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063:息子の苦悩

 リキャルド尊極大名は最初からアートン城に住んでいたわけでは無い。

 元々はアートン城の城下町に住んでいた。

 父親はいないと言われており、体の弱い母親と共に2人で貧乏ながら仲良く暮らしていた。

 リキャルド尊極大名は5歳の時から、母親の病院代を稼ぐ為に金稼ぎをしていた。

 その才覚は城下の商人たちが認めるほどだ。



「こりゃあリキャルドは、ディルスさまの若い頃に似ておるな!」


「うん、確かに! ディルスさまも若い時から商売の才覚が凄かったものねぇ!」



 商人たちはリキャルド尊極大名の才覚を、高い頃のディルスに似ていると誉めていた。

 もしかしたら将来はディルスのようになると。

 この時のリキャルド尊極大名は、まだディルスの事を尊極大名だとしか知らなかった。

 そんな人と似ていると言われて嫌なわけが無い。

 せっせと母親の為に働きまくった。

 しかしリキャルド尊極大名が、8歳の時に母親は介護の甲斐なく手の施しようがなくなってしまう。



「リキャルド……ごめんね」


「何を言ってるのさ! 母ちゃんなら、また元氣になるから大丈夫だよ! その為なら僕は、いくらでも働いて金を稼ぐからさ!」


「うう……今度はダメみたいなの」



 弱っている母親を、リキャルド尊極大名は涙を流しながら手を握って励ます。

 母親の手は力無く、既に冷たくなり始めていた。

 それがリキャルド尊極大名に、とてつもない絶望感を与えてしまうのである。

 そんなリキャルド尊極大名を見た母親は、優しく微笑んでから涙を流し、手を頭の上に乗せる。

 そしてヨシヨシと優しく撫でた。



「死ぬ前に1つ……リキャルドに教えなきゃいけない事があるの」


「そんなこと言わないでよ! 何個でも教えてよ!」


「きっとリキャルドなら、これだけ伝えれば……強く生きていけるわ。だって貴方は、私とディルスさまの子供なんだから」


「え? ディルスさまが父ちゃん……でも父ちゃんは死んだって母ちゃんが!」


「アレは嘘よ。ディルスさまに迷惑をかけたくなかったの……だけど私がこの世から去るなら、リキャルドは頼る人がいなくなるでしょ? そうなる前に、教えておかなきゃって思ったの」



 母親はリキャルド尊極大名に、本当の父親はディルスであると明かした。

 まさかそんなわけが無いと頭が停止する。

 リキャルド尊極大名にとってディルスとは、手も届かないような雲の上の存在だったからだ。

 落ち着いて母親に再確認する。

 それでも事実は変わらず、リキャルド尊極大名の父親はディルスであるという。

 どうして隠していたのか。

 それは子供が産んだなんてディルスに言えば、困らせてしまうと思ったからだ。

 しかし自分は死ぬ、このままではリキャルド尊極大名は一人ぼっちになってしまう。

 それだけはさせてはいけないと思ったらしい。


 どうしてディルスと、ただの町娘だった母親の間にリキャルド尊極大名が生まれたのか。

 それは簡単な話で、母親が城で侍女として働いていたからである。

 その時にディルスが母親に目をつけたのだ。

 そしてリキャルド尊極大名が生まれた。

 もちろん側室は認められているので、母親も側室になる事はできた。

 しかし順番がよろしくなかった。

 まだ正室との間に子供がいなかったのだ。

 その為、黙って城を出て城下で暮らすようになった。

 これがリキャルド尊極大名の出生である。



「だから少し前に、恥を忍んでディルスさまに相談したのよ……そうしたらディルスさまは、正式にリキャルドを嫡男として迎えると言ってくれたわ」


「え? 僕が大名の嫡男……」


「そうよ、これから大変だと思う……だけどね、貴方は1人じゃないわ。ディルスさまや正室の奥方もいる、私だって貴方の近くで見守っているはず………だから頑張って生きて………」


「母ちゃぁああああん!!!!!」



 こうして母親は若い息子を残して、無念にこの世を去っていったのである。

 そしてリキャルド尊極大名もピルヤ家に、嫡男としてやって来た。

 ここから地獄のような日々が始まるのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 リキャルド尊極大名は、呼んでいるホンゼ将軍とアレス将軍を待っている間、目を瞑って瞑想をする。

 瞼の裏側に子供の時の映像が流れる。

 あまりにも辛い過去である為、忘れようと無理矢理に無心になろうとする。

 その為ルバート将軍が「リキャルドさま?」と呼ぶ声が聞こえていなかった。

 反応しないのでルバート将軍は、肩を優しくポンポンッと叩いて反応させた。

 目を開けたリキャルド尊極大名は、ギョロッと目だけをルバート将軍の方に向け「どうした?」と聞くと、ルバート将軍は膝をついて頭を下げる。

 そして2人が到着した事を伝えた。



「ホンゼ、アレス……当初の作戦を緊急で変更する」


「作戦を変更ですか?」


「我らが呼ばれたという事は、左右軍の突撃ではなく中央軍が突撃するという事でしょうか」


「概ね、それで間違ってはいない。しかし大きなところで変更は……俺が直々に中央軍を率いて、川を渡りディルスの首を取る! このままでは、俺は周りから良い笑い物になってしまう!」


『なっ!? リキャルドさまが直々に!?』



 ホンゼ将軍とアレス将軍の2人に、緊急で作戦を変更すると伝えた。

 2人ともディルスの元で多くの戦争を経験しているので、何を言おうとしているのかと察する。

 しかしさらにリキャルド尊極大名は驚く事を言う。

 自分が直々に軍を率いて戦うと言うのだ。

 一国の尊極大名が先頭に立って、相手の首を取りに行くなんて普通ならありえない。

 だから2人は両手と首を、全力で横に振って止める。



「それは絶対にダメです! 確かにリキャルドさまが先頭に立てば、全員の士気は高まります!」


「しかしそれはあまりにも危険にございます! 圧倒的な兵力差があるとは言えども、向こうはディルスさまが率いる軍です。何をしてくるか、分かりません!」


「だからだ! 俺自身がディルスを討ち取ったという事実が欲しいんだ。ディルスを、この手で討ち取れば名実ともにグルトレール州の尊極大名になれる……そうなれば誰も文句は言えない!」



 必死にホンゼ将軍とアレス将軍は、リキャルド尊極大名を説得しようとする。

 戦っている相手は自力で尊極大名になった男だ。

 そんな人間と戦うのに、総大将が先頭に立って戦うのは、あまりにもリスクが高すぎる。

 それでもリキャルド尊極大名は、ディルスを自分の手で討ち取ったという事実が欲しい。

 そうすれば名実ともにディルスを越えた尊極大名だと周りが認めてくれると思っているのだ。

 明らかにディルスという化け物に囚われているリキャルド尊極大名を目の当たりにした2人は、どう説得したとしても納得する事は無いだろうと諦めた。



「分かりました……それでも警護は、しっかりとさせて貰いますよ! 貴方はボルトレール州の尊極大名なんですから」


「あぁもちろんお前たちが納得する形を取る。しかし俺からも、お前たちに改めて指示を出させて貰う」


「新しい指示ですか?」


「お前たち2人には、アートン城の裏側に軍を引き連れて回って貰う」


「え? アートン城の裏にですか?」



 リキャルド尊極大名は2人が納得する形を、きっちりと取るからと安心させる。

 2人が納得したところで、リキャルド尊極大名は新たな指示を2人に提示した。

 その指示を聞いた2人は驚く。

 目の前に布陣するのではなく、アートン城の裏に回って布陣して欲しいと頼んだ。

 どうして後ろに布陣するのかと困惑する。

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