060:何の為に
俺たちがディルスの下に到着した頃には、もう既に両軍とも陣を張っていた。
遠目から見たら、その戦力差が如実に分かる。
しかし逃げるわけにはいかないので、俺たちはディルスに挨拶しに向かった。
隊長が代表して挨拶を行なう。
「ディルスさま、援軍の要請に呼応し馳せ参じました」
「おぉ良くぞ、来てくれたな。君たちが来てくれれば百人力じゃわ!」
「はは! よろしくお願いします」
俺たちが到着したと同時くらいに、レオンからの早馬がやってくるのである。
何かと思ったらレオン軍もタールド城を出立し、こちらに向かっているという事だった。
それを聞いたディルスは安堵した表情を浮かべる。
城の位置関係的に、リキャルド尊極大名とディルスが向かい合っていればレオンが布陣するのは、リキャルド尊極大名の軍の背後となる。
挟撃する事ができるというわけだ。
「貴殿らには、我が本陣の護衛に当たって貰いたい」
「承知いたしました。しっかりと護衛させていただきますゆえ、どうぞよろしくお願いします!」
俺たちは本陣に布陣しディルスを護衛する為、ディルス軍の本陣を守っている部隊の後ろに並ぶ。
別に今すぐ始まるわけじゃないが、体がグッと上から押し付けられているような空気感を感じる。
これが初陣というわけではない。
もちろん慣れるのも危険だと思う。
しかしこの空気感は、俺の全身を硬直させる。
「フェリックス、大丈夫か? あんまり気負うなよ?」
「え? はぁ……まぁこの空気感だけは、どうも慣れないって言いますか。とりあえず怯えてるとかってわけじゃないので、大丈夫です」
「そうか? それなら良いけどさ」
「緊張してるとかっていうよりも、今はワクワクして早く始まらないかって思ってます」
「おぉそれは頼もしいじゃないか。まぁ本陣まで迫ってくるってんなら、それは危機だけどな」
俺は緊張をしている。
だが緊張よりも、早く始まって欲しいというワクワク感が胸に広がっている。
確かに先輩兵士の言うように、ここまで敵兵が来るという事は、この戦いが追い込まれているという事だ。
それを思うと、不思議と全身の緊張が解けるようだ。
戦場のピリピリした感覚を感じながら、いつ戦いが始まるのかと気を緩めない。
しかしディルスもリキャルド尊極大名も攻めようとはせず、太陽が沈んだ。
今日は戦いは始まらないのだと分かった。
そして交代制で休みを取る。
「なぁフェリックス」
「はい? どうかしましたか?」
「お前って農民の出身だったよな?」
「はい、農民も農民ですよ。しかもタダの農民じゃなくて下級農民です」
「それなのに凄いな……ここまで成り上がるのは、レオンさまもフェリックスには、かなり期待してると思う」
先輩兵士は焚き火を囲いながら、俺に農民の出身だろうと確認してくる。
俺は「はい」と返事をした。
それだけじゃなく下級農民であると言った。
先輩兵士は俺が、ここまで成り上がった事を単純に褒めてくれるのである。
さらにレオンも期待していると言う。
俺は「へへへ」と照れる。
「いきなりどうしたんですか?」
「いや、こういう時ってナーバスになるだろ? 戦うのは動物とかじゃねぇんだ……敵は喋り意思疎通のできる人間なんだよ。さらにソイツらにも家族がいる」
「確かにそうですね、それは絶対に忘れちゃいけない事です。それにどれだけ正当化しようとも人殺しは人殺しですから、俺たち兵士は」
「じゃあどうして俺たちは、同じ人間同士で戦ってるんだろうな……もちろん国益の為だって分かってるよ」
これは相当ナーバスになっている。
確かに理解できなくは無い。
俺だって初陣の時は、人を斬る時に胸がズキッと痛くなり、その日は眠れなかった。
だけど戦わなきゃいけないんだ。
もちろん人殺しをしているという事は認めている。
ただこんな狂った世界で、何もせずに人を合戦を止めようと言ったところで詭弁でしか無い。
俺たちは残酷な舞台に上がらなければいけないのだ。
「フェリックスは何の為に戦ってるんだ? 金や名誉、女の為か?」
「それを言わちゃあ、何とも言いづらいんですけど……俺は出世がしたいんですよ。行けるところまで上がっていきたい、そうすれば戦争を無くせる。俺はそう考えていますよ、もちろん甘いってのも分かります。だけど、誰かがやらなきゃいけないんです」
「そうか……お前は本当に強いんだな」
「俺なんて強くも無いですよ。それよりも本当に強いのは、レオンさまです。あの人の指示で数千人が死ぬ事だってある。俺たちの比じゃない罪悪感を感じるはずですが、それを押し殺し統一の為に戦っているんです」
「確かにレオンさまは素晴らしい方だ。そんな方が、ディルスさまを救えと申したんだ……俺たちは全力でディルスさまをお守りしよう!」
俺は何の為に戦うのか。
それは難しい話だ。
さっきも言ったが、どれだけ正当化しようとも俺が人殺しなのは変わらない。
ならば何の為に戦っているのか。
この質問に答えを出すとするならば。
やっぱり俺自身の野望の為だと思う。
成り上がった上で、この大陸から戦争を一掃するというのが俺の野望だ。
ナーバスになりながら焚き火を囲んで喋り、いつでも戦えるように休む事にした。
そして夜が明けると、リキャルド軍に動きがある。
ゾロゾロと軍が隊列を組み始めた。
まだレオン軍は到着していないが、戦わないわけにはいかないのでディルス軍も隊列を組む。
昨日までの睨み合いとは違う。
「これは戦いが始まるな……」
「はい、向こうから昨日までとは違う殺気を感じます。もう時期に開戦しますね」
「それにしたって向こうの兵が多くないか?」
「そりゃあそうですよ、向こうは1万5000以上に大して俺たちは良いとこ2700人くらいなんですから」
「そんな奴らに勝てって、うちの大将もイカれてるよなぁ……」
本格的に戦うとなって向かい合うと、ディルス軍とリキャルド軍の兵力の差をひしひしと感じる。
明らかに兵士の数が違いすぎる。
これにビビらないっていうのは嘘になるだろう。
戦争は確かに上手い下手がある。
だがそれ以上に数の力というのは大きく、数の暴力という言葉があるようにバカにできない。
それでも勝たなきゃいけないのだ。
このまま何もできずに死ぬなんて事は、今世では絶対にあってはいけないと思っている。
だからなのか、不思議と負けるとは思っていない。
「お前たち、これから戦いが始まる! ここで我々が有利だとかはいわん、明らかに不利に立たされているからな。だが負けるわけにはいかん!」
『うぉおおおお!!!!!』
「絶対に勝利を治め、我らが官軍であると示すぞ!」
『おぉおおおお!!!!!』
ディルスは俺たち兵士に向かって、不利ではあるが負けるわけにはいかないと大々的に演説する。
こっちの数が少ないのは、戦う前から分かっていた事なので、今いる時点で数の差からの士気の低下は無い。
逆にいえば勝利する事で、自分たちの名を轟かされると士気が高いのである。
ディルスは笑みを溢し「期待している」と言った。
それを言ってからディルスは本陣に戻って行った。
そしていよいよ戦いが始まる。




