071:胸が締め付けられる
リキャルド尊極大名の前に現れた俺は、ルバート将軍を倒した上でリキャルド尊極大名の首を取れば、さらに自分が強くなれると言うのだ。
しかし俺が自分の首を取ったという事ではなく、ルバート将軍の首を取ったというところに反応する。
まさかと思ってリキャルド尊極大名は俺に聞き返す。
「今なんて言った? お前がルバート将軍を殺した?」
「あぁ俺がルバート将軍を討ち取った!」
「そうか……お前がルバート将軍を討ち取ったのか」
俺は素直に自分がルバート将軍を討ち取ったと話す。
それを聞いたリキャルド尊極大名は、俯いて言葉数が明らかに減るのである。
どうしたのかと俺は思った。
そして瞬きをした瞬間、目の前にリキャルド尊極大名が斬りかかって来ていた。
俺はヤバいと思って咄嗟にしゃがみ込んで避ける。
反応できていなければ、一瞬にして俺の首はリキャルド尊極大名によって刎ねられていた。
「あ 危ねぇ……」
俺はギリギリで避けられたから良かったが、今となって全身から脂汗がブワーッと出て来る。
そしてドキドキと激しい動悸がする。
ディルスの息子だとは聞いていたが、それでもリキャルド尊極大名の戦闘力は、ルバート将軍よりも下回るくらいだと勝手に思っていた。
しかし想定していたレベルを遥かに超えていた。
まさかここまでの武芸があるとは思わなかった。
「俺はなぁ、別にいつ死んだって良いんだよ。騎士だから別に戦いで死ぬのは本望だ……しかし! 仲間を殺される事だけは、どうにも許せんのだ」
「そりゃあ俺もそうだわ。さっき俺の先輩兵士も死んでいるのを見つけたさ……こんなにも怒りが沸々と湧き上がって来るのは、久しぶりだったよ」
リキャルド尊極大名は、別にいつ死んだって良いと思っている。
そういう人生だったからだろう。
しかし自分が死ぬ事よりも、遥かに仲間が殺される事の方が苛立つと言うのだ。
それには俺も同意した。
まさか転生するとは思っていなかった。
自分の為に拾った命では無い。
それなら仲間の為に使ったってバチは当たらないはずであり、そうするべきだと俺は思う。
それに俺は大いに怒っている。
理由は明白だ。
ここに来る少し前、さっきまで話していた先輩兵士が山中に倒れ首が刎ねられていた。
その時だ。
何か心がギュッと握られる感覚に陥った。
「俺の気持ちが、お前にも分かるのか。それなら俺が、今からお前にしようとしている事が分かるよな?」
「あぁもちろん分かってる……だから俺は抵抗するし、テメェの首も狙ってやるよ」
「面白いじゃないか、ディルスと戦う前の準備運動としてやってやるよ」
リキャルド尊極大名は攻撃を避けられると、ゆっくり俺の方を向いて来るのである。
そして今からする事は分かるかと聞いて来る。
もちろん俺と同じ事を考えているだろうから、それは理解できると答えた。
これから一騎打ちが始まる。
リキャルド尊極大名からしたら、ディルスと戦う前の準備運動としてやるつもりだ。
俺は本気でリキャルド尊極大名の首を狙う。
この戦いで1番の武功を挙げるのは俺だ。
俺とリキャルド尊極大名は互いに構える。
これは面白いかもしれないと、ディルスは腕を組んでニヤニヤしながら俺たちを見つめている。
戦いが始まる前の独特の沈黙が流れている。
静かすぎて風の音が聞こえて来るくらいだ。
体感としては、かなりの時間が流れていると思ったが、時間にしては数秒なのだろう。
そしてほぼ同時に俺たちは互いに向かって走り出す。
体格による歩幅の違いにより、互いの中間地点から少し落ち込まれる形になってしまった。
それでも俺とリキャルド尊極大名は剣を振りかぶる。
「うぉおおお!!!!」
「おぉおおおお!!!!!」
俺も18になり身長が183cmになったが、それでもリキャルド尊極大名は200cmもある。
これだけの体格差があると一撃の重さが違う。
咄嗟にこんな事が俺の頭によぎった。
そうなれば簡単に押し切られ、一刀両断されるのが目に浮かんでしまう。
そんな事になるわけにはいかない。
俺は咄嗟に腰を普段よりも落とし、相手にダメージを与える為ではなく、ただこの目の前の攻撃を耐える為の姿勢を取る。
互いの剣が衝突すると、やはり予想通りと言った感じで俺の剣が押し込まれてしまう。
それどころか、力の違いで地面がバキッと割れる。
どうにかギリギリで耐えているが、リキャルド尊極大名は押し切って斬り伏せようとして来る。
しかしそうさせないように俺は、剣にピタッと体を付けて向こうよりも力を出し抵抗する。
押し切れないリキャルド尊極大名は、歯を食いしばって、さらに力を込める。
もうこうなったら押し返す事もできず、あとは押し切られてしまうのが関の山だ。
そうさせてはいけない。
俺は剣を斜めにし、向こうが力を入れているのを利用し地面に衝突させた。
俺は体をクルッと回転させ、リキャルド尊極大名の背後に回り込む。
剣が地面に衝突した事で直ぐには対応できない。
そんな無防備な背中に、俺は一撃をお見舞いした。
リキャルド尊極大名は「うっ!?」と言いながら、前の方に蹌踉めく。
そしてゆっくりと自分の背中を触る。
血が出ているのを見ると、額に血管ができるくらいに怒りながら振り向いて来る。
もうこれはブチギレているのは明らかだ。
ここからはバーサーカーのように、力任せに俺の事を追って来るのである。
俺は牛若丸のように距離を保ちながら、リキャルド尊極大名の攻撃にカウンターを合わせて斬る。
これで俺は無傷でリキャルド尊極大名に傷をつけられている。
「あの青年、かなり押してるんじゃ……もしかしたら勝てるんじゃ無いですか!」
「いや、それは無いだろうな」
「え? それって一体……押しているのは明らかに、青年の方だと思うんですが」
ディルスの側近が、俺の戦い振りを見て押していると興奮している様子だ。
これなら勝てるかもしれないと溢した。
しかしそれはディルスは、それは無いとバッサリと否定するのである。
まさか否定されるとは思っておらず、側近の男は思わず「え?」と呟くのだ。
一体どうして勝てないのかと側近は聞く。
「アレを見ても分からないか?」
「アレですか?」
分かっていない側近に教えるべく、ディルスは俺たちの方を指差す。
側近は指を差した方に目線をやる。
そこには俺とリキャルド尊極大名の足跡がある。
それを見た側近は理解した。
どうして俺がリキャルド尊極大名との戦いにおいて、押しているように見えながらも、実際のところはリキャルド尊極大名の方が有利なのか。
俺の足跡は綺麗な円を書いているのに対し、リキャルド尊極大名の足跡はドシッと円の真ん中にある。
「リキャルドさまの周りを回っているだけで、それ以上内側には入っていない……しかもアレくらいの距離なら致命傷にはならない」
俺はリキャルド尊極大名に傷を付けているから、優位に立っていると思われる。
しかし足跡から分かるように、ただ周りをグルグル回っているだけなのだ。
これではリキャルド尊極大名を倒せない。
この距離からして致命傷を与えるのは無理だ。




