049:官軍と賊軍
ムホスチン守護代が、マインケらにより暗殺された。
それにより大義名分を得たレオンは、早速マインケらを討伐するべく挙兵した。
レオン軍の総大将には家老のアドニス将軍に加え、グランプの側近でムホスチン守護代の家臣だった《ズエジャ=ゾーチナ》の2名が選ばれた。
「レオンさまより賊軍討伐の指令が出された! 敵は憎きマインケら一党である!」
アドニス将軍は兵士たちに向けて、自分たちは官軍でありマインケらは賊軍であると宣言した。
それにより兵士たちが戦いやすくする為だ。
アドニス将軍と共同総大将となったズエジャも兵士たちの前に立って演説をする。
「我らが殿であるムホスチンさまは、マインケの私欲によって殺された……こんな事があってはならない! 我らの手で賊軍を討ち取るのだ!」
やはり我々よりもズエジャたちの方が、明らかに士気が高く今ならボドハント州に勝てるんじゃ無いかと思うくらいである。
アドニス将軍の兵数は500、ズエジャ将軍の兵数は200で総数700人で進軍する。
アドニス将軍の副将に付けられたのは、中級家来である《アレサルボ=ビケイラ》中隊組頭だ。
そして俺もアレサルボ中隊組頭の部隊に配属された。
アドニス・ズエジャ将軍らの連合軍がモルフェイ城を出立したタイミングで、マインケ側も軍を進軍させる。
向こうはマインケやラシャドが来るのではなく、イタコスとラクシュアらが総大将となっているみたいだ。
その為、この戦いはレオンとマインケの戦いながらも両者が対峙する事ができないのである。
両軍はモルフェイ城とタールド城の中間地であるカウンゼ村が開戦の地となった。
今回の俺は最前線ではなく部隊の半ばに配置された。
それでも武功を残してやると意気込む。
そしてアドニス将軍による突撃の号令がかかり、カウンゼの戦いが開戦した。
「このズエジャに続けぇ!」
『うぉおおおおお!!!!!!』
アドニス将軍が号令をかけたところで、ズエジャ将軍が兵士の先頭に立って突撃する。
やはり今回の戦いに挑む気持ちは、俺たちには計り知れないくらいなのだろう。
これにはアドニス将軍も参加せざるを得ない。
ズエジャ将軍に続いてアドニス将軍も敵軍に向かって突撃を開始するのである。
9時に開戦したカウンゼの戦いは、2時間が経ったところでイタコス・ラクシュア連合軍は後退を余儀なくされ、戦いの地はタールド城の城下へと代わった。
しかし戦いの激しさは増していた。
イタコス・ラクシュア軍は必死に抵抗する。
「イタコス殿っ! このままでは、目も当てられない戦いになりますぞ!」
「そんな事は分かっている! しかしこのまま後退するわけには……」
「ですが全滅するよりはマシなのでは? とにかく今は後退して、そこで総力戦に持ち込みましょう!」
「そう……だな。殿は俺が務めよう!」
この地でも戦いは不利だとして、さらに後退する事をラクシュアはイタコスに進言する。
確かに戦いづらいところで奮戦しても、全滅するのが目に見えているので、さらに後退する事を決めた。
殿はイタコスが務めるとの事だ。
しかし鬼神と化したズエジャ将軍たちの軍が、殿を務めるイタコスに襲いかかった。
激しく抵抗したもののイタコスは、ズエジャ将軍直々の手によって討ち取られた。
そこからは阿鼻叫喚の戦いになる。
ラクシュアたちはタールド城まで2キロのところまで後退し抵抗した。
だがその抵抗虚しくラクシュアも討ち取られた。
そしてマインケとレオンの戦いは、9時に開戦し17時に決着が着いた。
ズエジャ将軍たちは、さっさと残党兵の首を取ろうとしたが、アドニス将軍に止められた。
「どうしてお止めになる! コイツらは賊軍の兵なんですぞ!」
「レオンさまが残党兵は捕えるだけにしろとの指示を出されていたからだ。貴殿はレオンさまの指示を無視するという事かな? この戦いの機会をお与えになったのはレオンさまなんだぞ?」
「くっ……承知した………残党兵は投降させ、貴殿らに引き渡す事にする」
「懸命な判断を感謝する」
ズエジャ将軍はアドニス将軍の説得に納得し、投降して来た兵を引き渡す事にした。
その意向にアドニス将軍はポンッと肩に手を置いた。
アドニス将軍だってズエジャ将軍の気持ちは分かっているからだ。
そして俺は今回の戦いで、目立った武功を挙げる事はできなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦いで大敗した事を伝令兵が、マインケとラシャドのところにやってくる。
「報告いたします。自軍は……大敗いたしました」
「なに!? あんな奴らに負けたなど……ラシャド、話が違うでは無いか! お主がレオン軍など、目では無いと言うから挑んだと言うのに………結果としてはイタコスもラクシュアが討死したでは無いか!」
「責任転嫁はやめていただきたい! 今回の戦いを決めたのは、他の誰でも無いマインケさまでしょう」
自分たちの軍が負けたと知ったマインケは、テーブルを叩いて怒りを露わにする。
そして今回の負けは進言したラシャドのせいであると責任転嫁をして来た。
これにラシャドも怒る。
ぐうの音も出ないマインケは、不貞腐れるように椅子をドサッと座るのである。
「これからどうする? このままでは我らは賊軍として徹底的にやられてしまうぞ?」
「もう我々だけで戦ったとしても、レオン軍には勝てないでしょう。軍事力でも大義名分としても、我らは完全に風下になってしまいましたからな」
「じゃあどうすれば良いというのだ! こんなところで死ぬなぞ、絶対にあってはならないのだ!」
マインケは、このまま時間が経てば賊軍として討伐されてしまうと言うのだ。
軍事力でも大義名分としてもマインケたちには勝利はないと、ラシャドは冷静に言うのである。
じゃあどうしたら生き残れるのかとマインケは、立ち上がりラシャドの胸ぐらを掴みながら聞く。
このまま死にたくはないらしい。
しかしラシャドは目を瞑って考えるようにしている。
「それでしたら、私に1つだけ考えがあります。いや、逆にそれ以外に方法は無いかと……」
「なんだと!? 考えがあるのか! それを聞かせてみろ!」
「レオンの活躍を裏で支えている人間がいます。その人間を頼るのが吉かと思います」
「レオンを裏で支えている人間? それは誰だ?」
「分かりませんか……シーメンです」
ラシャドは1つだけ考えがあるという。
逆にそれしか現状を打破できる事は無いと進言し、それは一体なんなのかと考えを聞こうとする。
その作戦はレオンを裏で支えている人間がいて、その人間を頼るのだと言う。
その人間が誰かはマインケには分からない。
分からないのかとラシャドは「はぁ……」と溜息を吐いてからシーメンであると説明した。
レオンの叔父であるシーメンが、レオンを裏からバックアップしている人間であると説明した。
そのシーメンを調略すれば、勝機が一気に自分たち側に傾くとラシャドは考えている。
それを聞いたマインケは手を叩いて納得する。
考えもしなかったのだろうとラシャドは感じた。
ここでまた「はぁ……」と溜息を吐いてから早速、調略の準備をすると動き始める。




