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002:いざ、騎士へ

 俺は教会に入った。

 教会内での修行は、ブラック企業を経験している俺にとっては、そんはキツイものでは無かった。

 何なら午前中までに、全てが終わるくらいだ。

 こうなったら時間が有り余るので、余った時間は騎士になる為に筋トレや木刀を振りまくった。



「き 君! 君には凄い才能があるぞ!」


「え? さ 才能? 何の才能ですか?」


「君なら大司教だって夢じゃないぞ!」



 普通にやっているつもりだったが、神父さまが俺には才能があると言って来た。

 いきなりの事だったので、何の才能かと困惑した。

 どうやらこのまま修行を続けて、もっと高等な指導を受けられるところに行けば、最終的には大司教まで行ける器だと鼻息荒く説明してくる。

 まさかここに来て教会での才能があるとは。

 しかし俺は教会で成り上がるつもりは無い。



「神父さま、申し訳ありません。私には成したい夢がございます……それは大司教になる事ではございません。とても嬉しい話だったのですが、夢の為にそこに飛び込む事はできません」


「そうか……それは残念だが、お主の夢を神父として応援しようじゃないか」



 断るにしても嫌だと、真っ向から突っぱねたら教会内での待遇に不利になるだろう。

 だからできる限り、向こうが不快に思わないよう丁寧に丁重にお断りをする。

 俺の言葉に神父さまは感銘を受けたみたいだ。

 これで教会内での扱いが不当にはならないだろう。


 こうして俺は教会内での修行と、個人で行なっている筋トレと剣の修行を平行して行なう。

 毎日バカのようにやった事で、体は次第に歳に反して出来上がっていくのである。

 気がつけば教会に入ってから7年が経っていた。

 俺も13歳になっていた。


 13歳になった俺は、成り上がるという夢の為に、次のステップに進む事を決めた。

 このステップの為に、俺は教会を辞めた。

 数年ぶりに家に帰ったのだが、エールとジャンは息子の帰宅に大喜びするのである。

 だが申し訳ないが帰って来たわけじゃ無い。



「父さんと母さんに話があって帰って来たんだ」


「な 何だよ、そんなに改まって。まさかまた何かあるのか?」


「この子の事だから何かあるとは思いましたけど、何か嫌な予感がしますね……」



 俺が話があると切り出すと、さすがは13年も親をやっているだけはある反応を見せる。

 どうやら俺の思考を読まれているみたいだ。

 こんな空気になったら、ちょっと言いづらいところもあるが、とりあえず切り出してみよう。



「俺は騎士になる為に、ここを離れようと思うんだ!」



 俺の騎士になる為に、この村を離れようと思うという言葉を聞いた2人は、口を大きく開けて言葉を失う。

 そして3人の間に無音の空気が流れる。

 数秒待ってから俺は「え? あの……」と声を出す。

 我に帰った2人は、スッとその場に立ち上がると「さぁ仕事に戻るか」と無かった事にしようとした。

 俺は「いや、あの……」と呼び止めようとする。



「ダメだ! 教会に入りたいとはわけが違う!」


「今回はお父さんに賛成よ。13歳の子供が、旅に出るなんて認められないわ」


「父さん、母さんっ! 俺は来年になれば元服です、そうなれば大人と変わらないよ!」



 やはりエールとジャンは反対して来た。

 しかし俺は一歩も引き下がらない。

 来年で14歳になって、そうなれば元服して大人と同じになると主張するのである。



「それじゃあ来年で良いじゃ無い」


「母さんの言う通りだ、来年は元服するかもしれないが今は子供だ! 認めるわけにはいかない!」


「それじゃあ遅いんだよ……俺は下級農民なんだ、今からでも遅いくらいだ。早く志願して結果を残さないと、死ぬまでに騎士にはなれないんだよ」



 俺は否定されても成し遂げなければいけない。

 地面にひれ伏して頭を、床にゴシゴシと擦り付けて必死に許可を得ようとする。

 エールとジャンは、必死な俺を見て困惑する。



「どうしてそんなに騎士になりたいんだ? 俺たち農民にはキツイ話だぞ?」


「この世に生まれて来たのなら、何かを残したいんだ! 歴史に名を残すような男になりたいんだ!」



 俺はどうして騎士になりたいのかという質問に、この世に生まれて来たからには名前を残したいと真剣な眼差しで主張するのである。

 まさかこんな歳で、そんな事を言うなんて2人にとっては寝耳に水という感じだ。

 ここまで強い意志に、エールとジャンの胸を打つ。

 それに俺が頑固なのも知っている。



「分かった……お前の人生で、やりたいようにやれば良い。だが後悔するような事はするなよ!」


「はい! ありがとうございます!」


「私の意見もお父さんと一緒よ、自分が悔いを残して死ぬような事だけはダメよ? それ以外なら認めるわ」



 2人とも後悔するような事はしないようにという約束を取り付け、それ以外なら好きにして良いと認めてくれたのである。

 俺は顔を上げるとパァッと明るい笑みを浮かべる。

 この顔を見た2人は、フッと笑みを溢す。

 今日は俺の門出を祝して、カント家でドンチャン騒ぎをするのである。

 そして翌日の早朝、俺は家を出発する。



「ほら、少ないけど足しにして」


「か 母さん……今さらだけど、母さんと父さんの子供に生まれて良かったよ!」


「ふっ! 生意気な事を言うんじゃねぇ、頑張って来いよ!」



 俺はエールとジャンとハグをして、第2の故郷を出発するのである。

 俺が見えなくなるまで、ジャンとエールは俺に手を振ってくれている。


 あぁまさかこんなに寂しい気持ちになるなんて思わなかったなぁ……。

 第2の人生とは言っても、あの2人にとっては普通の子供なんだもんな。

 絶対に結果を残してやる!

 そして2人に恩返しをしてみせる!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 熱い想いで飛び出して来た俺だったが、これからどうやって騎士になろうかという考えはしていなかった。

 とりあえず自分を追い込みたいと思った俺は、ボロック州ではなく東側に隣接する〈ザラン州〉を、さらに東に進んだ〈ボドハント州〉に行く事に決めた。

 ザラン州は、ほぼボドハント州の属国と言って良い状態らしく、ボドハント州はサッストンズ帝国の中でも栄えている州だという話だ。

 そこでなら上手くいくかもしれない。

 俺はそう考えたのである。



「さてと母さんから金は貰ったけど、これでどれだけ持つかは難しいところだな……こうなったら、商売でもやって稼ぐしか無いな」



 俺はエールから貰ったお金だけでは、生活していけないと考えていた。

 そこで前世の記憶を生かして商売をしようと考えた。

 そうと決まれば早い方が良いと考え、俺はボドハント州を目指して出発する。

 ボロック州からボドハント州までは約2週間かかる。

 到着した村々で小麦を買っては、別の村で転売するという方法で生活費を稼いだ。

 そして2週間かけてボドハント州に到着した。


 ここからが大変なところだ。

 騎士さまのところに直接、部下にして下さいと言いに行くべきだろうか……。

 何も考えなしに飛び出したのは間違いだったかなぁ。

 マジで困った。


 俺が真剣に、これからについて困っていると、森の方から騒ぎ声が聞こえてくる。

 どうしたのかと思って、声のする方へと向かってみると、馬車が盗賊団に襲われていたのだ。

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