076:暗躍
ディルスの死はサッストンズ帝国中に知らされた。
それだけディルスの存在は、サッストンズ帝国にとって大きな存在だったのだ。
ただの商人というところから成り上がり、尊極大名にまで昇り詰めた伝説の男である。
そんな男が死んだのだから反応はさまざまだ。
畏怖していた者からしたら安堵し、恨んでいた者からしたら大喜びし、愛していた者からしたら悲しんだ。
さまざまな反応の中で、ディルスの死を最も喜んだ人間がいた。
それはボロック州守護大名のグランプである。
「これは好機に違いない! もはやレオンの後ろに、邪魔な存在は居なくなったぞ!」
「これは素晴らしい事です。ディルス殿の存在が、どれだけレオンの支えになっていたか。主柱を失った建物は直ぐにでも倒れますぞ」
「ならば今直ぐに殺してしまえ! 暗殺だろうと、戦さを起こそうとも我らに勝機がある!」
「し しばし待って下さい! 確かにディルスという後ろ盾を失い、レオンの主柱はグラついております。しかし今だに武力は健在です!」
グランプ守護大名は自室で密会というのに、大声を出して喜んでいる。
自分を小馬鹿にしている人間の後ろ盾が失った。
これはグランプ守護大名にとっては喜ばしい事だ。
今が好機だとしてグランプ守護大名の側近であるシルベスター代官に攻撃を指示する。
確かにチャンスであるとシルベスター代官は、グランプ守護大名に賛同する言葉を述べていたが、いざレオンを殺せと言われると待つように進言した。
この態度の変わりようにグランプ守護大名は、眉を歪めて「は?」といった表情を浮かべる。
「どういう事だ? お前もレオンが倒れかけていると言ったでは無いか、それを今になって覆すなんて。それでも騎士道の端くれか!」
「もちろん時期に戦いますが、今はまだ戦う時では無いと思います! 窮鼠猫を噛むという言葉もありますし、このタイミングでこそ慎重になった方が良いかと」
グランプ守護大名はレオンが倒れかけていると発言したのに、どうして今になって戦わないという選択を取ろうとしているのか問いただす。
それでも騎士なのかと言われてしまう。
もちろんシルベスター代官にも言い分がある。
レオン軍が追い込まれているのは確かだ。
しかし窮鼠猫を噛むという言葉もあるように、ここに来て武力は落ち込んでいない。
そうなれば油断する事はできないのだ。
だから丁寧に事を進めた方が良いというのが、シルベスター代官の言い分なのである。
これにはグランプ守護大名は「むむむむ……」と言った感じで、何も言い返せなくなってしまう。
「じゃあこのまま何もせずに、そのチャンスというのを待てば良いのか? それでは無駄に時間を浪費するだけじゃ無いか。しかもその間、俺はレオンのアホに無能扱いされる……それだけは耐えられ無いぞ!」
「お 落ち着いて下さい! チャンスが来るまで、何もせずに待つというわけではありません。それにレオンにグランプさまを無能扱いさせない為に、ここは落ち着いて欲しいんです」
「随分と頼もしい事を言うじゃ無いか、何か良い考えでもあるのか? 今からでもレオンを排斥し、守護大名としての尊厳を復活させる作戦が」
グランプ守護大名からしたら、レオンからのこれ以上の扱いには耐えられないと言うのだ。
頭を無心に掻きむしるくらいイライラしている。
シルベスター代官は必死になって、グランプ守護大名を落ち着かせようとする。
レオンからの侮辱が相当効いているみたいだ。
今からレオンの力が落ちるまで待つというわけではなく、シルベスター代官には考えがあった。
「我々と同じようにレオンを邪魔に思っている人が、このボロック州には1人いるじゃ無いですか。その人間を、こちら側に引き込んで利用するんですよ」
「俺たちと同じように邪魔だと思ってるやつだと?」
「はい! それは……奴の弟です!」
「ほぉミケルか! それは良い考えじゃないか、どうやって言いくるめるんだ? アイツはアイツで頭が堅いって聞くぞ?」
「えぇ確かにある意味レオンよりも扱いづらいところがあります。しかし兄に負けたくないというのが、正直なところでしょうから話に乗って来ると思います」
シルベスター代官が考えているのは、レオンに対抗しようとしている弟のミケルだった。
ミケルはグランプ守護大名たちのように、レオンの事を邪魔だと思っていて、いつでも軍を上げる準備を進めているのをシルベスター代官は知っている。
そこに付け入れば可能性があるとした。
しかしグランプ守護大名には懸念点があった。
ミケルは頭が堅いので、逆に言えばレオンと同じくらいの厄介さを持っている。
そんな人間をどうするのかと聞く。
シルベスター代官は、もちろんそう簡単に話には乗らないだろうが、交渉材料としてレオンの事を出せば必ず乗るだろうと言うのだ。
「ならばミケルに、レオンを討ち取れば当主の座に加えてNo.3の地位をやると交渉しろ。もちろんこの事は、誰にもバレずに隠しながら話を進めろ。バレたら、逆にレオンに詰められる可能性がある」
「そこは承知しています。場合によっては、こちら側からも援軍を出すという事で話を付けてもよろしいでしょうか?」
「あぁそれで構わない、もちろん兵の出しどころもレオンにバレないようにしろよ? だが向こうには、アドニス将軍が居るからな。アレは化け物だ、その軍もまた化け物揃いと来たもんだ」
グランプ守護大名はミケルに話を持っていく場合は、当主の座に合わせボロック州において3番目の地位を与えてやっても良いとした。
しかし出所だけはバレないようにと念を押す。
自分たちが裏で動いた上に、失敗したとなるとレオンは確実に自分たちの首を取りに来る。
それだけは絶対に避けたい。
そう考えている。
それを理解した上でシルベスター代官は、援軍を出すという手助けも交渉材料に入れて良いかと聞く。
もちろん出所がバレなければ問題ないとした。
何よりミケル軍に期待しているのはソロー=ジルキナ家の家老であり、ソロー=ジルキナ家において最も最強と言われているアドニス将軍である。
ただでさえアドニス軍単体でも強いのに、兵を貸したとなると強さの桁がしれない。
現在ボロック州においてレオンを止められるとするのならば、ミケルとアドニス将軍たちしかいないとグランプ守護大名とシルベスター代官は考えている。
これは上手く行くとグランプ守護大名は「けけけ……」と悪い顔をしながら笑っている。
「それでは善は急げという事で、早速ミケルのところに行って来ます。ディルスが亡くなったダメージが残っているうちに、早く攻めて貰いたいので」
「確かにシルベスターの言う通りだ。この件は、お前に任せても良いんだな?」
「はい! ここは俺に任せていて下さい! グランプさまが動いていると悟られたら、面倒な事になりかねませんので!」
シルベスター代官は急いだ方が良いという事で、今からでもミケルのところに向かうという。
トップであるグランプ守護大名が動いたとなると、嫌でも目立ってしまうのだ。
だから今回はシルベスター代官に一任された。




