055:レゴラスという男
大嵐の直撃にレゴラス軍の人間たちは、士気が高かったのに肩透かしだと残念がる。
ただ1人だけ意見が違った。
レゴラスは腰に手を置いて大笑いしながら「これは素晴らしい! 今日は吉日だ!」と叫んだ。
これに重臣たちも目をまん丸くする。
「こ こんな嵐なのに吉日なのですか?」
「あぁそうだ! これだけ雨風が吹いていれば、海を渡ってもクレインらに気づかれんだろ? だからこそ、今は我らに風が吹いている!」
「え!? この海を渡るのですか? そんな事をしたら島に渡る前に沈んでしまいますぞ!」
「何を言っているのだ! それくらいしなければ2万の数には勝てやしないぞ。それにボロック州の大馬鹿者と言われていたレオンとやらも、嵐の海を渡って行った事でボドハント州に勝利したと聞くだろ!」
これだけの嵐の中ならば海を渡ったとしても、クレインたちにバレずに済むだろうと笑っているのだ。
まさかこんな嵐の中で、海に出るのかと重臣たちはアワアワする。
しかしレオンの例を出して説得する。
もうここまで来たら、それくらいしないとクレインには勝てないと押し切ったのだ。
仕方ないとレゴラスに命を預ける事にした。
「これより俺とアルヴィスとガルマは、ノール島を密かに西に回り込んでノール島西岸の浜へと上陸する! ヘイデンを大将とし第二軍は、ノール島に上陸したらノール城の兵士と合流しろ! 援軍に来てくれたディベイラ水軍は開戦するまで沖合で待機だ!」
レゴラスに加えアルヴィスとガルマらが率いる第1軍は、ノール島を密かに西に回り込んでノール島西岸の砂浜から上陸する。
ヘイデンを大将とする第2軍は表立って、正面から援軍と偽りノール島に上陸しノール城の兵士たちと合流して島内で戦闘を起こす。
残りのディベイラ水軍からの援軍は沖合で待機し、開戦の時まで待つように言われる。
そして遂に渡海する時がやって来た。
第1軍は敵にバレないように、レゴラスが乗船している船にのみ篝火を焚いて作戦通りに西側に回り込む。
かなり視界が悪い中で、レゴラスは家来たちに声掛けながら進んでいく。
きっとレゴラスが居なかったら心が折れている。
今はゆっくりと着実に船は前に進んでいく。
そして多少の犠牲で、ノール島西岸の浜へと到着する事ができたのである。
「船は返せ!」
「しかしそれでは撤退時に危険では!」
「撤退時などありえん! この島を出る時は俺が死ぬ時か、クレインの首を取った時だ!」
「し しかし……」
「良いからいけ! これは命令だ!」
レゴラスは上陸した後、全ての軍船を返すように指示を出した。
緊急事態の時に撤退できないと止める。
だがレゴラスはそれを容認せず、とにかく船を返すように言うのである。
この姿に家臣たちは、レゴラスが背水の陣を決意したと感情が込み上げてくる。
しかし指示通りに軍船は引き上げて行った。
「ガルマ軍に先陣を任せ、クレインが陣を張っている山に裏から回り込むぞ!」
レゴラスたちはガルマ軍に先陣を切らせ、クレインが本陣を置いている背後に回り込むべく山道を進軍する。
一方で第二軍と第三軍は闇夜の海を東進し、大きく迂回してから沖に近づいた。
そしてヘイデン隊は、9時頃に敵か味方か分からないくらいの風と暗さを利用して港に近づく。
「お主らは何者だ!」
「我らはガムフォル州から参りました! クレインさまに援軍と思いまして!」
「おぉ! そうかそうか!」
港の見張り人たちは、ヘイデン隊の嘘をまんまと信用して上陸を許したのである。
第三軍であるディベイラ水軍は、沖合で待機し開戦を待った。
戦いの準備が整った。
そして10月1日、午前9時に戦いが始まる。
開戦の口火を切ったのはレゴラス軍であり、第一軍はレゴラス軍とガルマ軍とアルヴィス軍の三軍に分かれ、本陣のある山を駆け上がる。
その時レゴラスは「突撃ぃいいいい!!!!!」と叫んで、それに呼号するように兵士たちは突撃する。
「あの声は父上か……我らも行くぞ!」
『うぉおおおお!!!!!』
レゴラスの声を聞いたヘイデンは、ノール城の兵士たちも連れて戦いを始めた。
いきなりの奇襲にクレイン軍たちは武器も持てずに、総崩れとなったのである。
「どうなっている! どうなっているのだ!」
「報告、報告! レゴラス軍による奇襲を受け、我が軍は……我が軍は総崩れとなりました!」
「なんだとぉおおお!!?? いつのまに島に上陸したんだ……撤退の準備だ! 船まで戻るぞ!」
「それが! 我らの船は全て焼き払われました……」
「なにぃ!? こ このままなら無駄死にする。どうにか城を脱出するぞ、とにかく東に逃げる!」
ディベイラ水軍によって脱出用の船を焼き払われ、このままでは直ぐに討ち取られるとクレインは思った。
そこで緊急用に船を、別のところにも用意していた事を思い出し、そこに向かって撤退する事にした。
本陣はギリギリで脱出する。
しかし背後をガルマ軍に追尾されている。
重臣の1人が殿を務めるが、激しい抵抗の末に討ち取られてしまった。
だがクレインを逃す事には成功した。
その甲斐あって緊急用の船が置いてあるところにやって来た。
これで逃げられるとクレインは安堵した。
しかしその安堵は絶望へと変わるのだ。
「ふ 船が無い……」
船があるはずの場所になかった。
これにクレインは絶望し、その場にドサッと両膝を着けて項垂れるのである。
砂浜にポタッポタッと涙が垂れている。
もう死ぬ事を理解したからだ。
クレインに着いて来た小姓も死ぬと分かり、悔し涙をクレインと共に涙を流した。
「お前たち! 我らは今から、ここで勇気ある最後を遂げる……後世に勇敢だったと伝えられる最後を遂げようぞ!」
「うぅ……はっ!」
涙を拭ったクレインは立ち上がり、小姓たちに自害をすると言うのである。
ここで討ち取られるくらいならば、最後の最後は男として死ぬと考えているのだ。
小姓たちも最後の命令に大きな声で返事をする。
1番最初にクレインが、息を荒立てながら小太刀で自分の腹を突き刺す。
そして心臓の方に押し上げる。
もう限界だと思った小姓の1人が、クレインの首を落とし楽にしてあげた。
「この首を敵兵に渡すわけにはいかない」
「あぁどこかに首を隠して、我らもクレインさまの後を追う」
「そうしよう」
小姓たちはクレインの首を、敵に渡すわけにはいかないので隠しに行った。
これで心配は無くなったと計4人が自害をした。
クレインの自害によってノール島の戦いは、レゴラス軍の大勝で幕を下ろすのである。
そしてこの日の翌日には残党狩りが行なわれた。
この戦いで討たれたクレイン軍の人数は4700人にのぼり、捕虜も3000人強になった。
「我らの大勝である! これで我らは後世、国賊を討った英雄として名を残す事になるだろう!」
『うぉおおおおお!!!!!!』
全てが終わったところで、レゴラスは勝鬨を上げ自分たちの大勝を祝すのである。
この戦いは後世語り継がれるのだが、長年に渡る乱世の中でサッストンズ帝国の三大奇襲の1つとして名を残す事になった。
そしてこれからレゴラスの世がやってくる。




