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051:王手

 シーメンに同行している俺とルキは、殺すというのを悟られないように殺気を抑える。

 しかし無理矢理に押さえ込んでいる事で、違和感を抱かれても困るので不自然にならないように意識する。

 これがあまりにも難しい限りだ。

 だが完全に油断しているマインケは気にしていない。

 コイツが馬鹿野郎で安心できる。



「シーメン殿、お待ちしていましたぞ! さぁさぁこちらにお座り下さい!」


「マインケさまも、ご息災で嬉しく思います」



 シーメンを迎え入れたマインケは、応接室の豪華な椅子に腰掛けるように促す。

 俺とルキは、シーメンの後ろにスッと仁王立ちする。

 マインケはシーメンが助けてくれるというのを、バカみたいに信じているみたいだ。

 ニコニコしながら自分も向かいの椅子に座る。



「シーメン殿の活躍は耳にしておりますぞ! 天下に名を知らしめるほどの勢いだと!」


「それほどではありませんよ。マインケさまは、随分と大胆な事をしたと聞きましたが……大丈夫ですか?」


「いやぁこの国の事を考えての行動だったのですが……どうやら少し過激だったようで」


「家臣たちも多く失ったと聞きましたが、それは大丈夫なんですか? これは今から話し合う事についても大きく関係してくる事だと思いますが」



 シーメンがレオンの下で活躍している事が、自分の耳まで入って来ているとマインケはいう。

 これに対しシーメンは、マインケがムホスチン守護代を殺した事について大胆な事をしたと言及する。

 大胆発言にマインケは、頭をポリポリかきながらヘラヘラして国の為にという発言をした。

 そしてシーメンは続けてマインケに質問する。

 それは家臣が多く失った事による弊害は無いかについてであり、これはマインケ側に付くかどうかという話に大きく関係してくるとシーメンは述べる。



「関係ありませんよ、大体からして家臣として機能していたのはラシャドのみですからね」


「そうですか……」



 シーメンは残念だと思いながら項垂れる。

 そんな発言をしなければレオンとの間も取り持ってやろうと考えていた。

 しかしもう無理だとシーメンは判断する。

 横目でチラッと後ろに控えている俺とルキに、目配せで合図を出す。

 俺たちはペコッと頭を下げてから、マインケの側に寄る。



「な なんだ、お前たちは! 無礼であろう!」


「マインケさま、貴方には自決をしていただきます」


「じ 自決だと!? どうして俺が、そんな事をしなければいけないのだ!」



 俺たちが側に寄ると、マインケは俺とルキを交互に見ながら無礼だと言ってくる。

 シーメンが喋り始めると顔を正面に向ける。

 そして自決という単語を聞いたマインケは、腰を浮かせ恐怖と驚きでアタフタしている。

 そんなマインケにシーメンは詰め寄る。



「貴殿はやり過ぎたのだ」


「俺がやり過ぎただと? あの人間には、この地を治める力は無かった! それに代わりに、俺が治めようとしただけでは無いか!」


「それが間違いだと言っているのだ! 貴殿こそ、この地を治めるに相応しく無い」


「何だと! 俺が相応しく無いと言うのならば、どこの誰が相応しいと言うのだ!」


「そんなの決まっているでは無いか……レオン=ソロー=ジルキナである!」



 自分がボロック州を統治するのに相応しくないと言われたマインケは、じゃあどこの誰が相応しいのかとシーメンに問うのである。

 この質問はシーメンにとって簡単な質問だった。

 ボロック州を統治するのに、最も相応しい男はレオンを除いて存在しないと断言した。

 シーメンの発する圧にマインケはグゥの音も出ない。



「さぁここは騎士らしく、男らしく腹を切って頂きましょう。最後くらい格好をつけて頂きたい」


「くっ……あぁ! やってやろうじゃないか!」



 シーメンは懐から小太刀を出して、これで自決するように促す。

 人生の最後くらい格好をつけて貰おうと言うのだ。

 これにマインケは小太刀を手に取って、鞘から刃を取り出すのである。

 ここまで来たら覚悟が決まったらしい。

 もしもの時の為に俺たちは剣を抜いている。


 はぁはぁと息を荒立てながら刃を、自分自身の腹に向けているのである。

 あとほんの少しの覚悟で男になれる。

 そして遂にマインケは、自分の腹に刃を突き刺しググッと心臓の方に上げる。

 その最中マインケは口から血を吐きながら息絶えた。



「マインケさま……お見事です。ここから先は、我らに任せて下さい」



 マインケの亡骸にシーメンは、深々と頭を下げ見事な最後だったと祝す。

 どれだけ憎くとも死ねば尊いのだ。

 俺はシーメンをカッコイイと思った。

 

 遂にレオンが、ボロック州を統一するのに王手をかける事ができた。

 俺たちが帰る中、レオンのところに早馬でマインケの死が知らされるのである。



「おぉやり切ったか……なぁルシエン」


「は……何でしょうか?」


「ここまで来たのならば俺はやるぞ。このサッストンズ帝国()を治めてみせる! それこそ俺が、この世に生まれて来た理由だ!」


「はは! 最後までお供させて頂きます」



 レオンは改めて言葉にした。

 これから自分が成そうとしている大きな事について。

 これは自分への覚悟の証とも言える。

 そしてレオンの目は高い空を向きながら、遥か遠い場所を見ているかのようだ。


 マインケを誅殺してから1週間後、レオンは全ての引越し準備を整え、タールド城に入場した。

 それと同時にシーメンはモルフェイ城に入城する。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 帝国暦554年8月。

 今年もホールトング州の北部を巡り、ディルス尊極大名とエクセルム尊極大名の戦いが起こった。

 第二次へブラン川の戦いの発端は、今年の始まりに行われたパルヒ教会の会盟の後である。

 ディルス尊極大名は、アンヘリノ尊極大名を通してエスカンダリア家の有力家臣である《ヘルロフ=フンボルト=ガバーニョ》と密会をした。



「ヘルロフ殿、今日は話し合いの席を設けて貰って感謝する! 貴殿の行動力には驚かせる」


「いえいえ、天下に名高いディルスさまから密会をしたいと言われてしまったら、断るわけにはいきません」



 ディルス尊極大名は密会にやって来たヘルロフに、感謝すると言って握手をする。

 まさか天下にも名高いディルス尊極大名から密会の申し出が来るなんて、ヘルロフは思いもしていなかった。

 その為、ヘルロフは感激している。



「それで本日は、どのような用件なのでしょうか? 先ほども言いましたが、ディルスさまほどの御仁から密会の申し出など、私は経験した事がありません」


「そんなに堅っ苦しくならなくて良いぞ、ワシが話に来た事は簡単な事だからな」


「と言いましても、一応は敵対している同士ですよ?」


「そこだ! ワシは貴殿とは戦いたくないと思っているのだ。エクセルム尊極大名は滅ぼすが、貴殿のような優秀な人間を、ただ殺すのではもったいない! だからこそ貴殿には、こちら側に着いて欲しいのだ」



 デイルフ尊極大名は、ヘルロフにエクセルム尊極大名を裏切って、こっち側について欲しいと言ったのだ。

 これにはヘルロフは驚いた後、口を掌で覆って考える様子を見せている。

 まさかそんな提案を、こんなにも真っ直ぐにしてくるとは思っていなかった。

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