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045:猛将

 レオン軍は大宴会が開かれた翌日の早朝に、陸路を通ってモルフェイ城に帰還する。

 しかし真っ直ぐ帰る前に、ボドハント州側に寝返ったハダス=ゾソの居城・ポーボク城の城下町を焼き払ってから帰還した。



「なっ!? もう戦いが終わったのですか?」


「あぁ昨日のうちに終わっていたが、思っていたよりも宴会が盛り上がってしまってな」


「そ そうですか……それは何よりです」


「このお礼を改めてする故、貴殿は帰還して良いぞ。本当にご苦労だったな」



 モルフェイ城に俺たちが帰還した事に、留守を守っていたアウバは大いに驚いた。

 それは戦争の相手がボドハント州なので、もっと時間がかかると思っていたのだ。

 しかしそれが1日で終えて帰って来た。

 もはや驚きを通り越して恐怖すら感じる。


 アウバはレオンに帰還を命じられたので、そのまま全兵士を連れグルトレール領に帰還する。

 直ちにオズボルド尊極大名へと報告が入る。

 レオン軍が早期に、決着をつけモルフェイ城に帰還したという事が。



「何だと!? ローランド軍の主力とは言えずとも、ボドハント州には変わりない……」


「えぇ戦いの相手はワレンです、決して弱い相手では無いはずです」


「隣国に、そんな猛将がいるのは恐ろしい事だ。それが義理の息子だというでは無いか……我が息子らは、レオン君にひれ伏す事になるだろな」



 オズボルド尊極大名は隣の国に、レオンのような猛将がいるのは恐ろしい事だと遠い目をしながら言う。

 続けて将来、オズボルド尊極大名の子供たちは、レオンの御前で顔を下げる事になるとも述べた。

 それだけレオンの力を認めているのだ。


 一方でワレン軍が負けた事が、ローランド尊極大名に伝わったのは翌日の事だった。

 マーロンと大事な話し合いをしている時だ。

 緊急の伝令兵がやって来て、トラフスク砦での戦いについての詳細が説明されるのである。



「なに? ワレン軍が敗北しただと?」


「は! その通りです!」


「ワレンは、どうなった? 討ち死したのか?」


「そ それが合戦当時、ワレンさまは砦にはおらず、討ち死する事はありませんでした。しかし今回の作戦は、ローランドさまから直々に頂いた作戦ゆえに、失敗は万死に値すると言って自決を……」



 ワレンはトラフスク砦の戦いにはいなかったが、その日のうちに敗北を知った。

 ローランド尊極大名直々に命を受けたのに、失敗して名を傷つけてしまったと感じたのである。

 そして敗北を知った数分後に、ワレンは自決した。

 自分の命で、今回の失敗の穴埋めをしたのだ。



「何とも気の早い男だ……マーロン、あの話を直ちに進めてくれ。ボロック州を本格的に奪取する」


「了解しました、それでは今からでも動かせていただきます」



 ローランド尊極大名は、ボロック州を奪取する為に何かの話を進めるように言うのだ。

 マーロンも指示通りに動くと頭を下げてから席を立ち上がって行動に移すのである。


 グスタフ家からしたら、これほどに無い最悪の年越しとなった。

 しかしレオンたち、ソロー=ジルキナ家は最高の気持ちで年を越す事ができた。


 あんなに激しい戦いがあった中で、いきなり静かな日々が戻って来たので拍子抜けする。

 だが、いつまた戦いが始まるかは分からない。

 その戦いに向け俺たちは、1月の3日から通常業務に戻っていくのである。

 俺も門の見張りの登板がやってくる。



「フェリックスお兄ちゃん!」


「ん? あぁミサキちゃんか、またお父さんに届け物かな?」


「はい! また忘れたんですよぉ、困った父です」



 門番をしているところに12歳の少女がやってくる。

 金髪に整った顔で12歳には思えない顔立ちをしている、この子は《ミサキ=クレイン》ちゃんである。

 図らずも俺に懐いてくれている子だ。

 そしてミサキちゃんの父親は、レオンの家来として働いている兵士の1人だ。

 いつも忘れ物をしてミサキちゃんが持ってくる。

 これが定番となっている。


 ミサキちゃんを見送った後、また門番としての仕事に戻ったのであるが、もう1人の門番の人間に「レオンさまが、お呼びだ」と言われた。

 またまたレオンに呼ばれるとは、今度こそ死地に飛び込むような危険な依頼では無いのかと恐怖する。

 しかし行かないわけにはいかず、緊張しながらレオンの政務室に入る。

 レオンの顔は穏やかなものだった。



「フェリックスか、そこに座れ」


「は はい! 失礼します!」



 座るように言われたので、俺はビクビクしながら目の前にある椅子に腰を下ろす。

 少しの間が空いてからレオンはペンを置く。

 そして本題に入るのである。



「少し前の軍議で、武功の品定めを行なった」


「武功の品定めですか?」


「あぁ武功を精査して、その武功の大きさに合わせて昇格や報奨金を渡すというものだ」



 レオンが俺を呼んだのは、トラフスク砦の戦いに挙げた武功についての話らしい。



「叔父上を助けた上で、ワレン5人集の一角という大陸に名の知れた人間を討ち取ったのは大きな功績だ」


「い いえ! 恐れ多い限りです!」


「いや、これは昇格に値すると判断した。今日からフェリックス=マルセル=カントを、歩兵小隊組頭(くみがしら)に任命する!」


「ほ 本当ですか!? お 俺が歩兵小隊の組頭……」



 レオンから言い渡されたのは、マルテッリを倒した武功により一般歩兵から歩兵小隊をまとめる組頭に昇格するという事だったのである。

 まさか昇格するとは思っていなかったので、困惑の末に言葉を失ってしまった。

 ポカーンッとしているとレオンは手を叩く。

 それでハッとして俺は椅子から降りると、地面に片膝を着いて頭を下げる。



「私のような若輩者が、このような大役を仰せつかるとは身に余る光栄にございます! レオンさまが与えてくださった小隊組頭という役職を、ご期待に応えられるよう全身全霊を持って全うさせていただきます!」


「おぉお前の実力なら文句を言う人間はいないと思うが、もし居たとしても実力で黙らせろ」


「は! 仰せのままに!」



 まさかソロー=ジルキナ家に仕官してから、たった2年で歩兵小隊の組頭になれるとは思っていなかった。

 こんなにも嬉しい気持ちで誕生日を迎えられるなんてレオンの下について良かったと思う。

 今年も良い年になれば良いなとスキップで、門番の仕事に戻っていくのである。


 そして帝暦554年1月。

 この日サッストンズ大陸中に激震が走る。

 それはボドハント州に加えザラン州という広大な領地を支配するローランド尊極大名。

 ラセントレイス州とホールトング州の北部を除く全てを支配するディルス尊極大名。

 ラセントレイス州とボドハント州の東側に隣接するポーンリー州を支配する《アンヘリノ=ガバーニョ》尊極大名がパルヒ教会に集まったのである。



「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。今日という日が、皆さまにとって素晴らしいものになるよう全身全霊をかけさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」



 このメンバーを集めたのは、ローランド尊極大名の家老であるマーロンだ。

 3人に向かって深々と頭を下げる。

 どうやら今日という日に、マーロンは全てをかけているというのが、直ぐに理解できるのである。

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