047:連勝
レオン軍は筆頭家老であるアルバート将軍を総大将に、マインケ軍はイタコスを総大将に任命し、今年初めての戦いが始まろうとしていた。
レオン軍右翼には中級家臣であるケイネス大隊組頭、左翼にはグルトレール州から交換兵としてやって来た中級家臣である《ロト=タールマン》中隊組頭、中央には上級家臣である《フレッド=グーヨ》師団組頭が配置されている。
そして歩兵小隊組頭となった俺は左翼に配置され、この戦いが組頭となっての初陣である。
「やってやんぜぇ! 待ってろ、イタコス軍っ!」
昇格した事により俺の士気は遥かに高い。
さっさと開戦しないかと、布陣してからフガフガッと鼻息荒くしている。
今か今かと待っていると、総大将であるアルバートの声が聞こえてくる。
「お前たち! 今年初めての戦いが始まる。今回はレオンさまは布陣していないが……我らはレオンさまの矛である事を忘れるな!」
『うぉおおおお!!!!!』
「我らは鬼神となり、目の前の敵を撃ち倒せ! 仲間が倒れようが、身内が倒れようが前に進め! それこそが我らの平和を守る為の行為である!」
『うぉおおおお!!!!!』
アルバートの演説は大いに士気を高めた。
もちろんその中には俺も入っている。
そろそろ始まるという雰囲気が出て来たので、俺は牛のように突進する気持ちだ。
そして遂にアルバートの開戦の号令がかかった。
俺たちは敵軍に向かって突撃を開始する。
向こうも突撃を開始するが、俺たちとは勢いが違う。
アルバートに極限まで士気を高められているので、目の前の敵を全員やるという気持ちになっている。
互いの中間で、ぶつかると思われていた。
しかし勢いがあるレオン軍の方が、中間よりも押し込んで前線とぶつかった。
歩兵小隊の組頭となった俺だが、同じ隊の人間たちよりも前に出て戦うのである。
普通の組頭なら適度な距離を取る。
だが俺は最前線で剣を振るって、後ろにいる俺の隊の部下たちに戦い方を示す。
「良いか! 目の前の敵を、ひたすらに叩き切れ! コイツらを後ろに回すと、仲間たちが死ぬ事になるぞ!」
俺は大きな声を出し、小隊の兵士たちに檄を飛ばす。
今回の相手は緊急で農民から引っ張って来た人間が多いので、鬼神と化している俺たちに押され気味になる。
その隙を俺たちは見逃さない。
押し時だと判断して、ひたすらに戦線を上げる。
歩兵たちが十分に押し上げたところで、後ろから騎馬隊が突撃してくるのである。
俺の配置されている左軍の騎馬隊の中に、騎兵小隊組頭に昇格したワイツがいる。
馬上から俺に目配せをして来たので、道を開いたという意味を込めて小さく頷く。
そのままワイツたち騎馬隊は突撃する。
騎馬隊の邪魔にならないように、俺たち歩兵は騎馬に配慮しながら戦うのである。
「騎馬隊に遅れをとるな! 俺たち歩兵も騎馬隊に負けず、武功を挙げるぞ!」
『うぉおお!!!』
俺は歩兵たちに声をかける。
普通ならば歩兵と騎馬では身分も違うので、気を使って譲ったりする。
しかしそんな事をしていたら、これからのレオン軍にとっては足手纏いになりかねない。
その為、俺は騎馬に負けずに武功を挙げろと叫ぶ。
それに呼号して歩兵たちの士気が上がる。
この騎馬も歩兵も互いに切磋琢磨する形が、レオン軍の強さの秘訣と言ってもおかしくは無いかもしれない。
そんなこんなで騎馬隊と歩兵によって、イタコス軍は大打撃を受けボロボロになってしまう。
「イタコスさま!」
「どうした!」
「レオン軍左翼の騎馬隊が前線を突破し、我ら右翼の第二陣に差し掛かろうとしております! このままでは本陣に来るのも時間の問題かと!」
「何だと!? まだ開戦してから4時間しか経っていないのだぞ! こんな事があるか……ふざけるな!」
イタコス本陣に伝令が入る。
レオン軍左翼の騎馬隊が、イタコス軍右翼の前線を突破し後ろに控えている第二陣に差し掛かっている。
このままのペースでいけば、時期に本陣へと騎馬隊がやってくる可能性がある。
それを聞いたイタコスは憤慨した。
まだ戦いが始まってから4時間しか経っていない。
こんな短時間でやられたとなれば、イタコスの名前どころか、マインケの名前にすら傷がつく。
だから苛立っているのだ。
「報告、報告っ! 右翼前線が抜かれました!」
「なに!?」
「急報、急報っ! 中央の将・アデルバウスさまが、お討死いたしました!」
「アデルバウスが!?」
「イタコスさま、このままでは全滅してしまいます! ご決断をお急ぎ下さい!」
これで左右に中央が突破され、この本陣にやってくるのも時間の問題である。
もう少しの猶予も無い。
だから急いで欲しいと部下はイタコスを急かす。
負けるのは嫌だが、このままズルズルと戦っても仕方ないとイタコスも分かっている。
「全軍に伝えよ……撤退だ! これ以上の被害を出す事は、イタコスの名において許さん!」
イタコスは苦渋の決断を下す。
全軍に対し撤退命令を出すのである。
今年初めての戦いは5時間という短期決戦で、決着がついた。
アルバートは背を追う事はせず、そのままモルフェイ城に撤退していく。
タールド城に帰還したイタコスは、その足でムホスチン守護代とマインケに謁見する。
醜態を晒したと思ったイタコスは、ムホスチン守護代に深々と頭を下げて謝罪した。
しかしムホスチン守護代は怒り狂っている。
「どうなっているのだ! マインケが、レオンに勝てると言ったから進軍を許したのだぞ! それが蓋を開けてみたら、半日も持たずに大敗とはなんたる醜態!」
「はは! ま 誠に申し訳ございません!」
ムホスチン守護代は傀儡として扱われているが、レオンの危険性は理解している。
このままでは自分の地位が危ないと考えており、今回の戦いでの大敗はムホスチン守護代からしたら、絶対に負けてはいけない戦いだったのだ。
その為、総大将であるイタコスを叱責する。
これにイタコスは深々と頭を下げて謝罪した。
ムホスチン守護代は、自分の怒りを抑える為に椅子から立ち上がって窓の方に向かう。
そのまま外を見ながらボソッと呟く。
「これなら早くにレオンの軍門に降った方が……」
この発言にマインケは、テーブルをドンッと叩いて立ち上がる。
そしてムホスチン守護代を怒鳴る。
「ふざけないで頂きたい! これは誰の為に戦っていると思っておられるのか! ムホスチンさまの為に、命を投げ出した者が多くいるのに、レオンの軍門に降る? そんな事は口が裂けても言わないで頂きたい!」
「あ あぁ……申し訳なかった、今のは失言だ」
「ムホスチンさまは、随分と混乱していらっしゃるようだ。少し席を外しては、どうでしょうか?」
マインケに声を荒げられたムホスチン守護代は、身分が上だが素直に謝ってしまった。
これにマインケは、ムホスチン守護代は気が動転しているみたいだと言って、この場からの退席を遠回しに支持するのである。
ブチギレているマインケと同じ空間に居たくないと思ったムホスチン守護代は、そのまま部屋を後にする。
「このままではダメだ……もうムホスチンは使い物にならんな」
「それではどういたしますか?」
「奴を排除し、俺がボロック州の頂点に立つ。そうすれば全権を掌握し、今よりも戦いがやりやすくなる」
マインケは、ムホスチン守護代に存在価値を見出せなくなり排除する事を決めた。




