俺はレオンとの話が終わったら、直ぐに2人のところに行こうと決めた。
ここからは戦いで何があったのかを話す。
「……っていう事が、今回の戦いの全てです」
「そうか、そんなにリキャルドは強かったか。そりゃあ親父殿も負けるわけだ、アレは先代を超える武の天才なのかもしれないな」
「はい、俺も戦った中では群を抜いて強かったです。ルバート将軍が子供に思えるほどに」
「フェリックスが言うのだから、そうなんだろうな……だがな、少し前の話を聞いたら印象は最恐って感じだったんだろうな。今となっては人間味を感じる」
「何かあったんですか?」
俺の知るリキャルド尊極大名は、とてつもなく殺気を放っている化け物というイメージだ。
レオンは俺の話を聞いて、その話だけを聞いたら最恐であると言った。
しかし今は人間味を感じると言うのだ。
どうして人間味を感じるのかと、俺は首を傾げる。
気になったので、どうして人間味を感じるのかとレオンに聞いてみたのである。
「リキャルドは、ディルスとの戦いの後に城の敷地内に教会を作ったんだよ。それまでは信仰心なんて無かったが、教会を作ったら毎日のように礼拝するようになったんだよ」
「それは何とも……人間味を感じますね」
「そうだろ? 父親を殺した次の日に、子供をこさえるくらいの勢いがあると思ったんだけどな。怪物や化け物の類なら、俺も手を焼くと思ったが……人間なら俺の敵では無い」
リキャルド尊極大名はディルスとの戦いが終わった後に、城の敷地内に教会を作ったのだ。
戦いの前までは信心深いわけでは無かった。
しかしディルスを自らの手で殺した後は、毎日のように礼拝していると言うのである。
レオンとしてはディルスを殺せるだけの力を持っていて、性格も怪物のような人間だったら、かなり手こずると考えていた。
だがリキャルド尊極大名には人間味があった。
これにレオンは可能性を感じていた。
「まぁとにかくリキャルドには、これからやり返してやろうじゃねぇか。親父殿の仇討ちは、俺たちがやらなきゃいけないんだよ」
「そうですね、チャンスがあればリキャルドの首を取ってやりたいです……次は絶対に」
「俺たちでリキャルドの首を取ってやろう」
俺たちの話は1時間に渡った。
もっと話したいところではあったが、これ以上は政務にも支障が出るので止める事にした。
足枷になるわけにはいかないからだ。
俺は深々と頭を下げてから、政務室を後にする。
久しぶりにレオンと話したので、かなり緊張して扉を閉めたところで「ふぅ……」と深呼吸をして落ち着く。
落ち着いたところで、俺は心配してくれたワイツとアイゼルのところに行こうと思った。
今はどこにいるのかと考えていると、後ろから「フェリックス!」という呼ぶ声が聞こえる。
振り返ってみると、そこには走って来たのだろうと分かる息が切れているワイツとアイゼルがいた。
「ワイツ、アイゼル……心配かけてごめ………」
「良かったぁああああ!!!!! 俺もアイゼルも、フェリックスの遺体すら残らなかったなんて……とてもじゃ無いけど、なんて言えば良いか………」
「ワイツは、こういう時に言葉が詰まるやつだったな。俺もワイツもフェリックスが生きて帰って来たって聞いて、全ての仕事を投げ出して来たんだ。この気持ちが、俺たちの感じている全てだと思うんだ」
ワイツは号泣し言葉に詰まっていた。
そんなワイツに変わってアイゼルが喋るのだが、アイゼルも目に涙を浮かべながら代弁してくれた。
言葉こそ足りないように思える。
しかし2人の言いたい事は、痛いほど理解できた。
その気持ちが、とてつもなく俺からしたら嬉しい限りである。
俺たちはハグし、飲み明かす事になる。
ようやく俺の日常が帰って来た気がする。
大きなものを失いながら。




