067:戦場とは
カールトン川の戦いが始まる少し前、レオンがタールド城を出陣する時に戻る。
義理ではあるが父親であるディルスを救い出す為、レオンはタールド城に戦力を少し残し出陣するべく準備を進めていた。
それはそれは慌ただしくしている。
急がなければディルスが殺されるからだ。
「タールド城にも兵を残せよ! 油断したらグランプが反旗を翻す可能性があるからな!」
「レオンさま、アルバート殿が残るとおっしゃっておりますが、どういたしましょうか?」
「そうか、ならば副将はルシエンに任せる。できるならば叔父上にも手を貸して貰え」
「は! 承知いたしました!」
タールド城の留守は、家老筆頭であり大将軍であるアルバート将軍が務める事になった。
それが決まると今回の戦いの副将にはルシエン参謀総長が選ばれる。
そしてできる事ならば叔父であるシーメンにも、手を貸して貰えと指示するのである。
色々と並行して準備を進めていく。
レオンも自身の出陣準備をしようとした時、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにはレオンの妻であり、ディルスの娘であるマリアベルが立っていた。
マリアベルのお腹は大きくなっている。
「マリア、動いても良いのか?」
「えぇ今は落ち着いているので心配ありません。それよりも父上の事が心配で……」
「心配する事はない、我らが見事に親父殿を救い出して見せる。そして助け出したら、親父殿には孫の姿を見て貰おうではないか」
「そうですね、父上はこんなところで命を落とす方ではありません。それに皆様の事を信じておりますので、どうかご無事に帰還なさる事を祈っております」
「あぁ! きっちりと助け出し、直ぐに帰って来るゆえ心配する事は無い」
マリアベルのお腹の中には、レオンの嫡男がいる。
少し前まで体調が悪そうにしていたので、こんなところに来ても良いのかと心配する。
しかしマリアベルからしたら自分の事よりも、ディルスやレオンの事の方が心配なのだ。
妊婦となりナーバスになっているとレオンは察する。
なので絶対に助け出し、自分たちも無事に帰還すると笑みを浮かべて安心させるのである。
それを聞いたマリアベルは安堵したように微笑む。
レオンはマリアベルに見送られ出陣した。
その光景をタールド城の上からグランプ守護大名がまじまじと見ている。
「シルベスター、この戦いはどうなると思う?」
「は! この戦いはレオン軍の到着が鍵になっているので、間に合えば良い戦いになるかと」
「もし間に合わなかったり、向こうの数が想定よりも多かったら? その場合はどうなる?」
「間に合わなければ、確実にディルス殿は命を落とす事になるでしょうね。数が多ければレオン軍が、ディルス軍に到着する前に……戦いが終わるでしょう」
グランプ守護大名は側近であるシルベスター代官に、この戦いの流れについて聞くのである。
どうしたらディルス軍は敗北するのかという事を、熱心にシルベスター代官に聞く。
聞かれたシルベスター代官は的確に答えた。
全ての情報を鑑みてグランプ守護大名は決意する。
「シルベスター、リキャルド尊極大名に援軍を送ってやれ。そしてこの戦いで勝利した場合、我らと秘密裏に同盟を組んで欲しいと頼め」
「つまり裏から戦争に介入し、ディルス殿を討ち取るというわけですね?」
「あぁそうすればレオンの後ろ盾は完璧に消え、ミケルや他の人間を後釜に据える事ができる。つまりレオンを排斥する事ができるのだ」
「それは素晴らしい考えです。それでは直ちに、向こうへと援軍を送らせていただきます!」
グランプ守護大名は秘密裏に、リキャルド軍へと援軍を送るように指示した。
それだけではなく戦いに勝利したら、これまた秘密裏に自分たちと同盟組むように指示する。
もしディルスを失えばレオンは後ろ盾を無くす。
そうなれば明らかにレオンの力が半減以下になる。
レオンが力が弱まれば自分の力で、レオンの後釜をミケルや別の人間に変えられるという魂胆だ。
全てを理解したシルベスター代官は直ぐに動き出す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺はルバート将軍との戦いで、明らかに経験値の差を出されてしまった。
もう少し、あと少し経験していたら。
俺はルバート将軍に胸をズバッと斜めに斬られ、目の前に大量の血が吹き出していた。
あぁ死ぬんだと思った。
そりゃあそうだ。
完全に斬られているのだから、普通ならバタンッと倒れて人生に幕を下ろすところだ。
そう普通ならな。
「ふざけんなぁああああ!!!!! こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ……」
「おぉ討ち取ったと思ったのに、まだ立っているとは。まさしく騎士の鏡と言ったところか」
「テメェ、わざと力を緩めたろ? あんなクリーンヒットしたのに、こんなダメージなわけがねぇ……一体なにが目的だ!」
「それにも気がつくのか、驚きだなぁ。君は一体何者なんだい?」
俺は意識が失うギリギリで、地面を踏み締め意識を保つ事ができた。
そして分かった。
ルバート将軍の一撃は俺を殺す一撃では無かった。
それは力が無いというわけではなく、単純に俺を殺さないように手加減したのだ。
これの真意は分からない。
どうして俺を殺そうとしなかったのか。
だがルバート将軍のニヤニヤした顔と「殺さない一撃に気がつくとは」という言葉で理解できた。
この男は俺で遊んでいるのだ。
「わざと殺さないようにしてるな? 長く苦しめながら相手を殺そうって事か……とことん趣味が悪ぃ」
「趣味が悪いって? 私はそうは思わないよ。いつ殺されるかも分からない状況で、これくらいの楽しみがあっても良いと、私は思うけどね」
「テメェがやってる事はクズのやる事だ、俺は絶対に認めねぇよ。どれだけ命がけだろうと、相手にはリスペクトする必要があるはずだ! それを欠いているテメェは戦場において、最も嫌悪する存在だ!」
俺は意識を失いそうな中で、ルバート将軍がやって来た事について真っ向から否定する。
ルバート将軍はわざと殺さない程度に斬りつけ、長く苦しみを与えるようにしているのだ。
こんなやり方は間違っていると俺は思っている。
だから俺は相手を、リスペクトしていないルバート将軍を嫌悪すると傷を押さえながら言い放つ。
「これだから青年兵には困るんだよ……君たちは戦場に夢を見過ぎている。何より戦場を美化する人間がいるからこそ、この世から戦争が無くならないんだ」
「戦場に夢を見てる? 戦場を美化する?」
「あぁいつでも戦場には夢があると思って、多くの青年が戦場にやってくる。しかし実際に見るのは、いつ死ぬか分からないという現実だけだ」
「テメェの言いたい事は痛いほど理解できる。だがよ、それを理由で敵を痛めつけるのはアリなのか? 夢だの美化だの言う前に、自分の行いを見つめ直せや」
確かにルバート将軍の言う事も理解できる。
俺も少しは戦場に夢を見たり、美化したりしていたのかもしれない。
それのせいで戦争が無くならないのかもしれない。
だがそれが理由でルバート将軍の行動を、正当化する事なんて俺にはできやしない。
ここで俺は強く思った。
こんな人間に負けられないって。




