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035:大事件

 皇帝に代わって実権を握っている帝威大将軍だが、その帝威大将軍は現在〈フォンターナ家〉が世襲制で引き継いで200年間も経つのである。

 しかし現当主の《アントニウス=サニム=フォンターナ》すらも傀儡となりつつあった。

 本当に実権を握っているのは、帝都の守護を任されている〈エーデルウォルト家〉だ。



「ヒルマーさま、アントニウスさまが和睦を破棄し、スーロン家と同盟関係になりました……」


「なに? 帝威大将軍は愚か者なのか? 確かに十数年前までは、スーロン家は有力武家だった……だが、もうスーロン家に力は無い」



 エーデルウォルト家は、元々そこまで地位の高い家系では無かった。

 そんな家系がどうして実権を握るまでになったのか。

 それは下剋上を起こし成功したからである。

 エーデルウォルト家の元々の主人は、帝都と周辺の国を領地にしていたスーロン家だ。

 下剋上の成功によってエーデルウォルト家と、スーロン家の力関係はひっくり返ってしまった。


 そして今アントニウス帝威大将軍は、エーデルウォルト家と小競り合いを起こし和睦したというのに、エーデルウォルト家を討伐して欲しいとスーロン家を頼った。

 この選択にエーデルウォルト家の当主である《ヒルマー=ペイジ=エーデルウォルト》は、どうしてエーデルウォルト家よりも下の人間に頼るのだろうと呆れる。

 ここまで馬鹿だとは思っていなかった。



「ヒルマーさま、どうしますか? 今回もアントニウスさまを見逃しますか?」


「さすがに今回で何回目だ? 初めてならば考えてやらん事も無いが、もう何回もやられているんだ。ここら辺で痛い目を見て貰おうか」


「承知しました! 直ぐに軍を編成いたします!」



 ヒルマーはアントニウス帝威大将軍の行動に対し、これが初めてでは無いので優しくするつもりは無い。

 家臣に軍を編成するように指示する。

 そして編成した数は2万5000人と、とてつもない数の兵士が集められたのである。

 この兵を連れヒルマーは、帝都ナントラに侵攻する。

 まさか2万5000で攻めて来るとは思わなかったアントニウス帝威大将軍はアタフタしている。



「に 2万5000っ!? ど どうなっておるのだ、このままではナントラが簡単に落ちてしまうぞ!」


「アントニウスさま、まともに戦ったとしても半日も経たずに全滅してしまいます……ここは籠城しましょう」


「ろ 籠城だと? それは勝算があるのか?」


「まぁ少なくとも正面からやるよりはあるかと」



 アントニウス帝威大将軍は、向こうの数に動揺が隠せずに部屋の中をウロウロと歩き始める。

 そのアントニウス帝威大将軍に、スーロン家の当主である《アメル=スーロン》は、このまま戦っても仕方ないので籠城を提案する。

 ウロウロと歩き回っているのを、ピタッと止まる。

 そしてアメルのところに駆け寄る。

 籠城をすれば勝算はあるのかという事を聞く。

 そんなに詰め寄られ、籠城に勝算はあるのかと聞かれてもアメルとしては何ともいえない。

 その為、正面からやるよりはあると答えた。


 アメルの指示通りに帝威大将軍の軍は籠城戦を選択。

 これで勝てるとアントニウス帝威大将軍は、とてつもなく短絡的な考えをしていたのである。

 しかしアントニウス帝威大将軍たちが籠城している城は、直ぐに取り囲まれ開戦した。

 そのまま帝威大将軍の軍が優勢に立つ事なく敗戦。

 命懸けでアントニウス帝威大将軍は、アメルや側近たちを連れ帝都を脱出する。

 ヒルマー軍が帝威大将軍の背を追う事は無かった。



「向こうにとっても、こっちにとっても無駄な時間だったと言わざるを得ないな」


「ヒルマーさま、どうして背を追わないのですか? このまま逃げられたら面倒な事になりますよ?」


「あんな馬鹿にできる事は限られている……直ちに周辺諸国に通達しろ! 大将軍に加担する者は、武家だろうと貴族だろうと領地を没収するとな!」



 ヒルマーは逃げていったアントニウス帝威大将軍を、何もさせないようにある作戦を取る。

 それは周辺諸国に対し、大将軍に加担した者は武家だろうと貴族だろうと爵位と領地を剥奪すると発表され、多くの大将軍派が離反しヒルマーの軍門に降った。

 まさかの大将軍追放という事態が起こったのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 大将軍が追放された翌月の9月。

 ラセントレイス州のディルス尊極大名と、キルトッサ州のエクセルム尊極大名の長きに渡る戦いが始まる。

 エクセルム尊極大名が自ら兵を率いて、ホールトング州北部へ出陣した。

 エクセルム軍はホールトング州北部の町である〈ジオボルゲ〉で、ディルス軍の先鋒と衝突する。



「我らが友の領地を奪わんとする侵略者どもを、我らの力で追い払うのだ!」


『うぉおおおお!!!!!』



 エクセルム軍は助けを求められ、それに応えるように戦いを始めたので、兵士たちは正義の名の下に戦えるので士気が、他の戦いよりも高いのである。

 その士気の高さのまま先鋒を破った。

 この勢いのままホールトング州を南下していき、2つの城を落とす事に成功した。



「ディルスさま……これは一度、引いた方が良いのでは無いでしょうか?」


「なに? ここまで領地を増やして来たのに、ここに来て手放せと言うのか?」


「それは理解できますが、向こうの勢いは止められません。ラセントレイス州も留守にし過ぎるわけにはいきません……引いてから立て直した方が良いと考えます」



 ディルス尊極大名の側近であり、ラセントレイス州の軍師であるパデタラスは、このままでは大敗してしまうと考え撤退を提案する。

 しかしせっかく侵攻して奪った土地を、みすみす手放すのかとディルス尊極大名は反対した。

 それでも大敗して兵を失うよりは、まだ引いて立て直して戦った方が勝算があると説得するのだ。

 ここまで強く真っ直ぐ言われほどディルス尊極大名は悩んでしまうのである。

 悩んでしまって「んん……」と声を漏らす。



「この状況では勝てないか? パデタラスは、本当に勝てないと思っているのか?」


「100%の敗北とは言えません……しかし! 今のエクセルムを舐めてはいけません。決して格下と思うのは危険な人間です!」


「確かにエクセルムは、後に名を残すだけの尊極大名だろう。ワシとて戦って無事に済むとは思っておらん……仕方ない、ここはパデタラスの顔を立てるとしよう」


「ありがとうございます! それでは撤退の準備をさせていただきます!」



 ディルス尊極大名は、パデタラスに「本当に勝てないと思ってるか?」と改めて質問した。

 100%では無いと言った上で、エクセルム尊極大名は決して格下と舐めてはいけないと言うのだ。

 そのパデタラスの考えには納得する。

 確かに歴史に名を残す男であると、ディルス尊極大名はエクセルム尊極大名を認めている。

 そんな中でパデタラスの意思は固いとし、ディルス尊極大名は撤退を決定した。

 そしてディルス軍はラセントレイス州に帰還した。

 ディルス軍の撤退を確認してから、エクセルム軍も領地へと撤退していく。

 戦いは終わったかに思えた。

 しかしこれから長い間、この土地を巡って両軍は激しい戦いを繰り広げるのである。

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