064:倅のくせに
ホンゼ将軍とアレス将軍は、自軍を率いて中央軍から離脱してアートン城の後ろに回った。
そしてそこに改めて布陣し直すのである。
これはこれからやって来るであろうレオン軍を、迎え撃つ為の準備だ。
リキャルド尊極大名もレオンを警戒している。
もちろん当初は別の人間が、レオン軍に対しての対応を任せていた。
しかしそれでは足りないと考え、自分が中央軍を率いるから2人にはレオンを任せると頼まれた。
「リキャルドさまは大丈夫であろうか? もちろん俺たち以外に信用できる人間たちが、多く側にはついているが……それでも不安だ」
「何の問題もないだろう。確かにディルスさまは、一代で尊極大名にまで成り上がった怪物だ……しかしリキャルドさまとて、こんなにも多くの人間が付き従うだけの才覚を持った怪物だろうからな」
「確かにアレス殿の言う通りだ……」
ホンゼ将軍は本当に大丈夫なのかと心配している。
リキャルド尊極大名の側には、自分たち以外にも信用できる人間が多くついている。
それでも心配である。
これにアレス将軍は心配はいらないというのだ。
根拠としては薄いと思うが、リキャルド尊極大名はディルスに引けを取らない怪物であると称した。
アレス将軍の言葉がスッと胸に入って来て納得する。
アートン城の裏では着々と新たな陣形が組まれている中で、アートン城の正面でも準備が行なわれている。
もちろんそれはリキャルド尊極大名が直々に、周りに指示を出して陣形を作る。
自分が先頭を切る事を頭に置いて組み直す。
自分の近くにはルバート将軍を配置させる。
左右軍は、そのままに中央軍だけを再編成させた。
そしてリキャルド尊極大名も家臣たちも納得できる布陣を完成させた。
その軍の先頭にリキャルド尊極大名が立つ。
「お前たち! これから川を渡り、ディルス軍に突撃する!」
『おぉおおおお!!!!!』
「先陣は俺が切らせて貰う! お前たちの事を信じ、背中は任せよう! その代わり俺が目の前の敵を薙ぎ倒し、お前たちの為に道を切り開く!」
『うぉおおおお!!!!!』
「さぁ俺たちの凄さを、ディルス軍に知らしめてやろうぞ! 突撃だぁああああ!!!!!」
『うぉおおおお!!!!!』
リキャルド尊極大名は兵士たちに、自分が先頭を切るからついて来るように叫ぶ。
これに兵士たちは歓声を上げて答える。
そして剣を天に掲げてから、川向こうにいるディルス軍に向けて振り下ろす。
そのままリキャルド軍は突撃を開始した。
一方でディルス軍の本陣は、川の近くにある山に移って行ったのである。
山頂に登るとディルスは、ここに本陣を張ると言って急いで家来たちに指示する。
この本陣の後方は崖になっている。
その崖の下には大きな川が流れており、背水の陣と言った感じが醸し出されている。
ディルスが選んだ、この山は道が入り組んでおり自然の迷路なのだ。
「なぁフェリックス、ここを選んだって事は……」
「えぇもう下がらないっていう意思表示でしょうね。あとは単純に道が入り組んで狭いから、ここまで来るのに兵士が限られるっていうところだと思います」
「やっぱりそうだよな。ここまでリキャルドが来たら、万事休すってところか……なんか騎士震いするな」
「騎士震いって、単純に怖いんじゃ無いんですか? 恥ずかしい事じゃないんですから、そんな強がっても仕方ないですよ」
「そんなこと言うなよ! こっちは怖くて逃げ出したいんだぞ……ここに立ってるのを褒めて欲しいわ!」
先輩兵士の考えと俺の考えが初めて合った。
ここを選んだのは、もちろん道が狭く入り組んでいるので敵が押し寄せずらいというのが大筋だろう。
しかしあと考えるとすれば、背後は激しい崖なので下がらないという意思表示とも言える。
この状況に先輩兵士は震えているのが見えた。
自分では騎士震いと言っているが怖いのだ。
本人は認識したく無いから言い換えたのだろうが、俺は怖いと言った方が良いと進言した。
すると先輩兵士は、逃げ出したいのを耐えているのだから褒めて欲しいと子供のように地団駄を踏む。
「とにかく敵兵が来たってなったら、俺たちでディルスさまを守って見せましょうよ」
「お おぉ! 俺だって兵士だ、目の前に敵が来るからって逃げるわけにはいかねぇ!」
「そうですよ! 俺たちは騎士を目指す兵士、こんなところで負けるわけにはいきません。逆に言えば、ここで生き残れば名誉も実力も手に入りますよ!」
「そう考えるとテンションが上がって来たな! なんか早く戦いたくやって来た!」
このままではテンションが下がったままになってしまうと思った俺は、先輩兵士にテンションが上がるようにフォローするのである。
もちろん嘘は言っていない。
こんなところで負けるわけにはいかない。
ただの兵士なんかで終わらず、絶対に騎士になってみせると心に決めているのだ。
するとそこに麓から兵士が走ってやって来る。
ディルスの前に到着すると地面に膝を着いて頭を下げてから報告をする。
「リキャルド軍、リキャルドさまが自ら先陣を切って川を渡りました! そして今し方、我が軍の先陣と衝突したと思われます!」
「なに? リキャルドが先陣を切っているだと? それは真か?」
「は! 自ら軍を率いております!」
「元々、配置されていたアレスとホンゼはどうした? アレが周りを固めているのか?」
「いえ! お二人はアートン城の裏に回り込んで、そこに布陣したとの事です!」
報告を受けたディルスは、顎に手を持っていって驚いた素振りをする。
まさかリキャルド尊極大名が自ら軍を率いているなんて思ってもいなかったからだ。
リキャルド尊極大名が自ら率いているならば元々、配置されていたホンゼ将軍とアレス将軍はどこに行ったのかと聞くのである。
ディルスの予想では別の場所に配置したか、もしくはリキャルド尊極大名を守っているのでは無いかと考えていた。
実際は2人ともアートン城の背後に布陣した。
それを聞いてディルスは納得する。
「そうか、奴ら2人をレオン君の軍の方に回したというわけか……ワシの倅のくせに、随分と念には念を入れているみたいだな」
「ディルスさま、どうなさいますか?」
「レオン君に早馬を向かわせ教えてやれ。あとはバカ息子が、直接来ているというのならば討ち取るまでだ。先頭に立つバカ息子を討ち取れ!」
レオン軍を警戒してホンゼ将軍とアレス将軍を、アートン城の背後に布陣させたのだとディルスは気がつく。
そしてその判断は自分の息子なのに、念には念を入れているみたいだと大笑いした。
とにかく目の前に総大将が来ているのだから、その総大将を討ち取って首を取ってやれと全軍に指示を出し、徹底抗戦の姿勢を見せるのである。
「レオン君からの援軍である君たちには、前線に向かって貰いたい」
「ここの守備はよろしいでしょうか?」
「この道幅なら、こんなに割かなくても問題ないだろ。それなら君たちには是非とも前線に向かって貰いたい」
「承知しました、それでは向かいます」
ディルスは俺たちに、前線へと行って欲しいと頼む。
ここの守備は良いのかと確認したが、この道幅ならこんなにも大人数でなくて良いと言う事だった。
その為、俺たちは前線に向かう。




