057:ピルヤ家
俺は馬に乗り、グルトレール州に向けて走っている。
レオンとディルスの間で、何かあった時の緊急連絡用の部隊を新設した。
その部隊に俺は配置されたのだ。
部隊長を務めさせて貰えれば、かなり出世かと思われたが、別の人が任命された。
少し残念だがやらざるを得ない。
「フェリックス、遅れてるぞ! 俺たちに遅れる事は許されないからな!」
「う うす!」
馬に乗り慣れていない俺は、部隊の人間たちに少しだけ遅れてしまう。
それではダメなんだと部隊長に叱られてしまう。
叱られて気合いを入れ直し、どうにか逸れる事なくグルトレール州に到着する事ができた。
そして急いでディルスのところに向かう。
この部隊に配属された人間は、通行書を見せるだけで簡単に城の中に入れる。
だからこそ信頼された人間だけが選ばれている。
「ディルスさま、報告いたします! レオンさまからの言伝をお伝えいたします」
「あぁ頼む」
「こちらは既に軍を向かわせる準備はできていて、マリアベル夫人の警護も進めている、との事です」
「そうか、それはありがたい限りだ。こちらからは、今直ぐに開戦の兆しは無いと伝えておいてくれ。リキャルドは、冬が明けた来年に戦いを始めようとしているみたいだ」
レオンは兵を挙げる準備はできていて、それに合わせマリアベルの警護も怠らないと報告する。
それを聞いたディルスは、うんうんと頷いた上でディルス側の伝言も伝えるのである。
しかと伝言を聞いた俺たちは、また直ぐにボロック州へと引き返す。
この仕事は大変だが、それだけ給金も高く仕事をした翌日は休みにしてくれている。
だから良い仕事だと思ってやっている。
今日もグルトレール州まで仕事をしに行ったので、明日は休日である。
たまたまワイツとアイゼルも休みなので、酒場で酒盛りをして盛り上がる。
「今日もグルトレールまで行ってたんだろ?」
「そうなんだよ、別に待遇も悪いってわけじゃないから苦ってわけじゃないんだけどさ。さすがに馬に乗り慣れて無いから、部隊長たちについていくのが大変だったんだけど」
「そりゃあそうだよな、早馬の部隊って俺たちでも大変な時があんだから。それがフェリックスってなると、もっと大変なわけだ」
ワイツとアイゼルは、部隊に入ってどんな感じなのかと聞いてくる。
待遇が良いから苦では無いと答えた。
それに確かにと頷いた上で、馬についていくのが大変なんだと愚痴をこぼした。
2人は確かにそれは大変だと笑った。
「それにしてもリキャルド殿が、ディルスさまに攻撃を仕掛けるとは思ってなかったな」
「攻撃しないのは冬が近いからってだけじゃ無いよな? 他にも理由が……」
「余裕を出しているんだよ。向こうにはボルトレール四天王が付いていて、その兵力は……1万5000、いや1万7000はいるんじゃ無いか」
リキャルド尊極大名がディルスに攻撃を仕掛けないのは、冬が近いからという理由だけでは無いと考える。
2人には明らかな兵力差がある。
リキャルド尊極大名には少なくとも1万5000の兵力があり、それに対しディルス側には2500人くらいの兵士しかいない。
これだけの差があるから余裕があるのだ。
これは厳しい戦いになると、俺たちは度数の高い酒を飲んで、今は忘れようとする。
そして俺はソロー=ジルキナ家にやって来て、2度目の年越しを迎える。
時代は帝暦555年を迎えた。
俺も気がつけば18歳になった。
ボルトレール州への伝令部隊にも慣れて来て、気がつけば馬の扱いにも慣れて来た。
そんな時、俺はレオンの政務室に呼ばれた。
この流れは無理難題を言い渡される流れである。
嫌な予感がしながら部屋の中に入ると、俺と同じ中級歩兵の小隊組頭や上級歩兵の大隊組頭など、十数名が集まっていた。
「お前たちには、これから先導隊兼親父殿の護衛としてボルトレールに向かって貰う。どうやら雪も溶け始め、親父殿は戦う支度を整えつつあるらしい」
4月に入り雪も溶けて来たので、ディルスはリキャルド尊極大名との戦いに備えるというのだ。
それに際し俺たちは、レオン軍の先導隊兼ディルスの護衛役としてボルトレール州へと行って欲しいらしい。
まさかそんな役を任されるとは思っていなかった為、レオンの話を黙って聞いているように思えるが、今はただただ言葉を失っているだけである。
「準備が整い次第、向かって貰うゆえ直ちに準備せよ! この役目は親父殿の命に関わる事だ、それで言えば我ら援軍本隊よりも重要なものとなる! それを心得よ、そして必ず守りきれ!」
『はいっ!!!!』
レオンは力強くディルスを守るように言うので、俺たちは背筋を伸ばし力強く返事をした。
俺たちはボルトレール州への出立する為に、政務室で解散し各自準備を開始する。
剣や戦争に必要なものをまとめる。
そして城の前に向かおうとすると、道の真ん中にミサキちゃんを発見した。
泣きそうな顔をしている。
「ど どうかしたの? どこか痛いの?」
「ううん、どこも痛くない……」
「じゃ じゃあどうしたの?」
「お兄ちゃんが戦争に行っちゃうって聞いたから」
ミサキちゃんは、どこからか聞いた俺が戦争に向かうという話を聞いたらしい。
理由を聞いた俺は心配してくれているのかと、腰を落として目線を合わせるのである。
そして俺は「心配してくれるの?」と聞くと、ミサキちゃんはコクンッと小さく頷いた。
俺は何とも優しい気持ちになった。
心配ないという意味も込めて、ニコッと笑いながらミサキちゃんの頭を撫でる。
「大丈夫だよ、俺は絶対に死なないから。帰って来たら、また遊ぼうね」
「うん! それでも無事に帰って来れるように、お守りを作ったの!」
「え!? わざわざ俺の為に? こんな嬉しいプレゼントは初めてだよ……ありがとうね!」
ミサキちゃんは俺の為に、わざわざお守りを作ってくれていたらしい。
俺はありがたく貰うと、キュッと覚悟した顔をしてお礼を言って、城へと向かった。
ミサキちゃんは全力で腕を振っている。
もちろん俺は死ぬつもりなんて無いが、これでまた帰って来たい気持ちが強くなった。
タールド城の前に続々と、任命された人間たちが集まって来るのである。
全員が集結し隊列を組む。
するとそこにルシエンがやって来る。
目線を右から左に移動させ、全員がピシッと整列しているのを目視で確認する。
そしてクワッと口を大きく開く。
「貴殿ら300人は、レオンさまが率いる援軍本隊の先導隊である! そして何よりもディルスさまの護衛という大役を任せられている。一人一人が誇り高く、レオン軍というのを心に刻み込み、誰よりも前に進め!」
『うぉおおおお!!!!!』
ルシエンは俺たちが、レオン軍の一員である事を理解させ、その上で誇り高く戦い抜く事を意識させる。
その演説を聞いた俺たちは、右拳を天に掲げて大きな歓声を上げるのである。
号令が出されボルトレール州に向けて出陣した。
ここからリキャルド尊極大名との激しい戦いが、幕を開けようとしていた。
そんな事を知らずに俺たちはボロック州を旅立つ。
まさしく死闘と言わざるを得ない戦いだ。




