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073:獅子の子

 齢61歳のディルスの前に、リキャルド尊極大名は手も足も出ない状況に陥っている。

 これは決してリキャルド尊極大名が弱いのでは無い。

 ディルスという男が常軌を逸しているのだ。

 老耄とは思えない身のこなしやパワー、そして目と剣の感覚の良さが尋常では無いのである。

 このディルスという強敵の前に、リキャルド尊極大名は苦戦を強いられている。



「この老耄を倒せずして、何が尊極大名だ! もっと根性を見せてみろ!」



 ディルスはリキャルド尊極大名を煽るような台詞を吐いて、もっと力を出させようとする。

 こんな事を言われて黙っているわけにもいかず、リキャルド尊極大名はスピードとパワーを上げ、ディルスに斬りかかるのである。

 しかし未来を見ているのでは無いかと思えるくらい、リキャルド尊極大名の攻撃を防ぎ切る。



「さすがはワシの倅だ。パワーもスピードも常人の比では無いレベルだ……しかしまだまだのようだな」



 攻撃を何度も受けているディルスからしたら、リキャルド尊極大名のセンスは常人の比ではなく、センスが群を抜いている。

 自分の事を馬鹿にしていると思ったリキャルド尊極大名は、何とも言えないような表情を浮かべていた。

 ずっとスンッとしていたディルスだったが、突如として咳き込んだ。

 周りの人間たちの視線がディルスに集まる。

 咳き込んだ時に手で口を覆っていたが、咳が治ってディルスが手を退ける。

 すると掌には大量の血が付いていた。



「アンタ、まさか……病を患っているのか?」


「なに、こんなもんは擦り傷に過ぎんわ」


「病を患いながら、俺と互角以上に戦っていたっていうのか……アンタはことごとくムカつく」



 ディルスは全身に病を患っていた。

 今までは誰も気にしていなかったが、病を患っていると思ってディルスを見てみる。

 するとディルスは身体中に痣があり、小刻みに体が震えているのだ。

 これは病の末期なのかもしれない。

 殺さずとも死期が近いのは明らかだ。

 そんな事よりもリキャルド尊極大名が感じたのは、こんなヨボヨボな人間に自分は押されているのかという事実にイライラしていた。

 とことんディルスに苛立ちを感じる。



「これで分かっただろ? 病を患っているワシにすら、お前は勝てないんだ。コレのどこに尊極大名としての権威や才能があるといんだ。自分こそが尊極大名に、相応しいというのならば証明してみろ!」


「確かにアンタは、自分の実力だけで成り上がった実績がある……しかし! アンタの時代は終わったんだ!」



 ディルスは額に冷や汗を垂らしながら、リキャルド尊極大名に病を患っている人間に勝てずして、尊極大名を名乗れると思うなと、まだ煽るのである。

 これにはリキャルド尊極大名は、何とも言えない感情となり斬りかかる。

 パワーも速度も対応されたとなると、リキャルド尊極大名に残された選択肢は1つしかなかった。

 とにかく体力を使った手数の多さで勝負に出た。


 無数の乱撃がディルスを襲う。

 しかしその全てをディルスは、経験値の差で左右に振り分ける。

 普通の人間なら一息置いてから再度、立て直そうとするがリキャルド尊極大名は手を止めない。

 どうにか隙が生まれないかと思いながら、剣を全力で振るっている。

 するとディルスの心臓が突如ドキッとし、ディルスの膝がカクンッと力が抜けてしまった。

 これによりディルスの剣の軌道が変わった。


 リキャルド尊極大名の剣を防ぐはずが防げなくなり、止まるはずだった剣が止まらなくなった。

 紙一重の道を抜け、リキャルド尊極大名の剣はディルスの胸を斜めに斬り伏せた。

 この一撃を放ったリキャルド尊極大名は、剣を振るったフォロースルーのまま立ち止まっている。

 コレは明らかに動揺しているのだ。

 そりゃあそうだ。

 突如として致命傷になり得る一撃を、今まで通じなかった男に与えられたのだから。

 地面には大量の血が、ボタボタッと血の海ができた。



「ぶはっ!? い 良い……一撃じゃねぇか」


「ふ ふざけるな! こんな……こんな偶然の勝利なんて望んじゃいないぞ! アンタには完勝しなきゃいけないんだ!」


「まだそんな……甘いこと言ってんのか」



 地面に倒れる事なくディルスは、リキャルド尊極大名の一撃を褒める。

 しかしリキャルド尊極大名は認めていない。

 こんな勝利は、自分が納得できる勝利では無いと。

 リキャルド尊極大名の言い草に、ディルスは甘ちゃんなのが抜けていないと指摘する。



「どんな手を使って勝たなければいけないんだ! そこに少しでも甘い気持ちが入れば、それこそ騎士道を理解してるのかって話になるぞ!」


「何を……言ってるんだ………」


「まだ理解できていないのか? さっさとワシの首を刎ねろと言っているんだ……さぁ早く!」



 リキャルド尊極大名はディルスが、何を言っているのかと困惑している。

 理解していないリキャルド尊極大名に、ディルスは溜息を吐きながら理解していないのかとガッカリする。

 そこで自分の気持ちをハッキリと伝えた。

 ディルスの言いたい事は、早く自分の首を刎ねろという事である。

 これにリキャルド尊極大名は「は!」とした顔をしてディルスの顔を見つめる。



「良いか? レオン君とは、もちろん血が繋がっていない……だが彼は応援したくなる。それに対してリキャルド、お前は見ていられないんだ」


「なに? それはどういう事だ……」


「お前の目には劣等感がある! お前が初めて城に来た時から自分は、周りの人間よりも劣っていると……そういう目をしていた」



 レオンを引き合いに出し、さらに深掘りする。

 レオンのような野望を燃やし、全てを犠牲にしてでも成り上がろうとしている人間は応援したくなる。

 だがそれに対しリキャルド尊極大名は、とてもじゃないが見ていられないらしい。

 これはリキャルド尊極大名が自分自身に劣等感を感じているからだというのだ。

 その目は初めて会った時からしていた。



「側女の子とは言えども、お前は嫡男だった。それならそれ相応の目というのがある! それをお前は自分の出生を周りと比べ、勝手に劣等感を感じていたのだ!」


「そ それは……俺が下だったのは確実なはずだ」


「それが何だ! ワシならば兄弟を殺してでも、成り上がる道を選んでいたぞ。その道の果てで、今回のような不遇な死を遂げようともな!」


「それはアンタが強かったからだ! 皆んなが皆んな、アンタのように強いわけじゃない!」


「だからダメだというのだ! 人は生まれながらに獅子の子よ。身分の差はあれば、夢を見るのに格差など存在しないのだ! あるとすれば自身が、それをなそうとしているか、どうかという気概のみ! それがあるのがボロック州のレオン君だ!」



 リキャルド尊極大名の意見としては、ディルスの言っている事を遂行できるのは、ディルスが強い男であるからだと言うのだ。

 しかしそれを真っ向からディルスは否定する。

 人は生まれながらにして獅子の子であり、身分の差こそアレども夢を見るのは自由である。

 そして差があるとするのならば、それは自分自身が成そうとするか、どうかであると断言した。

 レオンにはそれがある。

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