031:モンシュ教会の会見
モンシュ教会での会見に向けて、俺たちはモルフェイ城を日が昇る少し前に出発した。
これに対しオズボルド尊極大名は、レオンたちが通るであろう道の近くに宿屋を取っていた。
教会で人となりを見る前に、普段の姿を見たかった。
だから、こっそりと宿屋の窓から外を見ている。
しかしさすがに朝が早かったので、オズボルド尊極大名はうつらうつらしていた。
こんな事もあろうかと配下の人間も見張っている。
「あっオズボルドさまっ! レオン軍と思われる軍がやって来ました!」
「なに!? ようやく来よったか、どれどれコスタスに勝てずとも劣らずの虎のような男かな」
オズボルド尊極大名の代わりに、外の様子を伺っていた配下の人間が、オズボルド尊極大名の肩を軽く叩いてレオン軍が来た事を伝える。
本当かと目を覚ましたオズボルド尊極大名は、目を擦りながら前のめりになって外の様子を伺う。
コスタス前代官は、実に男らしく虎のように大いに猛っていたと感じているのである。
そんな子供であるレオンは、どれだけコスタス前代官の血を受けているのかとワクワクしていた。
しかしオズボルド尊極大名は、ワクワクしていた気持ちが大きかったので、レオンの身なりや風貌を見てガッカリするのである。
「なに? あんな派手な服に、髪は赤いじゃ無いか……それに馬上で干し肉を食ってるだと? これから義父であるワシに会うと言うのに」
「さすがは大馬鹿者と言われてるだけはありますね……本当に噂通りの人のようです」
「確かに噂通りの大馬鹿者だな、あんな人間に投資をするほど、ワシらは暇じゃあるまい。何ならモンシュ教会にて討ち取ってしまっても良いな」
コスタス前代官の子供であるレオンが、あまりにもバカみたいな格好をしていたので激しく落胆する。
服装が正装からかけ離れた派手な服に、黒髪だった髪の毛を真っ赤に染めていた。
さらには馬上で干し肉をムシャムシャと食べている。
これは噂通りの大馬鹿者で確定だと思った。
こんな人間に投資をする金も時間も無いと言って、さっさとモンシュ教会に向かう事にしようとする。
何ならそこで討ち取ってしまっても良いとすら、オズボルド尊極大名は思っている。
そんな時、配下の男が「ちょっとお待ち下さい!」と大きな声を出して、帰ろうとしているオズボルド尊極大名を呼び止めるのである。
「そんな大声を出して、どうしたんだ? もうレオン君に期待する事なんて無いぞ……」
「し しかし! アレを見て下さい!」
「アレってなんだ? 何の事を言っ……なっ!? な なんだアレは!?」
帰ろうとしているのに、どうして呼び止めるのかとオズボルド尊極大名はイヤイヤ戻ってくる。
何をそんなに騒いでいるのかと思いながら見てみる。
するとオズボルド尊極大名は大いに驚愕した。
オズボルド尊極大名たちが目にしたのは、300人の鉄砲・弓兵に500人の槍兵が大行進していた。
何より特出しているのは槍兵が持っている槍の長さであり、常識の物よりも1.2倍も長いのだ。
戦争を起こすレベルの装備である。
こんなのを目の当たりにしたオズボルド尊極大名は、開いた口が閉まらないと言った感じだ。
「当主は大馬鹿者、されど兵は精鋭……このチグハグさは、一体なにを意味する? このワシを………試しておるのか? 面白いでは無いか!」
オズボルド尊極大名は、レオンの立ち居振る舞いから大馬鹿者という噂話は本当だろうと思った。
しかし隊列を組んで行進している兵は精鋭ばかりだ。
この2つの対立する評価に、オズボルド尊極大名は違和感を感じたのである。
そこで行き着いた答えは、レオンが自分自身を試しているのでは無いかという事だ。
「どうしますか? オズボルドさま」
「向こうが、ワシを試そうとしているのならば……こちらも試してやれば良いだけの話じゃ! さっさとモンシュ教会に戻って準備をするぞ!」
「は! 承知いたしました!」
このまま自分だけを値踏みされては堪らないと、逆にこっちも試してやると言うのである。
部下に急いでモンシュ教会に戻るように言う。
それに「はい!」と返事をして、2人とも泊まっていた宿を出発して教会に向かう。
会見場であるモンシュ教会に戻ったオズボルド尊極大名は、会見用の正装に着替えて教会の本堂で待つ。
完全に舐めた格好で来るであろうレオンに、ガツンと言ってやると不敵に笑っている。
そんなオズボルド尊極大名のところに、部下がやって来て「到着なさりました」と報告する。
「そうか! さぁここに連れて来い!」
到着したのならば本堂に通せと、怒鳴る準備をフフフフッと笑って準備する。
遂に本堂の扉が開いてレオンが入ってくる。
オズボルド尊極大名が振り返り「なんだ、そのかっ」とまで言って怒鳴ろうとした。
しかしそこに立っていたレオンは、豪華で雅な正装をしているのである。
その場にいる誰もが息を呑んだ。
「(や やられた……まさかワシが、見張っているのが読まれていたのか? それにしても、この緩急の差は何とも言えない………こちらが1本取られたか)」
このレオンの行動に、オズボルド尊極大名は1本取られてしまうのである。
レオンは歩き始め、普通ならばオズボルド尊極大名が上座に座っているので下座に座るのが普通だ。
しかしレオンは上座の方の壁に寄りかかった。
そのまま何も言わずに腕を組んで黙っている。
挨拶もなく、何が起きているのかとオズボルド尊極大名陣営は言葉を失う。
「(な 何を考えているのだ? ど どうして席に座らず、ワシに挨拶をせぬのだ……なんなんだ)」
オズボルド尊極大名も驚きすぎて、何を言って良いのか分からなくてなっている。
するとピルヤ家の家臣が痺れを切らし「こちらがグルトレール州の尊極大名さまです」と言って来た。
この紹介にレオンは表情を変える事なく「そうか」と一言だけ答えたのである。
これにはオズボルド尊極大名も感心すら覚える。
「(そうか……この若さで、この胆力。ワシすらも見下す、この器………負けたな)」
オズボルド尊極大名は自分の事すら見下す器と、若さに似合わぬ胆力に感服した。
そして思わずワハハハハッと笑った。
全員の視線がレオンの方からオズボルド尊極大名の方に向くのである。
レオンもオズボルド尊極大名の方を見る。
「とことん面白い男じゃ! ほれ、そんなところに立っていたら話もできないじゃ無いか。レオンくん、君とは話してみたいと思っていたんじゃ」
「そうか、オヤジ殿がそういうならば座らせて貰う」
「ほれほれ! 君の話も聞きたいし、何よりマリアベルは元気にしておるか?」
オズボルド尊極大名は笑顔を浮かべながら、レオンに席に着いて話をしようという。
レオンの話も聞きたいし、何より娘のマリアベルが元気にしているかを、父親としてレオンの口から聞いておきたいという事なのである。
「オヤジ殿、これだけは言わせて貰います……ここ10年でボロック州を統一するつもりです。是非ともオヤジ殿にも俺の覇道の手伝いをして貰えないでしょうか」
「やはりボロック州を統一するつもりなんだね……良いだろう! 統一するのに手伝ってやろう!」
レオンは自分がボロック州を統一するつもりであると意思表明し、それを手伝って欲しいと頼む。
予想はしていたが、やはりそうだったのかとオズボルド尊極大名は感じ、もちろん手伝ってやると答えた。




