056:継承
10月12日、タールド城。
俺たち家臣団は、タールド城の御殿に集められた。
とびきり良い服を着るように言われたので、俺はワイツから服を借りて身なりを整えた。
今日はムホスチン前守護大名に代わり、新たな守護大名誕生の任命式である。
この全てを取り仕切るのはレオンだ。
「第15代フレネヴィ家当主となられる《グランプ=フレネヴィ》さまの入場です!」
司会進行を務めるルシエンは、グランプ守護大名の入場を宣言する。
扉が開いた瞬間、俺たちは深々と頭を下げる。
左右に分かれ真ん中に作った道を、グランプ守護大名が優雅に歩いて玉座の前に立つ。
グランプ守護大名は俺たちの方を、ゆっくりと右から左に全体を見てから着席する。
着席したタイミングで俺たちは顔を上げる。
「グランプさまは、本日をもってフレネヴィ家の当主と成られました。そしてそれに伴いグランプさまには、ボロック州の君主とし守護大名と成られます。ここにいる者たちは、グランプ守護大名の家臣としボロック州並びに祖国の為に命をかける事を誓います」
ルシエンはグランプ守護大名が当主と大名になるのを宣言してから、この場にいる人間たちはグランプ守護大名の家臣であると宣言した。
そこから戴冠式は順調に進んでいき、新たにボロック州のNo.2となったレオンが話し始める。
「本日はおめでとうございます。これからについてなのですが、グランプさまは元服してから日が経っておりません。ですので政に関してはグランプさまが、もう少し大きくなられてからお任せしようと思っております」
「なに? それはどういう意味だ?」
「当分の間は、この私が政を担わせて頂きます」
「なんだと! 俺はもう元服した大人だ、俺にだって政はやれるぞ! これでは父上と同じでは無いか!」
「グランプさまっ! 滅多な事を口にするべきでは無いと思います。何も心配せず、私にお任せ下さい」
レオンはグランプ守護大名の就任を祝したのち、まだ元服してから日が経っていないので、政に関しては自分が請け負うと話した。
これにグランプ守護大名は意義を申す。
自分は、もう元服したのだから政は自分にもできると立ち上がって叫ぶほどに声を荒立てる。
そしてレオンが政をやるのなら、ムホスチン前守護大名と変わらないと発言した。
グランプ守護大名の発言にレオンは叫んで諌める。
何より感情を露わにした事で、まだグランプ守護大名は若いと証明してしまった。
言い返せなくなったグランプ守護大名は「分かった、貴殿に任せよう……」と言わざるを得なかった。
グランプ守護大名は、嫌な顔をしながら戴冠式は終了するのである。
戴冠式が終わると集まった俺たちは、次にパーティ会場へと移動する。
そして戴冠を記念し、パーティが開かれる。
もちろんグランプ守護大名も参加をするが、今の格好では動きずらいので着替える為に別室へと移動する。
その別室にグランプ守護大名は側近の男を呼ぶ。
「なんだ、あの態度は! 悪で俺が、まだまだガキのような扱いでは無いか!」
「誠に、その通りでございます! あのレオンの態度は、あまりにも酷いものでした」
「シルベスターもそう思うか! この事態を、どうにかできないだろうか? そうすればシルベスターの地位はレオンに代わり、No.2になるだろうな」
グランプ守護大名が別室に連れて来たのは、レオンと同様にジルキナ家の人間である《シルベスター=ロッタン=ジルキナ》だ。
シルベスターにグランプ守護大名は、レオンの愚痴を漏らしまくる。
どうにかレオンを排除したいとグランプ守護大名は考えているのである。
それをシルベスターに頼む。
そうすれば地位は確実になると。
「どうにかレオンを排除するように働きかけましょう。今まともに戦ったとしても、レオン軍に勝てる算段はありませんので」
「あぁよろしく頼むぞ」
着替えを終えたグランプ守護大名は、パーティ会場に戻って乾杯を行なった。
そしてパーティが始まる。
俺は前世でも今世でも、こんなにも豪華なパーティなんてやった事が無いので緊張している。
すると俺の背中をワイツがポンッと叩く。
俺の緊張を解こうとしてくれたのだ。
ありがたいと思っていると、俺の緊張している姿にアイゼルが笑っている。
「聞いたか? ヘブラン川での戦いは、拮抗したまま遂にローランド尊極大名の仲介で和睦したって話だぞ」
「まだ決着がつかないのか。まぁどっちもサッストンズ大陸において強国だからな」
「こっちも、もう少しでボロック州を統一できるってところだからな。かなり肩に力が入るだろ」
俺たちは今年もサッストンズ帝国は、いろんな事があったなと早めの振り返りをする。
そして自分たちは、もう少しでボロック州を統一できるというところまで来ている事を考えると、少し肩に力が入ると笑いながら酒を飲む。
するとレオンのところに、1人の小者が近寄っていくのが見えた。
遠くからだったので、その表情をよく見えたわけでは無いが、青ざめているような気がした。
そしてその小者はレオンの耳元で何かを伝えた。
何気を聞いたのかは、分からないがレオンが「なんだと!?」と声を出した。
その声に会場の人間たちの視線が集まる。
どうしたのかと思っていると、血相を変えたレオンが会場を立ち去ったのである。
「な なんだ? レオンさまの様子おかしかったよな?」
「あぁ何かあったんだろうけど、あの焦り方からだったら悪い報告じゃないか?」
「何があったのか、ルシエンさまに聞きにいくか? あの人なら何か知ってるんじゃないか?」
「そうだな! ルシエンさまのところに行こう!」
レオンの様子がおかしいと思った俺たちは、事情を知っているであろうルシエン参謀総長のところに、話を聞きにいく。
ルシエン参謀総長のところに行くと、周りには諜報部員たちが集まっていた。
「ルシエンさま、何かあったんですか? 状況から察するに、良くない事が起きたと思ってるんですが」
「お前たちは鼻が効くな……まだ公表されていない話だから口外するなよ?」
「はい!」
ルシエン参謀総長は俺たちが何かを察してやって来た事に、溜息を吐いてから近寄るようにいう。
どうやらまだ公開されていない話らしい。
口外しないという約束をした上で、ルシエン参謀総長は俺たちに話をしてくれた。
「ディルスさまが、ご子息のリキャルド殿と対立関係になったみたいだ」
「え!? それ大変じゃないすか!」
「だから皆んな焦ってるんだよ。お前たちも、いつでも戦えるように準備しておけよ」
レオンの義理の父であり、元グルトレール州の尊極大名であるディルスと、その子供であるリキャルド尊極大名が対立関係になったと言うのだ。
まさかそんな事が起きるなんて俺たちは、周りの事を忘れて大きな声で驚くのである。
ルシエン参謀総長は、俺たちにシーッとやる。
そしてだから皆んな焦ってるんだと言う。
いつ戦いになっても良いように、準備しておけと俺たちに指示する。
家督を譲って1年目の出来事で、さすがに可哀想だと思ったのである。




