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005:尊極大名

 俺がソネット家にやって来てから1週間が経った。

 いつものように屋敷の前を掃除していると、ルーフェン代官と家臣たちが慌ただしく外に出て来た。

 深々と頭を下げて見送ろうとすると、ルーフェン代官が俺の前までやって来るのである。



「マルセル、どうだ慣れたか?」


「はい! 先輩方も優しく教えてくださり、何よりもソネット家の皆さまによくしていただいているので」


「そうか、それなら良かった」


「それで今から、どちらに行かれるのですか? 皆さま焦っているようですが……」


「あぁそれなら郡長のところに行って来るんだ」



 ルーフェン代官は郷を治めている人間で、さらに上のへメア郡を治めている郡長の家臣だ。

 そしてこれからへメア郡の郡長《デリャン=へメア=ボトルグリーン》のところに行くのだという。

 この焦りようからして、何かあったのは確実だ。

 さすがにそこまでは聞けないので、俺は「気をつけていってらっしゃいませ」と見送る。


 俺は今の自分には関係のない話であり、仕事を溜めたら修行の時間が無くなるので気にしないようにした。

 そのまま庭の掃除を終え、屋敷の中の掃除を始めるのであるが、また俺に殺意を込めた視線を向けられるのを背中に感じるのである。

 しかしその方向を見ると消えてしまう。

 どうなっているのかと俺は疑問を抱いた。

 ここにやって来て嫉妬されているだけならば良いが、そうじゃ無いならルーフェン代官が危険かもしれない。


 どうなるか分からないけど、調べてみようかなぁ。

 せっかく転生したのに、こんなところで殺されても仕方ないしなぁ。

 やれる事はやってやろう!


 俺の命を狙っているのならば、ただ黙って殺されるのは嫌なので、殺気を向ける人間を調べる事にした。

 もちろん仕事をしながらである。

 だが、やはり犯人の捜索は困難を極めた。

 殺気を向けられた瞬間、直ぐにそこに行っても犯人の姿は無いのである。

 上手く逃げられている。



「くっそ! あともう少しって感じなのに……ここまで綺麗にいなくなられると不思議だ」


「あらあら、どうしたのかしら?」


「あっ!? 奥様、失礼しました!」



 俺が取り乱しているところに、アニス夫人がやって来た。

 急いで深々と頭を下げてアニス夫人に挨拶する。

 ニコニコしているアニス夫人は、俺の事を面白がっているみたいで、よく絡んでくるのである。

 何より印象的なのは、ニコニコしているアニス夫人の後ろにいる護衛たちが、今にも舌打ちしそうな表情を浮かべている事だ。



「それで夫から聞いたかしら」


「何をでしょうか?」


「最近ボドハント州の各地で、有力家臣たちが暗殺されているみたいなの」



 アニス夫人は俺に、最近ボドハント州の各地で力を持っている家臣たちが暗殺されている話をする。

 俺は驚いた。

 この州でそんな事が起きているとは知らなかった。

 つまりルーフェン代官たちが、焦って郡長のところに行っていたのは、この暗殺騒動の件だと結びついた。


 この話をアニス夫人がすると、後ろにいる護衛たちがアワアワし出す。

 ただの小者である俺に、そんな話をするなんてあり得ないという事なのだろう。

 そう言いたい気持ちは分からないでも無い。



「貴方はどう考えるのかしら? 自分の考えで言いわ、是非とも聞かせて欲しいの」


「どう考える……そうですねぇ」



 昔から権力者の周りの人間たちが、暗殺されるというのはある事だ。

 その理由として特定の人間の力を削ぐ為だ。



「私の考えを言うんでしたら、ボドハント州の誰かの力を削ごうとしている……っと言ったところでしょうか」


「そうよね、その通りだわ。やっぱり貴方は、とても才能があるわね!」


「やっぱり……とは?」


「ごめんなさいね、貴方に才能があるかを試したかったのよ」



 どうやらアニス夫人は、俺にどれだけの才能があるかを試したみたいだ。

 そしてその試しに合格したらしい。

 俺は何とも言えない気持ちになり作り笑顔をする。



「とにかくホールジューク郷で、何かあったら私にでも夫にでも言ってちょうだい。何らかの手掛かりになるかもしれませんからね」


「分かりました、何か変わった事がありましたら報告させていただきます」



 俺は何か変わった事があったら、アニス夫人やルーフェン代官に知らせると約束した。

 用事が終わったアニス夫人は、ニコッと笑って俺の前から立ち去る。

 もちろん護衛の人間たちには睨まれる。

 それでも俺は笑みを絶やさない。


 しかし今回の騒動を、俺は甘く見ていた。

 それは遂にホールジューク郷にも現れた。

 ルーフェン代官、ソネット家の先代から使える重臣の1人が暗殺されてしまったのだ。

 この事はボドハント州の守護大名の耳にも入った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 この日、ボドハント城に尊極大名《ローランド=フロマンタル=グスタフ》の家臣たちが集められた。

 もちろんルーフェン代官の主人であるデリャン郡長も参加している。

 その他に《マーロン=ボーデン=ヒルア》《ワッツ=デントン=ヤヒヒ》の譜代家臣の重臣、《ランドロー=ブリーニ》《ファブリス=ビューマン》の家臣筆頭国人ら多数が参加しているのである。



「こんな暴挙を許して良いのか! このままではボドハント州の力が削がれるぞ!」


「そんなのは、ここにいる全員が分かっている! それをどうやって対処するかと言う話だろ!」



 ランドロー郡長は、このままでは国力が落ちてしまうと机を叩いて怒り心頭だ。

 しかしそんな事は百も承知であり、どう対処するのかを考えろとファブリス郡長が注意をする。



「なんだ? やけに冷静だな、まさかお前がやらせてる事じゃないのか!」


「なんだと! こっちだって優秀な文官がやられているんだぞ、よくもそんな事が言えたな!」



 ランドロー郡長とファブリス郡長は、言い争いをして今にも喧嘩を始めそうな感じがする。

 このままでは話が前に進まないと、家老であるマーロンがテーブルを叩いて全員を黙らせる。



「2人とも良い加減にしないか、誰の前だと思っているのだ? これ以上の醜態は、処刑の対象になるぞ」


「ローランドさま、申し訳ございませんでした」


「謹んでお詫び申し上げます」



 マーロンは、ローランド尊極大名の前で何を言い争っているのかを注意する。

 そしてこれ以上の醜態は、処刑に値すると脅した。

 これには2人とも静かに謝って椅子に座る。



「しかしマーロンさま、そんなに冷静なのはどうしてですか?」


「そうだ、そんなに冷静なら何か良い案でも思いついたんでは無いですか? 家老としての考えを聞かせていただきたい!」



 落ち着いているマーロンに、何か良いアイデアは無いのかと2人は問うのである。



「まだ疑うべき人間も定まっておらぬのだろう? ならばやる事は1つじゃろうが、疑いがある者を投獄し様子を見るしか無かろう」



 確かに各地で被害は出ているが、どこの誰がやったのかが判断できかねる。

 容疑に上がる人間すらいない状態だ。

 そう慣ればマーロンは、疑いがある人間を片っ端から投獄するのが良いと提案した。

 そうでなければ埒が明かない。

 疑われれば捕まるという風になれば、怪しい動きをする人間もいなくなるはずだと言う。

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