065:退けぬ道
俺たちレオン軍先導部隊は、ディルスの指示で本陣から離れ最前線に援軍としていって欲しいと言われた。
こう言われてしまったら俺たちに断る事はできない。
300人いる俺たちは、前線に向けて行軍を始める。
山道は道が狭いので、横幅を広くいくわけにはいかずに縦長になってしまっている。
もちろん歩くに適していない場所もあり、そこを通る事もできなくは無い。
しかしガサガサと音が鳴る上に踏ん張りが効かない。
その為、行軍にも戦場にも向いていない。
「なぁフェリックス」
「何ですか? もう直ぐ前線が見えて来ますよ?」
「こんなに狭いところで戦った事あるか? ちなみに俺は……無い」
「俺も別に無いです。でも、こういう場合も想定した自主練もしていたので」
「お前って、そんなところまで考えて鍛錬してたのか。その若さにして末恐ろしいな……」
「別に普通なんじゃないんですか? 皆んな同じだと思いますけど、俺は戦場で死にたく無いんで、死ぬほど努力するのは当たり前なんじゃないんですか?」
先輩兵士は俺に、こんな狭いところで戦った事があるかと聞いて来た。
ちなみに先輩は無いらしい。
俺だって、こんな狭いところで戦った事はない。
しかしもしもの時の為に、俺は自主練で狭いところでの立ち回りについても考えていた。
だから実戦で出すのは初めてだが、別にそこまで「ヤベェ……」という感覚はない。
そんな俺に先輩兵士は「ほへぇ」と驚いている。
18歳という若さで、そんな事を考えているなんて信じられないという感じなのだろう。
だが俺としては当たり前のように感じている。
だって戦場で気を抜いたり、焦ったりしたら死ぬ。
死ぬたくないんだから、死ぬほど努力するのは当たり前だと思っている。
「ほら先輩、見えて来ましたよ。剣に手を持っていっておいて下さい、いつ斬りかかって来るかは分かりませんから油断しないで下さい」
「それくらいは分かってるわ! こちとらテメェの先輩なんだからな!」
俺たちが行軍していると、前方の方から「うぉ!」という声や剣のぶつかる音が大きく聞こえて来る。
もう直ぐ戦場が近い。
そして視界に戦っている戦場が入る。
遂に俺たちは前線にやって来たのだ。
俺は先輩兵士に、もう見えたから剣に手をやっておいた方が良いとアドバイスする。
まぁこれくらいの事は知っていたらしい。
戦いが始まる緊張からテンションが上がっている。
これがいわゆるところのアドレナリンが分泌されている状態なのだろうか。
とにかく少し心配だ。
しかし他者を心配してはいられない。
数は向こうの方が多い。
「やってやる……やってやるよぉ!」
「先輩、少し落ち着いて下さい。そんな肩に力入れてたら、生き残れるものも生き残れなくなっちゃいますよ」
「そんなの分かってる! だけどよ、どうしても肩に力が入っちまうんだよ!」
まぁそりゃあそうか。
今から生きた人間と命の取り合いをするんだ。
そう簡単に覚悟を決めて、自分の命と相手の命のやり取りができるわけないか。
だけど俺だけでも心を落ち着かせよう。
死ぬと怯えたら、それこそ足がすくんで殺される。
だから俺は深呼吸をして無理矢理にでも落ち着く。
すると俺たちの前方にいる兵士が「右から敵襲!」という叫び声が聞こえて来た。
その声に反応して俺たちは右側を見る。
そこには荒道を通って奇襲をかけて来ているリキャルド軍の兵士がやって来ていた。
俺たちは急いで剣を鞘から抜いて敵軍とぶつかる。
俺は1人の兵士と鍔迫り合いになる中、その敵兵の背後に目をチラッと向ける。
荒道ゆえに遅れている兵士たちもいた。
「まだ第二陣、第三陣があるぞ! 持ち堪えなければ横っ腹を突かれてる分、前方が挟み撃ちにあって全滅してしまう! できる限り目の前の敵兵を討ち取るんだ!」
俺は伝えなければいけないと思って、300人に第二陣と第三陣がやって来ると叫ぶ。
この波を止めなければ前方と後方が分断され、前方の方は麓からやって来る敵軍と挟み撃ちになってしまう。
そうなれば総崩れになってもおかしくは無い。
だから俺は部隊全体に向けて、目の前にいる敵兵を討ち取るんだと叫ぶ。
俺の声に仲間たちは「おぉお!!!」と返す。
道が狭いがゆえに、直ぐ乱戦へと入っていった。
狭いなりに俺は無理矢理に距離を詰め、重心を低くして敵を斬っていく。
これが狭いところでの戦い方だ。
やはり想像して訓練していたのが聞いている。
俺は次から次に敵兵を倒していき、他の苦戦してるところに加勢しにいくのである。
すると部隊に余裕が出て来るようになる。
奇襲を悟られないようにしていた為、敵兵は60人前後しかいなかった。
こちらの数を考えたら余裕だったのだ。
だから落ち着く事が重要だったのである。
「よし! 敵兵を全滅させたな! このまま俺たちは前方で戦っている前衛の部隊に加勢する!」
『おぉお!!!』
「今よりも遥かに激しい戦いになるだろうが、それでもディルスさまを守る為に戦うんだ! これに勝利すればレオンさまは、きっと大いに褒め褒美を出してくれるに違いない!」
『うぉおおお!!!!』
部隊長は敵兵を殲滅したのを確認してから、次は前線で戦っているディルス軍に加勢すると言う。
今の戦いよりも激しい戦いになるが、ここで勝利してディルスを守れば、レオンが褒めて褒美を出してくれると兵士の士気を上げる。
さすがは部隊長だと思った。
上手く褒美という言葉を使って、兵士たちの士気を上げさせたのだ。
俺たちは「うぉおおおお!!!!!」と言って、前線に突撃していく。
他の兵士よりも俺が抜け出し、前線に飛び込んだ。
そして敵味方の配置を瞬時に把握して、片っ端から敵兵を薙ぎ倒すのである。
リキャルド軍の兵士たちは「なっ!? 1人手練れのガキがいるぞ!」と周囲と共有した。
しかしそんなの関係ない。
ひたすら敵兵を倒していく。
すると俺はピタッと動きを止め、この敵軍の中で異質な存在を察知する。
「あの特殊なオーラを放ってるのが……」
「あぁ先頭になってる豪華な鎧を着てるのが、ディルスさまの息子であるリキャルドさまだ。そしてその傍にいる次に豪華な鎧を着ているのが、四天王では無いものの家老の1人であるルバート将軍だ」
「アレがリキャルドとルバート将軍……つまりアレを討ち取れば、この戦いは終わる」
「確かに、あの2人を討ち取れば戦いは終わるな……ん? ちょっと待てよ、お前なにか大胆な事を考えていないよな?」
「そんな大した事は考えてませんよ。ただ目の前に、最大の首級が転がってるんですから狙わない手はありませんよね? それじゃあ行ってきます!」
俺の視線の先にリキャルド尊極大名と、ルバート将軍がいるのを発見した。
先輩兵士に2人が最大の首級であると聞いた。
それを聞いた俺は「ふふふ……」と不敵に笑う。
俺の不敵な笑みを見た先輩兵士は、何か嫌な予感がして変な事を考えていないかと聞いて来る。
別に変な事は考えていない。
ただ目の前にいる大将首たちを、自分の手で討ち取ろうと思っているだけだ。
そう決めた俺は荒道に移動する。
確かに足元は取られるが、これなら余計な戦いをせずリキャルド尊極大名とルバート将軍のところに行ける。




