070:騎士道について
ディルスは目を瞑りながら瞑想している。
いつ戦いになっても良いように、心の準備をしているところなのだ。
すると「ごめん!」と兵士がやってくる。
ディルスはパッと目を開いて、目ん玉だけを兵士の方にギョロッと向けた。
側近の男が「どうした、申せ!」と言う。
「は! リキャルド軍が、本陣の目の前まで迫って来ております。ここに来るのも時間の問題かと!」
「なに!? そんな早く前線が崩されるとは、前線は何をしておるのだ!」
兵士は前線が突破され、ここにリキャルド軍が到着するのは時間の問題だと報告する。
報告を受けた側近の男は、テーブルをドンッと叩く。
どうしてそんな簡単に前線を突破されたのかと、怒りを露わにするのである。
この側近にディルスはスッと掌を見せる。
そして落ち着くように促した。
「それでどれくらいで、ここまでやって来る? もう既に逃げ道は絶っている。つまりリキャルドとの戦いは避けられないところまで来た」
「は! 四半刻もしないうちに、本陣まで到着するかと思われます」
「そうか、四半刻には来るか……ならば戦うしかあるまい。レオンくんは、まだ到着しないんだな?」
「まだ到着しないかと……」
「ならワシらで到着するのを待つぞ! 頼んだのは、我らの方だ。レオンくんが到着しなかったから負けたなんて、絶対に周りに言わせぬ為にもな!」
ディルスはリキャルド軍が、どれくらいで到着するのかと聞いた。
兵士は時間を計算し伝えた。
大体30分くらいで到着すると。
それを聞いたディルスは戦うしか無いと結論づけ、どうにかレオン軍が到着するまで凌いで見せると言う。
ディルスの気合を見てディルス軍の兵士たちは、自分たちも負けられないと気合が入る。
急いで戦闘準備を行なった。
そして30分が経ったところで、リキャルド軍が本陣までやって来たのである。
リキャルド尊極大名が先頭を切ってやって来る。
もちろん剣を右手に持ったまま本陣に入った。
するとリキャルド尊極大名の眉が、ギュッと歪んで顰めっ面になった。
そこにはディルスが鬼の形相で立っていた。
「良くぞ、ここまでやって来たな」
「親父殿……いや、ここはあえてディルスと呼ばせて貰おうじゃないか」
「それでこそ、ワシの倅よ! それくらいの覚悟を持って戦わなければ、これからの乱世を生き残ってはいけぬからな!」
「アンタは、昔から変わらないな……そうやって全てを犠牲にして頂点にまで昇ったんだ」
「それがどうしたというのだ? この世に生まれたからには名を残そうとする行為を、ワシは全くもって悪いとは思わん。古き世を脱し、新たな世を迎える為には血を流す他に方法は無いのだ!」
ディルスは半笑いでリキャルド尊極大名を迎える。
迎えられたリキャルド尊極大名は、親父と呼ぶのではなく、あえてディルスと呼び捨てにする事にした。
この行為をディルスは褒めるのである。
それでこそ自分の子供である。
それくらいの覚悟を持たなければ、こんな乱世を生き残る事はできないと言った。
ディルスの言葉を聞いたリキャルド尊極大名は、ギュッと拳を強く握って怒っているのが分かる。
そうやっていろんな事を犠牲にして頂点に立ったのだと、これまでの活動に関してを全て否定した。
リキャルド尊極大名の嫌味に、ディルスは生まれたからには名を残そうという行為を悪いとは思わないと肯定した上で、古い世の中を脱出する為には血を流す必要があるのだと強く話す。
「そういうところが嫌だったんだ! 自分の悪行の全てを、そうやって正当化しようとしている! それでも騎士を名乗る人間か!」
「リキャルドよ、お前は騎士道の八戒を理解しているのか?」
「騎士道の八戒だと?」
「なんだ、言えないのか? 仕方ないな……優れた武芸、勇気、高潔さ、忠誠心、寛大さ、信念、親切心、統率力の8個だ」
リキャルド尊極大名は、ディルスに対して正当化するような精神で騎士を名乗るなと指摘した。
これにディルスは、リキャルド尊極大名に騎士道の八戒は知っているかと聞いた。
いきなり何なのかとリキャルド尊極大名は困惑する。
答えられないリキャルド尊極大名に、ディルスは溜息を吐きながら8項目を説明した。
「騎士道とは、つまり自分との対話だ。自分の信念を持ち、自分の人生をより良いものにする為に騎士道があるというものだ。これの意味が理解できるか?」
「ふざけるな、何を言ってるんだ」
「ワシの人生はワシのものだ、他の誰にも文句を言われる筋合いは無い! しかしワシのように好き勝手、生きるからには責任が生まれる。今この状況も、ワシが好き勝手やって来た事への責任だ……ワシは責任を、全うし自分が正しかったと後世に伝える!」
「アンタ、頭イカれてるんじゃ無いのか……
「あぁイカれてるとも、まともじゃあこんな世界を生きてはいけないからな。さぁ最大級の親子喧嘩を始めようじゃないか」
ディルスが思っている騎士道とは、自分との対話の為にあると定義した。
自分の人生を良くする為に、騎士道はあるのだとリキャルド尊極大名に伝えるのである。
しかしそれだけではない。
信念のままに生きるのは素晴らしいが、その行動には責任が付き纏うというのだ。
まぁ当たり前の事だが、好き勝手やったからにはツケが回って来る。
ディルスにとっては、今が責任のツケなのである。
そして一通りの話を終えたところで、ディルスはスッと剣をリキャルド尊極大名の方に向ける。
遂に戦いが始めようとする。
これが世界最大の親子喧嘩の1つとなろう。
しかしそんなタイミングで、ディルスの視線がリキャルド尊極大名の背後に移った。
それにはリキャルド尊極大名も気がつく。
リキャルド尊極大名は、パッと背後を振り向く。
そこには俺が剣を振り上げて、襲い掛かろうとしていたのである。
「リキャルド、御命頂戴するぅうううう!!!!!」
俺はリキャルド尊極大名に向かって、声を上げながら斬りかかったのである。
だがディルスの視線によって、リキャルド尊極大名は俺の存在を察知していた。
その為ギリギリで俺の剣を避けられた。
一撃で仕留められなくなると、今は無理だと距離をとって剣を構え直す。
「ここに来るまでに1人残らず、殺して来たと思ったんだかな。お前はどうしてここにいる?」
「荒道を無理矢理に突破して来たからな。それもこれもテメェの首を取る為だ!」
「そんなに俺の首が欲しいか? そりゃあそうか、もうお前たちに勝機は無い。そうとなれば俺の首を取る以外に、この戦いに勝利する事はできないというわけか」
「あぁ俺はテメェの首を取って戦いに勝つ。ルバート将軍を討ち取り、テメェの首を取ったとなれば……俺は、さらに強くなれる!」
リキャルド尊極大名たちは、ここに来るまでディルス軍の兵士たちを全滅させて来た。
しかし俺だけが本陣に戻って来たのだ。
それにはリキャルド尊極大名も驚くのである。
俺は荒道を突破して来たので、敵兵に見つかる事なく本陣まで戻ってくる事ができた。
もう戦いに勝利する為には、リキャルド尊極大名の首を取る必要がある。
それしか無いのだ。




