050:マインケの思惑
カウンゼの戦いが終わってから3日目が経ったタイミングで、シーメンのところにマインケの使者が密かに城を訪れたのである。
シーメンは最初、レオンとの仲を取り持って欲しいのかと思っていて、とりあえず城の中に通した。
「なに? 俺にレオンを裏切れと言うのか?」
「はは! レオンにボロック州を治めるだけの力はありません。ボロック州を治めるのに相応しいのは、マインケさまの他におりません」
「………」
「そこでシーメンさまに手伝っていただければ、是非とも代官としての地位を約束いたしましょう。そしてソロー=ジルキナ家の当主にもなっていただきたい」
使者はレオンにボロック州を治めるだけの力はなく、トップに立つべき人間はマインケであると説明した。
あまりの衝撃にシーメンは話を黙って聴く。
そして協力してくれた暁には、代官としての地位を約束し、ソロー=ジルキナ家の当主にも推挙すると言う。
これにシーメンは腕を組んで「うぅ〜ん……」と唸りながら、悩んでいるように思える。
「シーメンさま、良い返事を聞かせていただけないでしょうか? 是非ともマインケさまに、お手を貸していただきたく……」
「確かにレオンには不満がある。しかし貴殿からの話では決めようが無い……是非ともマインケ殿と、直に会って話をしたい。そう話をつけてくれるか?」
「はは! シーメンさまのお話を、マインケさまにお伝えいたします」
シーメンはレオンに対して不満があると言った上で、ここだけじゃあ決定できないと説明した。
まずはマインケと話がしたいと言うのだ。
それもそうだと使者の人間は思った。
なのでマインケとラシャドに話を通し、直接の会合の場を設けると約束した。
その日はそのまま使者は帰った。
「シーメンさま、マインケの話を飲むのですか?」
「まだ決めていない。しかしこれはチャンスに変わりない……マインケと直々に話をして決めようじゃないか」
「そうですか……」
シーメンの家来は、本当にマインケの話を引き受けるのかと聞くのである。
まだ決めていないと答える。
直々に話をして決めると答えるが、シーメンは現在の状況はチャンスでもあると不敵に笑う。
その姿に家来はビクッとした。
こんな事を言っていたので、シーメンはレオンを裏切るかと思われた。
しかしマインケの使者が来た翌日に、シーメンはモルフェイ城を訪れていた。
この事をレオンに相談する為である。
「こんな事があった、レオンはどう思う?」
「それは絶好の好機ではありませんか。タールド城に会合で行く不利をし、マインケ代官には潔く……自決をして貰おうじゃありませんか」
「そうか、ここでやるんだな?」
「えぇこんな好機はありませんからね。こちらから提案があるのですが、よろしいだろうか?」
レオンに包み隠さず、全てを説明した。
この相談にレオンは、マインケたちには潔く自決をして貰おうと提案した。
シーメンはレオンの意向を把握した。
やってやろうと決意する。
そんなシーメンにレオンは、提案があると言うのだ。
「その会合に、我らが腹心を2名同行させていただきたいのです」
「ほぉ? まぁそれは別に構わないぞ」
「そうですか、ありがとうございます。そしてもう1つお頼み申したく」
「もう1つ? なんだ?」
「奪取したタールド城を、俺に譲って貰いたいのです」
レオンがシーメンに提案した事とは、マインケとの会合にレオンの腹心を2人同行させて欲しいという事で、もう1つは奪ったタールド城を譲って欲しいという事の2つだった。
1つ目こそ2つ返事で了承した。
だが2つ目に関しては、シーメンも目を細めて1回では理解できなかった。
シーメンは「城を譲る?」と聞き返す。
それにレオンは「あぁ」と頷く。
「それはまた突拍子も無い事を……タールド城は、私が陥落させるという事を忘れてはいるまいな?」
「えぇもちろんです。その代わりと言っては何ですが、このモルフェイ城と引き換えにというのは良いがでしょうか? この城はジルキナ家にとっては、かなり重要な城だと、ご存知でしょう」
「この城を譲ってくれるのか!? それは……何とも素晴らしい提案だ。分かった! このモルフェイ城と引き換えにタールド城を譲ろう!」
レオンがタールド城を譲って貰う条件として提示したのは、このモルフェイ城との交換だった。
このモルフェイ城は、ソロー=ジルキナ家にとっては本流の城であり、シーメンからしたら喉から手が出るほどに欲しい城である。
これにはシーメンも交換条件を直ぐに飲んだ。
レオンがシーメンに頼んだ腹心2人が、レオンの政務室に呼ばれた。
まず1人は下級家臣である《ルキ=マルキコフ》。
そしてもう1人は俺だった。
まさかの人選に俺は、今回もレオンの無理難題かと思ったが、前の戦いで結果を残せなかったので挽回するのには絶好のチャンスである。
「お前たちには、叔父上と共にタールド城に行って貰う。そしてそこで確実にマインケとラシャドの首を取って来い」
「マインケとラシャドの首ですか?」
「あぁここでタールド城を陥落させ、我らの意向を他国に知らしめるのだ。そうすればボロック州統一に王手をかける事ができる」
いきなりマインケとラシャドの首を取って来いと言われた俺たちは「2人の首を?」と言った感じで聞く。
レオンは自信満々な感じで、ここでタールド城を落とし周辺諸国にソロー=ジルキナ家の意向を見せつけるのだと鼻息荒くしている。
それが叶えばボロック州統一に王手がかけられる。
そんな重要な役割を担う事になった俺たちは、固唾を飲んでレオンに深々と頭を下げて引き受ける。
引き受ける事になった俺たちは、レオンから背中を叩かれ政務室を出る。
部屋の外に出たところで、俺とルキは互いの顔を見合って何とも言えない顔をする。
重圧が肩に乗っているのだ。
これからのボロック州の命運を、俺たちが握っていると言っても過言では無い。
そんな大役に緊張とやりがいが同時に押し寄せる。
そしてタールド城での会合の日がやって来た。
密会という体をしているので、タールド城内は普段と変わらない感じとなっている。
しかしマインケは話し合いによっては、御家滅亡もかかっているので緊張していた。
「ん? ラシャドの姿が見えないが、アイツはどこにおるのだ?」
「それが、もしもの時の為にシーメンさま以外の協力者を探すとおっしゃっていました」
「さすがはラシャドだな、もしもの時の抜け目が無い。仕方ない、今日は俺だけで会合をしよう」
朝からラシャドの姿が、タールド城には無かった。
表向きにはシーメン以外の協力者を探すという風に言って城を出たが、実はラシャドは今回の異変にいち早く気がついていたのだ。
その為バレないようボドハント州に、家臣を連れて亡命したのである。
マインケが、この事を知る事は無い。
ラシャド不在のまま俺とルキを引き連れた、シーメン一行がタールド城に到着した。
そのまま俺たちは警戒されないまま城に招かれる。
もしかしたら誘い込んで殺すのかもしれないと思って警戒して城の中に入る。
しかし殺そうとする気配が一向に見えない。
俺はあまりにもバカなのかと思った。




