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037:父の力を借りて

 ようやく我慢しなくて良いのだとヒリスは、トラフスク砦を攻められる事を喜ぶのである。

 口頭での伝言を伝え終わったところで、俺はヒリスに詳しい事が書かれた密書を渡す。

 受け取ると直ぐに手紙の中を開いた。

 俺の方から手紙の文字は見えないが、ヒリスの目がドンドン動いていくので読むスピードが分かる。

 そして読み終わったところで、手紙を机に置いて天井を見上げるように「ふぅ……」と息を漏らす。



「さすがはレオンさまだ、このタイミングで攻撃を仕掛けるとは……あの時の判断は間違っていなかった!」



 ヒリスは勝手に喜んでいるみたいだ。

 5ヶ月前までは、どうして援軍を送らないのかと文句を言っていたが、今となってはレオンの判断は間違っていなかったと言っている。

 どうやらトラフスク砦に当初は1000人の兵士が居たのだが、今は油断し切って300人余りしかいない。

 このチャンスを狙っていたのかとヒリスは感動する。



「レオンさまの気持ちは理解した! 直ちにモルフェイ城へと戻り、ヒリスも覚悟が決まりましたと伝えよ!」


「承知いたしました、それでは失礼します」



 俺はヒリスからの返事を聞いてから、政務室を出ると台所の裏口から荷物を持って出る。

 そのまま行きの時のように農民のフリをする。

 農民のフリをしながらも急いで帰らなければいけないので、不思議と足の運びが効率的になって来る。

 こうやって足運びを覚えるのかと俺は思った。

 これは前世では味わえない事だろうと少し感動する。


 そして帰還した俺は、着替えてから直ぐにレオンの政務室を訪れるのである。

 アレから随分と時間が経っている。

 しかし仕事量が増えているように思えた。

 まさかそれだけ仕事をサボっていたのかと、俺は少し何とも言えない感情になる。

 そんな俺にレオンは「どうだった?」と聞いて来た。

 ハッと我に帰った俺は、ヒリスが言っていた事を全て伝えてやる気であると報告するのである。



「そうか……ヒリスには随分と待たせたからな、これから本格的に暴れて貰おうか。フェリックスも覚悟しておけよ、もう直ぐ激しい戦いが始まるんだからな」


「はい! 承知しております!」



 この日からヒリスは、トラフスク砦に準備をしている事がバレないように支配地から兵や食料、戦船を密かに集め準備を進めていく。

 そして俺がヒリスのところに行って5日が経った。

 11月19日、レオンが納める領地に向けて1000人の兵隊が行軍を開始した。

 この1000人の兵隊は、オズボルドの配下たちだ。

 トラフスク砦を攻撃している時に、タールド城から攻撃を受けたら落ちてしまうからだ。

 11月20日、オズボルドの側近の1アウバが他の家臣を4人引き連れてやって来る。

 これは1日に1人、必ずオズボルドのところに伝令を飛ばす為の処置である。



「おぉアウバ殿っ! 良くぞ、俺の援軍の声に答えてくれたな! これで気兼ねなくボドハント州と戦える!」


「これはこれはレオンさま、わざわざ挨拶なんて宜しかったのですが……これは恐悦至極です!」


「ここは任せた! 我らはこれから出立する。留守の間は貴殿らが頼りだ!」


「はっ! 全身全霊でレオンさまの領地を、守ってみせる所存であります!」



 レオンはアウバたちが到着したと聞くと、城を出て布陣しているところに足を運ぶ。

 頼りだからという事でアウバと厚い握手を交わす。

 これにはアウバも驚いたが、ここまで言われてしまうと全てをかけて守らなければいけないと思った。

 この領地を任せたと言ってから、レオンは直ぐに城の方に戻って装備を整えるのである。

 そして今回の戦いに参加する家臣たちを呼ぶ。



「これより愚かにも、我らが領地に足を伸ばそうとしているほどハント州を叩きに向かう! この行為は、我らにとって大きな戦いの始まりだろう! 絶対に負けるわけにはいかない、覚悟を決めて戦え!」



 レオンは家臣たちに、これから激しい戦いになるという風に声をかける。

 それでも覚悟を決めて戦うように鼓舞した。

 この演説に反応して家臣たちは「うぉおおおお」と歓声を上げて反応するのである。

 しかしこの中で乗り気では無い人間たちがいた。



「レオンさま、本当に戦う気ですか? ボドハント州を本気で怒らせたら、もう後戻りできなくなりますよ?」


「兄貴の言う通りです、ボドハント州はサッストンズ帝国の中でも指折りの州ですよ! そんなところと、まともに戦えば勝ち目はありませんよ!」



 レオンに異議を唱えたのは、ミケルの与力として仕えているケダルヘイ兄弟である。

 兄のビューノサが、本当にボドハント州と戦うつもりなのかと聞いて来る。

 これに弟のジョゼキニも同調した。

 2人とも勝てないと思っているのだ。

 まともにボドハント州と戦えば、最も簡単に負けて全滅してしまうと言うのである。



「何を今さら言っているんだ! レオンさまが戦うと決めたら、我らは着いていくのだ!」


「ルシエン殿の言う通りだ! 敵は目の前までやって来ているのだぞ! これで戦わなければ、我らは腰抜けと言われるんだぞ!」



 ルシエンと重臣の1人《アルバート=ムッツィ=ドサパノフ》が、今更になって言い出すなと叱る。

 全員の士気が高くなっているのに、1人2人が士気の下がる事を言うのはあり得ない。

 何より重臣の2人が言う事があり得ないのだ。

 ルシエン殿のアルバートに叱られても、ビューノサたちはスンッと無視をしている。

 これにアルバートは「この野郎!」と詰め寄る。

 しかしそれをレオンが止める。



「止めろ、そこまでだ! 戦いに行く前に、仲間内で揉めて、どうすんだよ?」


「し しかし……こんな時に、あんな事を言うのは信じられません! 全員の士気が高まっていると言うのに」


「ここで揉めて士気が下がるよりはマシだ! ビューノサもジョゼキニも、戦いたくないならば好きにすれば良いさ。お前たちが参加しないからと言って、今回の事について咎める事は無い」



 レオンはビューノサとジョゼキニに、戦いに参加したく無いならばしたくて良いと言った。

 まさかそんな事を言われるとは思っていなかった2人は、キョトンとした顔をしている。

 まぁ驚いたのは2人だけでは無い。

 他の家臣たちもレオンは激怒すると思った。


 来たくなければ来なくて良いと言われた2人は、互いに互いの顔を見合う。

 来るとは思わなかった返答に、2人はどうしたら良いのかと困惑するのである。

 しかし兄のビューノサが「じゃあ……」という感じで自分の兵士たちを下げた。

 それに同調するようにジョゼキニも下がる。



「ちゃちゃが入ったが、俺の気持ちは変わっていない! ここでやらなければ不利な後手に回らなければならないんだ! ここで叩いておく必要がある!」



 レオンは面倒なイチャモンをつけられたものの自分の気持ちは変わらないと語り、ここでやらなければ不利な後手に回って、それこそ全滅してしまうと言うのだ。

 これには俺たちも納得していて、ビューノサたちに気分を害されたが、それでも戦う意思は変わらない。

 気を取り直してレオン軍はモルフェイ城を出発した。

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