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048:大義名分

 俺は久しぶりの休日で、城下町をフラフラしていた。

 俺の横にはミサキちゃんがいる。

 ミサキちゃんの父である《アントニーノ=クレイン》殿は当番の日であり、母親の方は留守にしなければいけない用事があるらしい。

 誰かが面倒を見なければいけない。

 そこで白羽の矢が立ったのは俺だった。

 ミサキちゃんに懐かれている俺になら任せられると、アントニーノ殿がニッコニコで頼んで来た。

 断るわけにもいかず、休みだったので引き受ける事にしたのである。



「ミサキちゃん、もう少しでお昼だけで、お腹空いてない? 何か食べたいものある?」


「んー、そうだなぁ……あっ! 私ね、この間シソって葉っぱ?みたいのを食べて美味しかったの!」


「おぉミサキちゃんは、シソが好きなのか! 癖があって好き嫌いが分かれそうだけど、12歳でシソが好きなんでミサキちゃんは凄いね!」


「え! 私って凄いの!」


「あぁミサキちゃんは凄いよ」



 お昼時になったので、ミサキちゃんに食べたい物を聞いてみた。

 するとシソを食べて美味しかったという。

 12歳で好物がシソとは、けっこう独特なのでは無いだろうか。

 ちなみに俺は好きでは無い。


 とりあえずシソがありそうなところを探してみようと、城下町をブラブラする。

 なかなかにシソを取り扱っている店が無い。

 困っていると、どこからか「フェリックス!」と何度も俺の名前を叫ぶ声が聞こえて来た。

 誰が呼んでいるのかと周りをキョロキョロと探す。

 すると呼んでいる人間が分かった。

 アイゼルが手を振って、こっちに向かって走って来ているのである。



「アイゼル、そんなに焦ってどうしたんだよ? 今、ミサキちゃんと遊んでるところなんだけど」


「え? 何でミサキちゃんが? いやいや、そんな事よりも大変な事になったんだよ!」


「大変な事? この状況よりも重要な事か?」


「ムホスチン守護代が殺された!」


「なに!? それはどういう事だ!?」



 アイゼルが口にした事は信じられなかった。

 マインケら家臣によって、ムホスチン守護代が殺されてしまったのである。

 これはマインケらによる守護代乗っ取りだ。

 その事実を知った俺は、驚きを隠せずにアイゼルの両肩を掴んで事実であるかを再確認する。



「とりあえず城に戻るぞ!」


「で でも、ミサキちゃんを連れて?」


「仕方ないだろ! 城に戻ればアントニーノも居るはずだろ!」


「た 確かに……ミサキちゃん、嫌かもしれないけど時間が無いから、おんぶさせて貰うね!」



 とりあえず城に帰ろうとするが、俺たちのペースで走ったらミサキちゃんが着いて来れない。

 その為、ミサキちゃんには悪いが、背中におぶらせて貰う事にしたのである。

 ミサキちゃんは聞き分けが良かった。

 静かに俺に乗っかって、俺たちはモルフェイ城まで全速力で戻った。


 俺はミサキちゃんをアントニーノ殿のところに返す。

 そしてアイゼルと共に、城の中に入るのである。

 城の中は大慌てになっていた。

 その理由はムホスチン守護代のご子息である《グランプ=フレネヴィ》と《アゼル=フレネヴィ》がレオンに保護して貰う為にやって来ているのだ。



「マインケたちは姑息だ! 僕たちが狩猟に出かけた時を狙って父上を殺したんだ!」



 この日、グランプとアゼルは狩猟をする為にタールド城を早朝には発っていた。

 そこでムホスチン守護代は、屈強な自分派の家臣たちを2人の子供の護衛につけさせた。



「良いか? 何か困った事があれば、この者たちを頼るんだぞ?」


「はい!」



 グランプが今さら思うと、ムホスチン守護代は殺される事が分かっていたんじゃ無いかと思った。

 自分の子供まで殺されるわけにはいかないと、ムホスチン守護代は城から有力家臣たちと共に避難させ、被害を自分だけに抑えたのではないだろうか。



「こんな……こんな事が罷り通って良いのだろうか! 否だ、こんな事を許してはならない!」


「坊ちゃんの憤りは想像するに難しくない。坊ちゃんたちをムホスチン守護代に代わって、保護させていただきましょう」


「誠か! それは恩にきる!」



 レオンは自分がムホスチン守護代に代わって、グランプたちを保護すると宣言した。

 これは心強いとグランプは立ち上がり喜ぶ。

 そしてレオンは動揺もしているだろうからと、グランプたちを別室に案内する。

 そこで休んでもらおうというわけだ。


 そしてグランプたちが部屋の外に出て、声が聞こえなくなったであろうタイミングで、レオンは「ふふ……」と顔を下げて不敵に笑う。

 次第に声が大きくなって大笑いするのである。

 近くに控えているルシエンも控えめに、レオン同様に微笑んだ。



「ルシエンっ! これで大義名分を得たぞ!」


「えぇこれならマインケらを討伐しても、周りから後ろ指を指される事はないでしょう」


「直ぐに戦いの準備をするぞ!」


「はは! レオンさまが直々に出陣いたしますか?」


「いや! こんな闘いに、わざわざ俺が出陣する必要は無いだろう」


「ならばどなたを総大将に?」



 レオンはマインケと真っ向から戦う大義名分を得た。

 これにより周りから文句を言われる筋合いは無くなって、討伐を本気で目指せるようになる。

 今回の戦いはレオンが総大将を務めるかと、ルシエンは質問する。

 しかしレオンは今回の戦いに出陣しないと言う。

 ならば誰が総大将を務めるのか。



「アドニスを総大将に据える!」


「アドニス将軍ですか? アドニス将軍はミケルさまの家臣であり、承諾するでしょうか?」


「するとも向こうも俺だけが、守護代の仇を取ったという形になれば立場が危うくなる。意地でも参加してくるはず、それならば最初から総大将に据える」


「承知しました、召集はかけてみます」



 レオンが総大将に据えようとした人物は、家老であるアドニス将軍だった。

 アドニス将軍はソロー=ジルキナ家の家臣だが、ミケルの側近でもある男だ。

 そんな人間に総大将を依頼して引き受けるのか、ルシエンはそう考えている。

 しかしレオンは引き受けると言った。

 理由はレオンの側近だけで、今回の騒動を解決したらレオンの立場が固まってしまう。

 だから参加したという事実が欲しいのだ。



「それと、もう1人を選ぶ」


「もう1人ですか? アルバート将軍ですか?」


「いや、もう1人はグランプの側近から選ぶ」


「グランプさまの側近から……」


「主人であるムホスチンを取られたとなると、ソイツらは黙っていられないだろ? きっと死ぬ気で敵に飛びかかってくれるはずだ」


「そういう事ですか! 承知しました!」



 レオンはアドニス将軍の他に、もう1人を総大将にすると言うのだ。

 その人間はグランプ陣営から選ぶと言う。

 元ムホスチンの側近たちならば、自分の命を投げ出して敵兵に突っ込んでくれるだろうという考えである。

 それに納得したルシエンは急いで準備に走る。


 レオンの使者がアドニス将軍のところを訪れる。

 事は急ぐので直ぐにレオンの言葉を伝えた。



「なに? 俺が共同大将として戦場に出て欲しい?」


「はい! レオンさまは、是非ともアドニス将軍に総大将の一角を担って欲しいとの事です」


「そうか、レオンさまが……ミケルさまに話してみないと分からないが、俺の意思としては承知した」



 アドニス将軍は驚きながらも、やりたいという姿勢を使者に伝えるのである。

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