066:惜しい
俺はリキャルド尊極大名と、ルバート将軍の首を取る為に荒道に飛び込む。
そのまま息を殺しながら荒道を進んでいく。
大きな音が隣で鳴り続けているので、俺が荒道を歩いている時の音は掻き消されている。
これは好都合だと思いながら進む。
そしてリキャルド尊極大名とルバート将軍が戦っている最前線の横にやって来た。
さすがの俺も戦って来た中で、1番の大物なので「ふぅ……」と深呼吸をしてから飛び出す。
「リキャルド、お覚悟ぉおおおお!!!!!」
俺はリキャルド尊極大名の名前を叫びながら、荒道を飛び出して斬りかかる。
見事にリキャルド尊極大名の意表を突けた。
これは討ち取れる!と俺は思った。
しかしそう簡単にはいかなかった。
異変を察知したルバート将軍が、咄嗟に俺とリキャルド尊極大名の間に入って、俺の剣を受け止めた。
「青年、良い一撃だ」
「軽々と止められて上に、そんな事を言われても嫌味にしか聞こえねぇよ」
「そんな事ないぞ? 私がいなければ確実に、リキャルドさまの首は刎ねられていた……だから誇れ!」
ルバート将軍は最も簡単に止めておきながら、俺の一撃を素晴らしいと褒めて来た。
こんな簡単に止められてから良い一撃だと言われても嫌味にしか聞こえない。
どうやらルバート将軍的には本気で褒めたらしい。
ルバート将軍がいなければ、俺がリキャルド尊極大名の首を取っていた。
それくらいの一撃だった。
そう討ち取れていたのだ。
ルバート将軍さえいなければ戦いは終わっていた。
俺は鍔迫り合いをしながら、ルバート将軍の足の甲を踏みつけ、続けるように左肩でルバート将軍をグッと後ろに押した。
ルバート将軍の重心が後ろに向いた瞬間、俺は後方にジャンプをして距離を取る。
このまま鍔迫り合いをしていたら、経験の差でズルズルとルバート将軍のペースに持ち込まれる。
そうなったら俺に勝算は無い。
だから、その前に距離を取る必要があったのだ。
「良い判断だ、君にどれだけセンスがあっても私の経験値には敵わないからね」
「チッ、伊達に将軍ってわけじゃねぇか」
「お前たち、私に代わってリキャルドさまをお守りしなさい。もしもがあったら、首と胴体が離れる事になると思いなさい」
ルバート将軍は踏まれた足を、空中に上げ「いたたた」と思いながらリキャルド尊極大名の方を見る。
そして周りにいる兵士たちに、自分に代わってリキャルド尊極大名を守るように指示した。
もし守れなければ、首を刎ねると脅した。
異様な威圧感に兵士たちは「はい!」と返事をする。
自分の不安を取り除いてから、スッと視線を俺の方に戻してニコッと笑うのである。
その笑顔に俺はゾッとした。
「アンタ……気味が悪いな」
「ははは、たまに言われるよ。これは経験に基づく事なんだけど、私の事を気味が悪いって言った人間は高確率で猛者なんだよ」
「そりゃあ気が付かないのも仕方ねぇよ。アンタの気配は大将軍とかいう人間とは別だ……何かヌメッとした感じだ。怪物っていうよりも化け物って感じか」
「それは面白い例えだねぇ、そんな例えをしたのは君が初めてだよ。さぁ君の実力は、どんなものなのかを試させて貰おうかな」
「望むところじゃねぇか、こっちはテメェの首を取ってからリキャルドの首を取ってやる!」
俺はルバート将軍の異様な威圧感に、気味が悪いという風に現した。
するとルバート将軍は驚いた顔をしている。
どうやら自分の事を気味が悪いと言った人間は、高確率で猛者なんだという。
俺的には周りが気がつかなくても仕方ない。
ルバート将軍の気配は、大将軍的な強者って感じとは少し違う感じだ。
例えるなら蛇だろう。
ヌメッとした恐ろしさ。
自分の異様さに気がついた俺は、どんな猛者なのかとルバート将軍は剣を構える。
俺も剣を構え、ルバート将軍を討ち取ってから直ぐにリキャルド尊極大名の首を取ってやると、一気に地面を蹴り出してルバート将軍に斬りかかる。
ルバート将軍は屈強というわけじゃないので、押し切ってしまえと力を込めて打ち込む。
しかしルバート将軍はピタッと俺の剣を受け止めた。
まさか力一杯の一撃を、こんな簡単に受け止められるとは思っていなかった。
「なっ!? う 嘘だろ、どこからそんな力が……」
「いやぁ、やっぱりその若さにしたら素晴らしい力だ。あと5年違ったらやられてたかも……まぁそう簡単に負けるつもりは無いけどね!」
押し切ったつもりが逆に押し返されてしまった。
押し返された俺は体勢を崩された上に、山道の道が悪く地面に尻餅を着いてしまう。
直ぐに顔をパッと上げると、既にルバート将軍がニコッと笑いながら剣を振り上げていた。
俺は咄嗟に「やばい!?」と思って真横に転がる。
ギリギリで避けられたが、このままでは第2第3の攻撃が来ると思って地面の土を掴む。
そして思い切りルバート将軍の顔面に投げつける。
顔に投げつけられた事でルバート将軍は、右腕でバッと顔を隠して土を防ぐ。
その隙に俺は立ち上がって距離を取る。
「ははは、やっぱり君は面白いな。ただ武芸として剣術をやっているわけじゃ無い。実践で殺されないようにする為の戦い方だ……実に殺すのが勿体無い。そうだ、今からでも我ら方に着かないか? それなりの待遇で君を受け入れるぞ?」
「その申し出は騎士として嬉しいものだがな。ここで主君を裏切るような騎士に、これからがあるとは思えねぇんだよ。アンタも易々と敵を勧誘なんてすんな」
「私はね、有能な人材なら敵味方なんて関係ないって思っているんだよ。だって有能な人材っていうのは、どこに転がっているかなんて分からないからね」
俺の事をルバート将軍は本気で褒めた上で、仲間にならないかとスカウトして来た。
確かにこんな人間に仲間にならないかなんて言われたら、別に嫌な気はしない。
しかしこんなところで主君を裏切るようなら、そんな人間に先なんて無いだろうと俺は思う。
この意見にルバート将軍は子供のように笑う。
有能な人材が居たならば敵も味方も関係ないと。
特殊といえば特殊だが、それでもルバート将軍は本気で俺の事をスカウトしているのだと分かる。
なおさらルバート将軍に負けるわけにはいかない。
俺は無言で剣を構える。
するとルバート将軍も「おっ!」と言った感じで、剣を構え騒がしい中で静かな静寂が包む。
どちらが先に攻め込むのか、沈黙の中でせめぎ合いをするのである。
俺もルバート将軍も攻め込まない。
どちらも動こうとしないので、痺れを切らしたルバート将軍が先に動き出した。
俺の頭をカチ割る勢いで剣を振り上げ、頭目掛けて振り下ろすのである。
それを俺は剣を斜めにして受け流した。
そしてルバート将軍の剣は地面にぶつかる。
俺は「ここだ!」と思った。
カウンターを入れるべく空中で円を描くようにする。
そのまま剣を振り下ろそうとした。
「惜しい」
そう聞こえた俺は「え?」と思った。
すると俺の視界にルバート将軍の頭が近付いて来る。
そして俺の鼻っかしらにルバート将軍の頭が、ドンッとぶつかって俺の顔は弾ける。
後ろに蹌踉めき鼻血がプシュッと吹き出した。
鼻を抑えながら顔を上げた。
既にルバート将軍は剣を上げており、もう避けられるところでは無かった。
スローモーションに見えながら俺は、ズバッと斜めに体が斬られてしまったのである。




