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069:まだやり残した事

 俺が攻撃の手を止めたのに、ルバート将軍は自分の方から斬りかかって来ない。

 その姿に俺は思わず、プッと吹き出してしまった。

 笑った事にルバート将軍は眉をピクッと動かして「うん?」と首を傾げた。

 俺は手をパッと出して「すまんすまん!」と謝る。



「なぁ知ってるか?」


「何を……だ?」


「戦場において死ぬ可能性が高まる状況が、2つあるが知ってるか?」


「なに? 何を言って……」


「目の前の敵に死ぬと本気で思わされた時だ。あれ? これの状況どこかで見た事があるな……あぁこれって、お前の事か」



 俺はルバート将軍を煽りまくる。

 もちろんこれは俺が本気で思っている事だ。

 目の前で対峙している敵に、殺されると怯えた瞬間にこそ死神のカマが喉元に構えられている。

 この言葉を聞いて、今この状況も同じであると俺がルバート将軍に言った。

 すると明らかに眉を歪めた。



「私が君に殺されると怯えてるって言うのかい? そんな馬鹿な話があるか」


「本気で思ってるのか? じゃあどうしてテメェは、俺が止まったのに攻撃を仕掛けて来ない? もしかして様子を見てるとかって言い訳しねぇよな? そんなダセェ事は言わねぇよな?」


「それの何が悪い? 敵の様子を観察するのは、戦いにおいての常套手段じゃないか。それに問題があるか?」


「まぁ良いさ、テメェはそうやって格上の人間と対峙した時に言い訳をして逃げるんだ……別に逃げたって良いが、2度と騎士なんて名乗るんじゃねぇぞ、この腰抜けポンコツ野郎が」



 俺はルバート将軍への煽りを止めない。

 これには落ち着こうとしていたルバート将軍も、額に血管が浮き出るくらいに苛立っているのが分かる。

 俺はニヤッと笑い、ルバート将軍に対し舌をベローンッと出して煽るのである。

 さすがのルバート将軍も我慢の限界だった。

 ここで俺をブチ殺してやると突撃してくる。


 それを見てから俺は小さな声で「2つ目は……」と戦場において死ぬ可能性が高くなる状況の2つ目を、ボソッと口ずさむのである。

 2つ目とは相手の安い挑発に乗る事だ。

 まさしく目の前に向かって来ているルバート将軍が、この状態に陥っている。

 きっと心の底では分かっているはずだ。

 それでも止まらないのだ。


 俺はスッと剣を振り上げ、正中の構えでルバート将軍が自分のところにやってくるをジッと待つ。

 スーッと息を吸ってグッと息を止める。

 こうすれば力が丹田に入って、いつも以上の力を出す事ができる。

 俺の構えを見たルバート将軍は腹に狙いを定める。

 そしてルバート将軍が、俺の懐の間合いに入った。

 俺もルバート将軍も互いに剣を、相手に向かって振るって斬ろうとするのである。

 同時に斬り出したが、俺の方が速かった。


 俺の剣はルバート将軍の左肩から入り、鎖骨を粉砕してから胸のところまで切り裂いた。

 これにルバート将軍は大量の血を口から吐いた。

 ダメージによってルバート将軍の剣は、俺に届く前に止まって地面に倒れる。

 致命傷なのは確実だろう。

 しかし即死というわけでは無かった。

 地面に倒れながらルバート将軍は、右腕を俺の方に向けて空を掴む動作をした。

 俺はそんなルバート将軍を見下している。



「青年兵よ、見事な一撃だ……だが私を討ち取ったところで、この戦況は変わらぬぞ………」


「確かにそうかもな……だけどよ、こんなところで死ぬわけにはいかなねぇんだよ」



 ルバート将軍の言う通りかもしれない。

 圧倒的で手も足も出ない兵力差を前にして、ルバート将軍を討ち取ったところで後の祭りだ。

 それをルバート将軍は理解していた。

 だからこそ討ち取っても意味が無いと、この戦いの敗北を無かった事にしようとしている。

 その往生際の悪さに、さすがの俺も面白いと思う。

 しかしルバート将軍の言う通り、戦況は変わらないにしても、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。



「私は地獄から、この戦いの顛末を見ているぞ……どうせ、君も直ぐに私たちのところに来るんだ」


「まだテメェらのところにはいかねぇよ、テメェは今世での役割を全うしたから死ぬんだ。俺はまだ役割を全うしていない……まだ死ぬわけにはいかねぇんだよ」


「ふっ……」



 ルバート将軍は俺も時期に、地獄に落ちると笑みを浮かべながら言うのだ。

 しかしこの意見に俺は異議を唱える。

 ルバート将軍は役割を全うしたから死ぬのだ。

 そんなルバート将軍に対し、俺はまだ役割を全うする事ができていないだから死ぬわけにはいかない。

 この言葉を聞いたルバート将軍は少し微笑んだ。

 そしてそのままガクッと討死した。


 俺は安心したいところだが、まだまだ乱戦中なので次の獲物を狙おうとする。

 するとディルス軍の方から「突破された! 突破されたぞ!」という声が聞こえて来た。

 急いで声のした方に視線を向ける。

 確かにリキャルド尊極大名が、自ら率いる部隊がディルス軍の前線を突破していた。

 そのまま本陣に向かっている。

 こんなところで雑魚を狩っている場合じゃない。

 俺は急いでリキャルド尊極大名の背中を追う。


 リキャルド尊極大名は本陣に向かいながら、後ろからやって来た伝令兵から報告を受ける。



「報告いたします! ルバート将軍、お討死!」


「なに!? ルバートが死んだだと! それは確かな情報なのか!」


「は! 確かな情報であります!」


「そうか……ならばディルスの首を挙げ、それをルバートの墓前に備えてやろうぞ! お前たち気合いを入れ直せよ!」


『うぉおおおお!!!!!』



 ルバート将軍の死を聞いたリキャルド尊極大名は、後ろを振り返るほどに驚く。

 こんなところで将軍の1人が死ぬとは思っておらず、本当の事なのかと再度確認する。

 もしかしたら間違いかもしれないからと。

 しかし確かに自分の目で見たという事で、この情報は間違いでは無いと伝えた。

 死んだ事実を理解したリキャルド尊極大名は、肩を落としながらも決意する。

 ディルスの首を取って、その首をルバート将軍の墓前に供えてやると誓ったのである。


 ディルス軍の最前線を突破したリキャルド軍に残されているのは、本陣までにまばらに配置された敵兵だけ。

 つまりここから本陣までは、リキャルド尊極大名たちからしたお茶の子さいさいというわけだ。

 まさかこんなに早く最前線が突破されるとは、ディルス軍にとって大きな誤算である。

 逆にリキャルド軍からしたら嬉しい誤算だ。

 確実にリキャルド軍はディルス軍の本陣に到達する。

 早くレオン軍が到着しなければ、ディルスの命は限界を迎えようとしている。



「早く行かなきゃ……早く」



 俺は早く本陣に向かった方が良いと思って、動き出そうとするが目の前が歪む。

 そりゃあそうだ。

 ルバート将軍との戦闘で多くの血を失った上、そこからさらに戦闘を繰り広げたのだからな。

 今にも倒れて絶命しそうな感じがする。

 ヤバい、眠たくなって来た……。


 いやいや。

 こんなところで死ぬわけには行かない。

 絶対にディルスを助け、この世でこそ成り上がって見せるんだ。

 俺は倒れそうになるのを、気合と根性で抑えながらリキャルド軍の背後を追いかける。

 さっきの戦いの反動なのか、とてつもなく錘を足に付けられているようだ。

 そうそれこそ囚人が付けるようなやつ。

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