044:大義
戦いを終えた俺たちは、大宴会の為に平野に向かう。
そこには既にワイツもアイゼルも待っていた。
「おぉ生きていたか! 今回の乱戦は、さすがに死んだかと思ったぞ!」
「いやぁ死ぬかと思ったよ! でも今日は、先の初陣と違って……武功を挙げたぞ!」
「え!? 武功を挙げたのか!?」
今回の戦いは最初から激しい乱戦だったので、俺が死んだんじゃ無いかと思ったらしい。
しかし俺は生きている。
生きているだけじゃなく武功を挙げた。
俺が初陣と違って武功を挙げたという事を聞いたワイツとアイゼルは大きな声を出して驚く。
「で、誰をやったんだ! 名が知られている奴か?」
「確かマルテッリっていう奴だったと思う。ワレン5人集の1人って言ってたな」
「なっ!? 憤怒のマルテッリか!?」
俺がマルテッリに一騎打ちで勝利した事を聞いて、ワイツとアイゼルは2度目の驚きを迎える。
2人は俺に近寄って、俺の両肩を掴む。
そのまま前後に「やったな!」と揺する。
俺も嬉しくなって「えへへへへ」と笑って、武功を挙げた実感を感じで来た。
今日は良い酒が飲めそうだと喜ぶ。
そして全員が揃ったところで、レオンの掛け声と共に大宴会がスタートするのである。
この世界に転生してから初めて酒を飲んだ。
別にそこまで好きだったわけでは無いが、ここに来て久しぶり飲むと、これはこれは美味い。
武功も挙げたし、最高の味がする。
これが祝杯という奴なのかと美味しく嬉しい。
しかもレオン軍としては、格上であるボドハント州に勝利を治めているので軍としても盛り上がる。
俺が知っているようなパーティどころでは無い。
騎士も雑兵も関係なく、これはこれは面白い大宴会が夜通し行われるのである。
俺とワイツとアイゼルも浴びるほどに飲んだ。
そして俺たちは潰れた。
「ん? あぁ寝てたのか……ちょっと夜風に当たるか」
目を覚ましたらワイツもアイゼルも眠っていた。
起きているのは俺だけであり、起こすのも悪いので夜風に当たろうと散歩をする事にした。
別に当てがあるわけでは無いが、高台に行けば良い景色が観れるだろうと思った。
適当に歩いていると開けた丘を発見する。
そこにはパァと月明かりと星に照らされる綺麗な景色が広がっていたのである。
俺は思わず「うわぁ……」と声を漏らした。
久しぶりに、こんなにも綺麗な景色を見た。
感動して身動きが取れずにいると、この丘に俺以外の人間もいる事に気がついた。
恥ずかしいと思って立ち去ろうとした。
しかしその人物の顔に見覚えがある。
そうレオンだった。
「おぉフェリックスか」
「こ これはレオンさま! まさかこんなところにおられるとは……護衛の方々は?」
「護衛? そんなの居たら、こんな風に夜酒を楽しめないだろうが。そうだ、一緒にどうだ?」
「い いえ! 恐れ多い限りです!」
「良いから飲め! 1人で飲んでいても、つまらないと思っていたところだ」
レオンも俺の事を見つける。
目があった瞬間、急いで俺は深々と頭を下げる。
それにしてもレオンの周りには護衛の人間がおらず、あまりにも危険では無いかと思った。
しかしレオンは護衛がいたら面白くないと笑う。
するとレオンは俺に、一緒に酒を飲まないかと誘ってきてくれたのである。
本当なら嬉しいが恐れ多いからと断る。
だがレオンは良いからと言って、自分の隣をドンドンッと叩いて座るようにいうのだ。
俺は「はぁ……」と諦めて隣を失礼した。
「フェリックス、聞いたが武功を挙げたらしいな? 叔父上すらも敵わなかった敵を、自ら一騎打ちで討ち取ったと聞いたが、本当か?」
「は はい! シーメンさまが、相手の体力を限界まで削っていただいた故の勝利です!」
「はっはっはっ! 叔父上のメンツを守るような発言ができるとは、叔父上とマルテッリの力の差は大きかったようだな」
「い いえ、私からは何とも……」
武功を挙げた事を、レオンは知っていた。
何よりシーメンが勝てなかった相手に、自ら一騎打ちで討ち取ったという気まずい状況に俺はアタフタする。
何とかシーメンのメンツが保つように発言をした。
しかしその発言から逆にレオンに悟られてしまう。
シーメンとマルテッリの武力の差が、かなりあったという事をである。
「そんなお前に聞くが、お前の大義は何だ?」
「わ 私の大義ですか?」
「あぁ色んな人間の大義を聞くのが好きでな。お前の大義も聞かせてくれ」
「俺の大義ですか……俺の大義は主君の為に良く働き、自分の誠に恥じない生き方をする事です」
俺はレオンに大義について聞かれた。
どうやら色んな人間の大義を聞く事が、レオンの楽しみらしい。
いきなりそんな事を言われても難しい。
しかし答えないわけにはいかない。
その為、俺はおぼつかない感じで説明した。
俺の大義は主君であるレオンの為によく働き、自分が信じている誠に恥じない生き方をする事だと答える。
俺の大義を聞いているレオンは興味深そうに聞いている。
「己の誠に恥じない生き方か、確かに大切な事だ、それにお前らしいと言えば、お前らしいな」
「ありがとうございます。ちなみにレオンさまの大義をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん良いに決まってるだろ。俺の大義は……天下を治め、この世から戦争を無くす」
「天下を治め……天下統一ですか!?」
「あぁそれこそが俺の大義だと思っている」
レオンの掲げている大義とは、天下統一を果たし天下から戦争を無くすというものらしい。
俺はレオンが天下統一を目指しているなんて思わず、口を開けて言葉を失う。
もちろん何かを成そうとしている事は分かる。
しかし天下統一まで見ているとは思っていなかった。
だが不思議と腑に落ちた。
ここまで傍若無人のような振る舞いをしながらも、多くの人に惚れられる。
大きな事を成そうとしていなければ、おかしいレベルでレオンは天に好かれている。
他の人が言えば戯言になるだろう。
しかしレオンが言うと現実になる気がする。
レオンはフッと笑いながら、立ち上がると盃を月の方に向ける。
「この世は1つになりたがっている! もう戦いに疲れているんだ、誰かが1つにしなければ……それをやれるのは俺しかいないと確信している!」
「その通りです! 天下統一を果たせるのは、この世を探してもレオンさまのみです!」
「おぉお前もそう思うか!」
「えぇ! レオンさまが天下統一を果たせますように、我ら家来一同がお支えいたします!」
「うむ! お前たちの活躍を期待してるぞ」
この大義と言うには、あまりにも荒々しいレオンの野望は、今夜の月明かりや星よりも遥かに輝いていた。
俺も最後までレオンに仕えようと固く決意する。
そしてレオンが当主となり、1番の激しい戦いに幕が降りる。
勝者は圧倒的な差を付け、レオン軍の勝利となった。
このレオン軍の勝利は、周辺諸国にも伝えられる。
田舎領主がサッストンズ帝国有数の尊極大名に、勝利を治めたという事実は良くも悪くも大陸中に知らされるのに時間は掛からなかった。
しかしこの情報を聞いて1番に動かざるを得なかったのは、戦いに敗北したボドハント州である。




