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004:ソネット家

 ルーフェン代官の下で働く事になった俺は、馬車には乗らず走ってルーフェン代官が治めるホールジューク郷に向かうのである。

 体力には自信があるので、特に苦では無かった。

 そしてホールジューク郷に到着した。

 田舎の領地だと思っていたが、俺の生まれ育ったオートン郷とは比べ物にならない栄え方をしていた。


 マジかぁ……。

 同じ町だと思ってたけど、ここまで差があるのか。

 これはホールジュークが栄えているのか、それともオートンが貧乏なのか?

 どっちにしてもオートンが負けてるのは確実か……。



「どうした? これからマルセルたち、小者が寝泊まりする寮に案内するぞ」


「す すみません!」



 自分の出身地と比べて唖然としていた俺は、足を止めていてルーフェン代官が声をかけた。

 俺は急いでルーフェン代官のところに駆け寄る。

 どうやらこれから俺が暮らす事になる寮に、案内してくれると言うのである。

 そのままルーフェン代官の後ろを着いて行く。


 すると屋敷から歩いて5分くらいのところに、ボロボロのアパートのような建物が見えた。

 ここがどうやら俺が暮らす事になる寮らしい。

 別にカント家もボロボロの家だったので、これくらいでは嫌とかは思わない。



「お前たち集まれ! 今日から新しい仲間が、ここに入る事になったぞ」



 ルーフェン代官は俺を連れて寮の中に入る。

 そこには4人の小者が居たのである。

 2人は俺と同い年くらいで、1人が20代前半くらいで、あとの1人が40代くらいだ。

 小者の年齢は、けっこう幅広い。



「ほら、自己紹介して」


「はい! 今日からルーフェンさまの小者として、働かせていただく《マルセル=カント》と申します!」



 俺はルーフェン代官に言われたので、深々と頭を下げて挨拶するのである。

 すると40代の小者の人が、俺の前にやって来る。



「俺はルーフェンさまの下で、小者頭をしている《グレッグ=トコイ》だ。よろしく頼む」


「はい! よろしくお願いします!」


「こっちの俺の次に年長者なのが《クハ=フピカミュ》君で、君と同世代くらいの《カーツ=ランピネン》君と《ウンケ=シェルプ》君だ」



 小者頭をやっているグレッグが、残りの小者たちを紹介してくれる。

 グレッグは頭が少し禿げているが優しそうで、同じ小者たちを紹介してくれた。

 グレッグに続いて年長者のクハは、身長が高く威圧感がある感じだが、どうやら口下手で頭を下げるだけの挨拶をするのである。

 同世代のカーツは、明るそうな感じでニコニコしていて、オッドアイなのが特徴だ。

 最後のウンケは、男ながら綺麗な黒髪ロングをしていて、物腰が柔らかそうな人だ。



「今日からマルセルの事を頼むぞ。マルセルも分からない事があったら、グレッグや先輩方に聞きなさい」


「分かりました! 遅れながら本当に雇っていただきありがとうございます!」


「いやいや、俺も優秀な人材が増えてくれるのは嬉しいんだよ。だからマルセルには、自分の持っている力を全て使って成り上がって欲しい」


「ルーフェンさまに、そこまで言っていただけるなんて本当に……ありがたい限りです!」



 俺はルーフェンの下だったら、成り上がれるかもしれないと強く思った。

 ルーフェンも俺が活躍しているのを期待するという。

 ニコッと笑ってから屋敷に戻って行く。



「それじゃあ早速だけど、小者としての仕事を覚えて貰おうかな。まぁ小者としての仕事と言っても、メイドとか執事とかと対して仕事は変わらないんだけどね」


「洗濯や掃除、給餌とかですかね?」


「そうそう! そういうのだよ」


「それなら教会でもやっていたので得意ですよ! 是非とも任せて下さい!」



 小者の仕事を聞いた俺は、いわゆる雑用なので教会でもやっていたから得意だと胸を張る。

 それを聞いたグレッグは、それなら安心だと笑って、まず最初に屋敷の前の掃除を頼んで来た。

 俺は任せて欲しいと言うのである。

 箒を持ってソネット邸の前を掃き始める。


 教会でもやっていたので、端から端まで時間をかけずにピカピカにする。

 それに俺は掃除は嫌いじゃない。

 鼻歌をルンルンッと歌いながら掃いている。

 するとそこにドレスに身を包んだ綺麗な女性が、俺の前に姿を現したのである。



「貴方が、ルーフェンの言っていた新入りさんね?」


「あっ! こ これはご挨拶が遅れました! 私は新しく小者として雇っていただいた《マルセル=カント》と申します!」


「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。私はルーフェンの妻・アニス=ソネットです」



 俺の前に現れた綺麗な女性は、ルーフェン代官の奥様であるアニスだった。

 雰囲気から偉い人だと悟った俺は直ぐに頭を下げた。

 自分にしてはナイスな判断だと思う。

 アニスも俺の頭を下げた姿を見て、この若さにしては健気な人だという印象を持った。



「我流で剣技を覚えたと聞きましたが、それは本当なのかしら?」


「はい! お恥ずかしながら我流で、ひたすら剣を振り続けまして……旦那さまの前で剣技というのは、とてとお恥ずかしい事ですが」


「そんな事は無いわ! ひたすらに剣を振り続けるなんて普通の人間には出来ない事だもの。貴方は、とても努力して身に付けたのね」


「ありがたきお言葉です! 今までの努力が、そのお言葉で報われました!」



 アニスは俺が我流で剣技を身につけた事を、とても凄い事なのだと褒めるのである。

 この言葉に俺は嬉しいお言葉だと、深々と頭を下げて感謝を伝える。

 フフフフッとアニスは笑った。

 すると後ろに控えている護衛の兵士が、アニスに「奥様、そろそろ……」と言う。



「あら、もうそんな時間かしら? それでは私は、これで失礼しますね……」


「はい! 大切なお時間を、私に使っていただきありがとうございます!」


「お庭のお掃除、頑張って下さい」



 そう言うとアニスは立ち去っていった。

 その際、護衛の兵士は鋭い目で俺の事を睨んでいた。

 明らかに殺意を持っている目で、新入りに声をかけた事が気に入らなかったのだろうと俺は考えた。

 アニスが十分に見えなくなってから掃除を再開する。


 ルーフェンさまは出世しそうだし、奥様のアニスさまは綺麗で優しそうだし、良いところに就職できたんじゃ無いかなぁ。

 これは!

 俺の仕事次第では、直ぐに成り上がれるのでは?

 そう思えば仕事はサボれないぞ!

 頑張って結果を残さないと!


 このソネット家で成り上がれるかもしれないと、心の底で強く思った俺は仕事を張り切る。

 すると俺の背中に、何かに刺さる感じがした。

 これは物理的に何かが刺さったわけとかではなく、何かに視線を向けられているという感じだ。

 雰囲気で言えば、さっきの護衛の人間に向けられた視線に近いというべきだろうか。

 少し溜めてから振り返る。

 やはり誰かが見ていたらしく、物陰から俺が振り向く瞬間に、シュンッと身を隠すのである。


 俺は殺気を向けられるほど嫌われてるのかぁ……。

 まぁ新入りが主人に、気に入られてるってなったら古参たちはうるさそうだもんな。

 これは気をつけないと、後ろからグサッとやられる可能性があるな。

 油断しないようにしよう……。

 これは前途多難かもしれないなぁ。

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