061:カールトン川の戦い
レムス大隊組頭が率いる一番槍隊が、川の淵に陣取りリキャルド尊極大名の号令を待つ。
すると真っ赤な甲冑を着たリキャルド尊極大名が現れると、全軍がピシッと背筋を伸ばして整列する。
リキャルド尊極大名は、グルッと軍の全体を見る。
満足そうな顔をしてから口を開く。
「お前たち、随分と良い顔をしているな。元主人を相手しているというのに、その面構えはどうかと思う……しかし! それで良いのだ、それこそが我らの仕事だ。古び害をなしている人間を排除するのは当たり前の事だ」
リキャルド尊極大名は、自分の元主人である人間を殺すのに良い顔をしていると言った。
ブラックもブラックなジョークだ。
しかしそれこそがグルトレール州の尊極大名に仕える家来たちだと褒める。
ディルスは既に州にとって害となっている。
そんな人間は排除する必要があると言う。
「良いか! 世界を変えられる人間は、己を変えられる人間でなくてはならない! 貴様らには、きっとディルスへの忠義の気持ちが、少しは残っているだろう……別にそれを持っていても構わない! しかしそれに甘んじ変化をしようとしない事だけは止めろ!」
ディルスへの忠義が、ほんの少しでも残っている人間が、この陣営に多くいる事はリキャルド尊極大名も理解している。
それでも忠義だからと目の前の変化を怠る事だけは、絶対に止めて欲しいと叫ぶ。
この演説を兵士たちは静かに聞いている。
胸に染みているようにも思える。
「俺はディルスという大きな壁を越える時が来た! このまま親子だからと甘んじていたら、この州は他の国に置いて行かれてしまう! 今日この日を持ってグルトレールの毒蛇を超える!」
『うぉおおおお!!!!!』
この戦いを持ってリキャルド尊極大名は、父親であり壁と思っていた人間を超えると宣言した。
そして拳を高々と掲げる。
これに兵士たちも拳を掲げ、雄叫びを上げた。
リキャルド軍の士気は、リキャルド尊極大名の演説によって頂点に登っている。
「このレムスが一番槍を務めさせて頂きます! リキャルドさま、どうぞお声かけを!」
「よし! レムス、任せたぞ!」
「はは! お任せあれ!」
「お前たち、突撃だぁああ!!!」
『おぉおおおお!!!!!』
レムス大隊組頭は鞘から剣を抜いて天に掲げる。
そしてリキャルド尊極大名の鬨の声を上げ、それに合わせてレムス大隊組頭たちは川を渡る。
これに対しディルス軍は川には入らず、岸から槍を使って対応する。
これなら数の不利を解消できると思ったからだ。
その考え通り、突撃してくるリキャルド軍の兵士たちを倒していくのである。
「おぉこっちが押してるぞ! これなら俺たちが勝てそうじゃないか! 数が何だってんだ!」
「いや、そういうわけにはいきませんよ……」
「ん? 随分とネガティブなんだな、これ見ても不利だって言うのか?」
「ネガティブとかっていうわけじゃないですよ。この場合は少しの数的不利を解消するものであって、この戦いにおいては……ほら、あれを見て下さい」
先輩兵士はディルス軍が押している事に興奮し、数にビビっていたのが馬鹿らしいと笑うのだ。
これなら勝てそうだと楽観的な姿勢を見せる。
しかし俺の意見は、全くの正反対だった。
そう簡単にはいかないというのが俺の意見だ。
俺の意見を聞いた先輩兵士は、ネガティブな思考なんだと言ってくるのである。
それでも俺はネガティブだとは思わない。
俺は視線を戦場に戻すと、やはり俺の予想通りになっていて指を指して視線を誘導する。
さっきまでは明らかに優勢だったディルス軍の兵士たちが、レムス大隊に押され始めていた。
普通の数的不利な場合だったら、この戦い方でも対処する事はできるだろう。
だが今回の数的不利は圧倒的だ。
こんな状況では意味をなさない。
レムス大隊は数の暴力で、岸のディルス兵を圧倒し始めたのである。
そして渡りきった。
「上陸したら周りの敵兵を斬りまくれ! 1人残らず、ディルス兵を始末しろ!」
『おぉおおおお!!!!!』
大量のレムス大隊の兵士たちが、ゾロゾロと対岸に渡り始めた。
その光景を俺たちは本陣から見つめている。
「フェリックスが言った通りだな……まさかあんな簡単に上陸されるなんて」
「数ほど恐ろしいものはありませんからね」
「確かに」
「俺たちも覚悟しておいた方が良さそうですよ。もしかしたら本陣まで来るかもしれない」
もしかしたらレムス大隊は、ディルス軍の本陣までやって来るかもしれないと準備を始める。
この予想通りレムス大隊は、本陣の目前まで迫った。
すると本陣の目の前に待機していた旗本たちが、一気にレムス大隊に斬りかかった。
「ら 乱戦になったな……」
「これなら勝算が出て来ましたね。乱戦なら士気の高いディルス軍にも勝算があります」
旗本とレムス大隊の戦いは乱戦に入った。
ここが勝負どころだと思ったディルスは、本陣に座っていたが立ち上がって天幕の外に出る。
「お前たち! 数が違うというのは、ただの言い訳である! こんなところで負けるわけにはいかん! 絶対に目の前の兵士を倒すまで倒れるな!」
『おぉおおおお!!!!!』
ディルスは自分の部下たちに、数が違うというのは言い訳であると宣言し、こんなところで負けるわけにはいかないから、もっと全力を出すように叫ぶ。
不思議だろう。
ディルスやレオンと言った上に立つ人間たちの声さ、不思議と胸を貫く。
そして自然と力が湧いて来る。
今回も同じだ。
兵士たちは数の差を言い訳にせず、乱戦で優位に立っていくのである。
「報告します! 各部隊長が、次々とお討死にしております!」
「なんだと! 数は、こっちが圧倒しているんだぞ! こっちの被害は、どれくらいだ!」
「は! その数……約3000です!」
「なんだと!? 半分以上じゃないか……このまま戦いを続けたら、こっちが全滅するのは確かか」
レムス大隊組頭は、報告を受けて驚きを隠せない。
自分の部下である部隊長たちを信用して連れて来たというのに、次々と討ち死にしていく。
それはそれは大勢である。
この部隊には5000の兵が任せられていた。
そんな兵士たちの半分以上が、乱戦の中で討ち取られてしまったのだ。
こうなったら立て直しは難しい。
このまま戦い続けたら、ディルス軍に勢いを与える。
そう考えたレムス大隊組頭は冷静だった。
「撤退だ! こんな無様な姿を、リキャルドさまに見せてしまったのは申し訳ないが……このまま全滅するよりはマシだろ! 総員、川を渡って撤退だ!」
レムス大隊組頭はレムス大隊総員に向かって、川を渡り撤退すると指示を出した。
こんな大敗の姿を見せてしまったのは、とてつもなく悔やまれるところだが、全滅するよりかは形が良いだろうとレムス大隊組頭は考えていた。
その指示通りにレムス大隊は川を渡ろうとする。
しかし引くと思っていたディルス軍が、敗走するレムス大隊の背を打ったのだ。
これに隊が総崩れとなっているレムス大隊は対応する事ができなかった。
それにより第1戦でレムス大隊組頭は討死した。
ラウンド1はディルス軍の勝利となった。




