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003:出会い

 馬車が襲われているのを発見した俺は、助けなきゃと咄嗟に思って飛び出した。

 さすがに素手で戦うのは無理だ。

 近くに落ちている丈夫そうな木の棒を拾う。


 これがどれだけ役に立つかは分からねぇけど……。

 こうなったらやるしかねぇよな!


 俺は盗賊団に襲いかかる。

 背後を取っていたので、容易に1人を倒した。

 いきなり13歳の少年が、木の棒を持って襲いかかって来た事に、盗賊団は少し驚く。

 しかし所詮は少年が1人だけなので落ち着きを戻す。



「誰だ、このガキ!」


「気にすんな! たかが、ガキが1人だろ!」



 盗賊団のリーダーであろう男は、囲んで殺してしまえと部下たちに指示する。

 その指示通りに部下たちは、俺を取り囲んだ。

 もう価値を確信しているかのように、ニヤニヤしながら剣を構えている。

 俺は最初に倒した盗賊が持っていた剣を取る。


 ジリジリと距離を詰めてくる。

 俺はスーッと息を吸ってから、グッと息を止めて俺は盗賊たちに斬りかかる。

 この人数で鍔迫り合いになったら、やられると考えて1人を瞬殺する。

 斬りかかったのを見た盗賊の1人が、俺の背後をとって斬り殺そうとするが、振り返ってカウンターで盗賊を斬り伏せるのである。



「な 何だ、このガキ!?」


「手練れだぞ!」



 盗賊団は俺の強さに驚きを隠せない。

 まさか13歳のガキに、ここまでやられるのかと斬りかかるのを躊躇するのである。

 ビビる部下にリーダーの男は「なにビビってる!」と叫んで戦わせようとした。

 しかしその隙を突かれ、馬車の中に乗っていた人間にリーダーが切り伏せられてしまったのだ。


 自分たちのリーダーがやられた盗賊たちは、もうこうなったらマズイと思って、森の中に散り散りになる。

 俺は初めて人と戦ったので、上手く体が動いた事に少し感動している。

 あの修行期間は無駄じゃ無かったとワナワナする。


 まだまだやれそうだ!

 この体だから大人とやり合うのは、かなり難しいと思ったけど、7年間の修行が無駄じゃなかったな!

 これはまだまだやりがいがありそうだ。


 俺が自分の成長度に感動していると、襲われていた馬車から盗賊団のリーダーを討ち取った人がやって来る。

 その男は立派な口髭を生やした男だ。

 髭は独特だが、見た目はけっこう整っている。



「少年っ! 君には助けられた! 部下が手負になってしまって、それを守りながらでは限界があった」


「いえ、自分は当たり前の事をしただけです」



 喋り方や見た目、着ているものを見ると位が上である事を、俺は察した。

 無礼になったら困るので膝をついて頭を下げる。

 すると男は俺の両肩を掴んで、助けてくれたのだから立ってくれと言ってくれた。



「いやぁ、それにしても君は何歳だい?」


「私は13歳です」


「そうか、そんなに若いのか! それなのに、あの剣技とは恐れ入ったな……どこで教わったんだい?」


「いえ、どこにも教わっていません。自分の剣術は、完全な我流です」


「それは本当か!? アレが全て我流とは……君は、どこで兵士をやっているんだ?」



 男は俺の歳を聞いて驚いた。

 あんなにも華麗に盗賊団を倒した少年が、まさか13歳という若い子だったとは思わなかったからだ。

 そしてこの剣技を、どこで学んだのかと聞いて来た。

 なので俺は正直に、剣技は全て我流で生み出したものだと明かすと、またさらに男は驚く。

 こんなに若く我流で剣技を生み出すのだから、どこで兵士をやっているのかと質問して来た。



「自分は下級農民なので、兵士ではありません」


「なに? アレだけ強いのに兵士では無い?」


「はい、兵士ではありません。兵士ではありませんが、兵士になりたくて旅をしています」



 隠していても仕方ないので、自分は下級農民だから兵士では無いと告白した。

 男としては凄い剣技を持っているのに、どこにも属していないなんて驚きを隠せない。

 この驚いている男に、俺は兵士になりたいから旅をしているのだと、少し落ち込んでいるように伝える。



「ならば俺のところに来ないか? もちろんいきなり兵士にしてやる事はできないが……小者からなら雇う事もできなくないぞ」



 この剣技を持っている人間を、別のところに渡すわけにはいかないと男は思った。

 そこでいきなり兵士にしてやれないが、小者ならば雇えると言ってくれたのだ。


 や やったぞ!

 こんなに早く雇って貰えるなんて……。

 小者といえば雑務とか馬の世話とかをする、いわば使いっ走りだけど、これで結果を残せば這い上がれる!

 これはチャンス以外の何物でも無いぞ!



「是非とも雇って下さい!」


「そうか! 即決するのは素晴らしい事だ。俺は〈ボドハント州へメア郡ホールジューク郷〉で、代官をしている《ルーフェン=ソネット》だ」


「ルーフェンさま、どうぞよろしくお願いします」



 このルーフェンは、ボドハント州のへメア郡ホールジューク郷というところの領主らしい。

 確かに小さな地方貴族だが、貴族には変わりない。

 それに代官の職についているのだから、これからこのルーフェンが出世すれば、俺も出世するチャンスがあると俺は考えていたのだ。


 俺はルーフェンの下で働く事を決めた。

 このままルーフェンが領主を務めるホールジューク郷に向かう事になったのだが、俺はここであえて馬車の中には乗らなかった。

 ルーフェンは馬車に乗るように誘ってくれたが、それを小者が主人の馬車に乗るわけにはいかないと断る。


 ここで馬鹿みたいに馬車に乗れば、遠慮が無いって思われかねないからな。

 ここは断っておこう。

 体力だけには自信があるし!

 それに少しでも殊勝な心がけだと思われれば、それなりに評価が高くなるかもしれないぞ!



「お前の名前を聞いていなかったな、なんて名前だ?」


「あっ! 自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はボロック州ガージー郡バラン郷出身の《マルセル=カント》と申します!」


「マルセルか……ボロック州から、わざわざボドハント州に来たのか?」



 おっと?

 これは馬鹿正直に言いすぎたか?

 今は州ごとに1つの国として戦っている戦国時代だ。

 もしかしたら俺の事をボロック州から来たスパイだと思われてるのか?

 そうなればマズイな……。

 疑われているならボロを出せば、一気に状況が一変する可能性があるぞ。



「いやぁボロック州では、芽が出ないと思いましてボドハント州までやって来たんです。ここなら私の能力を、キチンと評価していただけると思いまして」


「その歳で、そこまで考えるのは素晴らしいな! マルセルの働き次第では、もちろん出世をさせてやるから存分に能力を使うが良い!」


「はい! 是非ともやらせていただきますので、どうぞよろしくお願いします!」



 ふぅ……。

 疑ってたわけじゃないのか?

 何より俺としては上手い返しが出来ただろ!

 さすがは俺だ。

 俺を俺が褒めてやりたい。


 俺はルーフェンが、どうしてわざわざ州を跨いで来たのかという質問にドキッとしたが、何とか乗り切った。

 色々と思うところもあるが、下級農民が成り上がるにしては、悪くないスタートが切れるんじゃないかと俺はワクワクとドキドキが入り混じっているのである。

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