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052:他国の情勢

 ディルス尊極大名に、エクセルム尊極大名を裏切って自分たちにつかないかと言われたヘルロフは、まさかそんな事を言われるとは思っておらず動揺する。

 その為、喉が渇いて紅茶をゴクゴクッと飲み干す。

 プハーッと言って口を手で拭うと、ゴホンッと咳払いしてから自分の意見を述べる。



「ディルスさまに、そこまで仰って貰ったのは嬉しい限りです。しかし今ここでエクセルムさまを裏切るのは、騎士道に反するのでは無いでしょうか? 騎士が騎士道に反せば、周りから後ろ指を指されてしまいます」


「何を堅っ苦しい事を言っているんだ。そんな事で後ろ指を指されるものか、強い方につくのは出世する為の処世術と言っても良いだろう。もしも言う者がいるとすれば、このワシが討伐してやろう」



 ディルス尊極大名に褒めて貰ったのは嬉しいが、そんな事をしたら騎士道に反し後ろ指を指されてしまうと、ヘルロフは丁重にお断りする。

 しかしそんなヘルロフに、ディルス尊極大名は全力で後ろ指を指されるという事を否定した。

 そんな事では指は指されないと。

 もし後ろ指を指す人間がいるのならば、自分たちが討伐してやると胸をドンッと叩く。



「そうですか……確かにガバーニョ家の宗家からも、それなりの待遇を用意すると言ってくれています。是非ともクレシェフ家の末席に加えて頂きたい」


「おぉ良くぞ、決断してくれたな! そうかそうか、貴殿の仲間入りを心から歓迎するぞ!」



 このまま断ったとしても自分の立場が危ういとし、ヘルロフはディルス尊極大名の軍門に下る事にした。

 これにはディルス尊極大名も興奮して喜ぶ。

 そして立ち上がると、ヘルロフに向かって手を突き出し固い握手をする。

 この日ヘルロフはエスカンダリア家を離反した。


 ヘルロフが離反した頃、同時期にホールトング州の北部でエスカンダリア家の庇護下に入っていた有力教会であるブレーファ教会の僧侶《トニーノ=メサン》が、ディルス尊極大名の調略に乗り寝返った。

 これにより北部にいるエスカンダリア家の豪族たちにプレッシャーがかかり始めた。



「ヘルロフに続き、トニーノまでも離反するなど……これは由々しき事態だ! 直ぐに部隊を整えろ、直ぐにトニーノを奪還する!」



 このままでは後手に回ってしまうと思ったエクセルム尊極大名は、直ぐに軍隊を編成するのである。

 そして4月に出陣した。

 これに対しトニーノは、ディルス尊極大名が送ってくれた3000の援軍と共に籠城する。



「エクセルムさま、どういたしますか? このままでは先に進む事も叶わなくなります」


「うむ……」



 このままブレーファを素通りすると、敵に背後を見せる事になり挟み撃ちとなってしまう。

 その為エクセルム尊極大名は安易に動く事ができなくなってしまった。



「こんなところに陣を貼り続けても兵糧や金を、ドブに捨て続けるようなものだ。どうにか、この状況を打破するアイデアは無いか!」


「そうですね。これは費用が今よりもかかってしまいますが、それでも今の状況を打破する可能性は十二分にあると思います」


「おぉ! どんなアイデアだ!」



 エクセルム尊極大名は、このまま兵糧と金を使い続ければドブに捨て続けるようなものだと言う。

 何か現状を打破するアイデアは無いかと聞く。

 これに1人がピッと手を挙げた。

 今よりも費用はかかるが、それでも現状を打破するだけの作戦ではあると進言した。

 どんなアイデアなのかと家臣に話を振る。



「この地に城を築くのです。そこを最前線拠点とし、ブレーファが担っている役割を封殺するのです」


「ほぉ? それは面白い話じゃないか、まだ詰めるところはありそうだが、その作戦で行こう!」



 この睨み合っている土地に、エクセルム尊極大名の城を建築する。

 これが家臣の考えだった。

 そうすれば前線拠点ができる上に、向こうのブレーファが担っている機能を封殺する事ができる。

 確かに金はかかるが、その作戦は良案であった。

 エクセルム尊極大名は、直ぐに築城を了承した。


 エスカンダリア家が、築城を開始した事は直ぐにディルス尊極大名のところまで知らされる。



「なに? エクセルムがプレーファの目の前に、城を作り始めただと?」


「はは! 向こうは睨み合いにも限界があると思ったのでしょう。最前線の城として、築城を始めたみたいなのです」


「それは厄介だな、このままならブレーファを調略させた意味が無い。こちらも軍備を調えろ、向こうに流れをやるわけにはいかん」



 エクセルム尊極大名が築城を開始した城は、わずか4ヶ月で完成させる事ができた。

 それに合わせディルス尊極大名は、軍を編成しブレーファの地に出陣した。

 8月、両軍は互いにヘブラン川に布陣する。

 そして川を渡り戦いが始まった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 さらに同時期、ボロック州より北北東の方角にあるネストラ州にて重大な戦いが起きた。

 規模の話ではなく内容の大きさである。

 戦いの始まりは3年前に遡る。

 当時ネストラ州の尊極大名は《コンダリン=イグダーラ》であり、コンダリン尊極大名は家臣の《クレイン=ドンテ》の謀反により自害させられた。

 この政変により西方随一と名高かったイグダーラ家が事実上の滅亡し、西方の支配構造が大きく変わった。



「クレイン、本当にワシが尊極大名で良いのか?」


「はは! パタモさま以外に、この地を治められる人間は、この天下を探してもおらんでしょう」


「はっはっはっ! そうかそうか、そこまで言うのならば引き受けようでは無いか」



 クレインは隣接した州から、パタモという人物を尊極大名に向い入れ実権を掌握する。

 コンダリン元尊極大名は、西側に連なる《モーマ州》《プトレー州》《セスタンリ州》を傘下に治めていた。

 つまりパタモは、この3つの州も手に入る事になる。

 この行為を良しとしないセスタンリ州の《ガルマ=ズッコーニ》は、打倒クレインを掲げ今年の3月に挙兵した。



「我らはパタモさまに反旗を翻した、憎き国賊であるガルマを討伐しに向かう!」


『おぉおおおお!!!!!』



 クレインは挙兵したガルマを突発するべく、兵を挙げてセスタリン州の城に出陣する。

 ガルマの城を取り囲んだクレインは、周辺国に兵を挙げるように指示を出した。

 そのうちの1人にプトレー州の《レゴラス=ブッフォン》という人物がいた。

 このレゴラスこそが今回の戦いの発起人である。



「レゴラスさま! 直ちに兵を挙げ、戦いに参加するようにと、クラインさまからご指示が」


「なに? さっさと兵を挙げろだと? この戦争が、どうして始まったのかを分かっておらぬのか……自業自得では無いか! それを我らに上から兵を出せだと? ふざけた事を言うのは休み休みにしろ!」



 指示を出されたレゴラスは、あまりにも自分勝手な命令に憤慨していた。



「ど どういたしましょうか?」


「そんなの無視するに決まっているだろ! それだけじゃあ我慢ならん、これは逆に言えば好機……兵を集めるのだ! こっちから打って出る!」



 家臣はクレインに、どんな返答をするかと聞いた。

 レゴラスは、もちろん参加しないと答える。

 それどころか、こっちも挙兵しクレインを攻めると立ち上がったのである。

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