059:その人の在り方
300人で行軍となると、美濃国までは1日半はかかるので野営をしなければいけない。
その為、どこかの村に入る事になる。
しかしそれがリキャルド尊極大名を支持する村に入ったら、とてつもなく大変な事になってしまう。
だからディルスに友好的な人の村に入る。
「村長さん、今日は村で失礼する」
「はるばる遠いとこらからお疲れ様です。どうぞ、この村で休息して行ってください」
「ありがたい、明朝には出立するゆえ端の方で休ませていただく!」
村長はヨボヨボのお爺ちゃんで、ニコニコしながら俺たちを迎えてくれた。
隊長も頭を下げて感謝を伝える。
そして俺たちは村の隅の方でテントを張って野営の準備をする。
そこで俺は焚き火に薪を貰いに、村の中心の方に行くと明らかに人の数が少ない。
もっと人が多かったように思えた。
どうしたのかと村長の家を覗いてみる。
そこには村民たちが集まって、村長と揉めているようだった。
何を揉めているのかと耳を澄ます。
「あの者たちを村に入れるのは反対だ!」
「そうだ! どうしてそんな危険を犯さなきゃいけないんだ!」
「ディルスさまの時代は終わったんだぞ!」
どうやら揉めている理由は、俺たちを村に入れた事にあるらしい。
俺と共に薪を貰いに来ている人間も耳を澄ませ聞く。
「確かに現当主はリキャルドさまじゃ。だがワシらは長らくディルスさまに良くして貰ったじゃろ!」
「それはそれだ! 今はリキャルドさまの時代で、ディルスさまはただの老耄になったんだよ!」
「もうあの人に力は無い! この村を危険に晒すな!」
村長が圧倒的に弱い立場に追いやられている。
これはどうしたものかと俺は困っていると、共について来ている人間が見えてバッと立ち上がる。
そして村長の家の中に入って行った。
俺は「あちゃ〜……」と頭を抱える。
その兵士は家の中に入ると剣を抜いた。
「おい! 元主人の人間に対し、その態度はあまりにも無礼というものでは無いか!」
兵士はブチギレていた。
これには家の中にいた女性たちが、悲鳴をあげて兵士から距離を取る。
男たちは動揺しながら女性の前に立つ。
そして震える声で抗議する。
「ふ ふざけるな! お前たち武家の人間は、いつもそうなんだよ! 平時の時は何もしてくれないくせに、戦争になれば俺たち民に犠牲になれと言うんだ!」
「それがどうした! 戦うのは我らで、多く死ぬのも我らだ。貴様らの生活を守る為に、我らは血を流し友を亡くしているのだぞ! その人間に、ただの老耄になっただと? ふざけた事を吐かすな!」
「そんなのそっちの都合じゃないか! 俺たちだって戦争に巻き込まれれば食糧や金品を取られ、女子供まで奪っていく……それが俺たちの為って言うのかよ!」
「なんだと!」
ここに来て村民たちの怒りが爆発した。
本当ならばビクビクするところを、村民たちは兵士に向かって行くのである。
村民の態度に兵士も後退りする。
武器を持っているのは兵士だが、数の上では村民たちの方が多くなっている。
これはマズイと思った。
俺は溜息を吐きながら村長の家の中に入る。
「そこまでにしましょう、我らが争って何になるんですか?」
「フェリックス……そんな事を言ったてな! コイツらは主人である人を、老耄だと罵ったんだぞ!」
「冷静になりましょう、今の当主はリキャルドさまだ。村長はディルスさまに恩義を感じているから、我らに村の一部を貸して下さったんです。我らは村を借りている立場なんですよ?」
「そ それは確かにそうだが……それにしてもコイツらの物言いはおかしくないか!」
「はい、それもその通りです。しかしこの人たちにも、この人たちなりの生活がある。愛するべき人がいるんですよ、それを我らの都合だけで犠牲にしろとは言えないんじゃないんですか? 我らはレオンさまの義理のお父様であるから助けるんです、周りを犠牲にしてしまったら、それこそレオンさまとディルスさまが悲しむ」
俺は俺なりの考えを述べた。
確かに村人たちの物言いにもダメなところはある。
しかしこの人たちにも守るべき家族がいるのだ。
そんな人間を犠牲にしてまで、現当主では無い人間を助ける意味はあるのだろうか。
俺の話を聞いた味方の兵士は剣を鞘にしまう。
「ここは隊長に話をして、村の外に出る事を考える必要がありますね」
「そうだな……お前の言う通りだ」
俺は兵士の背中を摩りながら、言い分は分かると宥めて家の外に出す。
村長にペコッと頭を下げてから家の外に出る。
そして隊長のいるところまで帰ろうとすると、後ろの方から「ちょっと待ってくれ!」と声が聞こえる。
振り返ってみると、そこには口論をしていた中心の男性が息を切らせながら走って来ていた。
俺たちは足を止める。
「さっきは申し訳なかった……俺たちも家族を守る為に必死だったんだ」
「えぇそれは理解していますよ。だから今から村を出る事を隊長に……」
「それなんだがよ、アンタらにも守りたいものがあるって事を忘れてたよ……すまなかった! こんな村で良ければ、休んでいってくれ! あんな事を言ったが、俺たちもディルスさまには死んで欲しくないんだ!」
男性は俺の話を聞いて、俺たちにも守りたいものがあるという事を思い出してくれた。
そして滞在する事を認めれてくれた。
これに俺は味方の兵士に「どうしますか?」と質問すると、男性は花をポリポリとかいてから「端の方を失礼する……」と小さく呟いた。
俺は大笑いして「大きい声で言いましょうよ!」と兵士の背中を叩いて村民と握手をする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リキャルド尊極大名の居城であるアートン城の謁見の間に、多くの騎士が集められている。
その中でも格式高い5人が、騎士の中でも先頭に立ってリキャルド尊極大名を待つ。
すると扉の前に立つ人間が「大名の入室です!」と言って扉を開いた。
騎士たちは深々と頭を下げて待機する。
リキャルド尊極大名は、ゆっくりと歩く。
そして玉座に、ドシッと腰を下ろすのである。
「面をあげよ」
『はは!』
リキャルド尊極大名の号令で、頭を下げていた騎士たちが頭を上げリキャルド尊極大名の顔を見る。
実の父親を、ギリギリまで追い込んでいるリキャルド尊極大名に恐ろしいものなんてない。
そういう面構えをしている。
「皆の者、もう時期ディルスとの決着の時が来る」
リキャルド尊極大名は、あえて実の父親を呼び捨てにして敵意を露わにする。
そして左から右に視線を動かす。
全員が自分を見ている事を確認してから喋り始める。
「レムス、貴殿に一番槍を任せよう」
「わ 私にですか!? ありがたき幸せ!」
リキャルド尊極大名は、上級家来である《レムス=カナッチ》大隊組頭を一番槍に指名した。
まさか任されるとは思ってはおらず、嬉しいと頭を下げて喜ぶのである。
「そして本陣の護衛に関しては、キルシナラ家に任せる事にした」
「はは! 謹んでお受けいたします!」
今度は本陣の護衛に関してだ。
指名されたのは家老である《ルバート=クレス=キルシナラ》将軍に任せるとした。
もちろん頭を下げて引き受けた。
「さぁディルスに、我らの時代である事を示すぞ」
『おぉおおおお!!!!!』
リキャルド尊極大名は、自分たちの力をディルスに知らしめるのだと声を出した。
それに家臣たちは掛け声を出して呼応する。




