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026:不甲斐ない当主に

 俺はアイゼルと共に、レオンに呼び出された。

 戦争をやるわけでも無いので、どうして呼び出されたのかと俺はドキドキしている。

 ピシッとアイゼルと共に背筋を伸ばして話を聞く。

 どうやらマルセルが、ケザー=シントロ家の現当主である《ゼブ=ケザー=シントロ》との密会しに行く為の護衛として選んだのが俺たちらしい。

 裁かれるわけでも無いので、とりあえずは良かったと安堵したから「護衛!?」と俺たちは驚く。



「君たちは期待の新人だしね、レオンさまに頼んで君たちを選んだんだよ。ワイツも呼びたかったけど、別の用事で居なかったからね」


「そういう事だ、これからの俺たちを占う重要な密会だからな。お前たちもシッカリとやれ……俺は、お前たちが帰ってくるまで城下で遊んでるからな」



 いきなり大役を仰せつかったので、俺たちはレオンの城下で遊ぶという冗談なのか、それとも本気で言っているのかという言葉を流してしまった。

 とりあえずこれはチャンスだからと、俺とアイゼルは互いに顔を見合ってから大きく頷く。

 深々と頭を下げて「やらせて頂きます!」と言う。

 これにレオンは「やってみろ」と送り出してくれた。


 俺とアイゼルは馬に乗り、ルシエンが乗っている馬車の前を先に進んでいる。

 ルシエンもレオンの配下として名が通っていて、狙われる可能性があるので集中して周りを警戒する。

 俺たちは明らかにガチガチになっており、馬車の窓からルシエンが顔を出して声をかけてくれる。



「2人とも最初からそんなにガチガチになってたら、最後まで持たないよ? そうそう刺客なんて来ないんだから、もっと肩の力を抜いていこうよ」


「し しかし! いつ襲ってくるかは分からないので」


「そんなにガチガチになってたら、もし来たとしても戦えないよ? だから力を抜いていこう、それに私も守られるほど、弱いわけじゃ無いからさ」



 こんなに出発の最初からガチガチに緊張していたら、とてもじゃないが帰りまで持たないと言ってくれた。

 もっと肩の力を抜いて行こうと優しく諭してくれるのだが、こんなにも重大な任務に緊張しないなんて、とてもじゃないが新米の俺たちには無理だ。

 すると最後の最後に、ルシエンは人に守られるほど、弱いわけじゃ無いと言うのである。

 これに納得した俺たちは、ほんの少し緊張が解れる。


 そのまま俺たちは、ケザー=シントロ家の城に向かうのであるが、ひと目についたら面倒なので少し遠回りだが、ひと目の付かないところを通る。

 遠回りして5時間以上も時間がかかってしまった。

 それくらいしないと、これからボロック州の覇者となるレオンの右腕・マルセルの安全が守られない。

 まぁそのせいで朝7時くらいに出て、ケザー=シントロ家の城に到着したのが昼過ぎになったんだけどな。

 そして城の前に到着したところで、ゼブの部下である男が頭を深々と下げて出迎えてくれる。



「ルシエンさま、お待ちしておりました。中でゼブさまがお待ちしておりますので、どうぞこちらへ」


「あぁ案内頼む」



 部下は中でゼブが待っているからと、城の中にルシエンを招き入れる。

 ただの役職の無い護衛の俺たちは、中に入れないと思って外で待機しようとする。

 しかし部下の人間が「あっ! 使用人の皆さまも中にどうぞ」と言ってくれた。

 なので俺はルシエンの方を見る。

 すると小さく頷いて許可してくれた。

 俺たちも城の中に入る事にしたのである。


 城の中に入り、ゼブがいる応接室まで案内される。

 扉の前まで来たところで、部下が部屋をノックして扉を開けてから「ルシエンさま方、御一行様が到着なさりました」と話を通す。

 まだ顔は見えないがゼブの「おぉ通せ」という声が聞こえてきて、部下の人たちに中に入って下さいと部屋の中に招き入れられる。

 ルシエンを先頭に失礼の無いよう身なりを整える。

 そして中に入るとルシエンが挨拶を行なう。



「モルフェイ郷代官にしてソロー=ジルキナ家第4代当主《レオン=ソロー=ジルキナ》が配下《ルシエン=ヴァノーリ》と申します! 本日は話し合いの場を設けていただき誠にありがとうございます」


「おぉ貴殿がレオン殿の右腕と噂のルシエン殿か! 貴殿に来て貰って嬉しいぞ! ささ座ってくれ!」


「それでは失礼させていただきます」



 ゼブは少し太っているが、目には力がある人だった。

 そしてルシエンが、レオンの右腕であるという事を知っていて、話せる事を光栄に思えると述べるのだ。

 これにどう返すのかと思ったら「ははは」と愛想笑いを浮かべながら場を濁す。

 立ち話も仕方ないのでゼブは座るように言う。

 その言葉に甘えると言って着席する。

 俺とアイゼルはルシエンの後ろに仁王立ちで待つ。



「今回の議案に関しては、少し前に来た使者から大まかに聞かせて貰っているが、詳しく聞かせて貰っても宜しいだろうか?」


「はい、私の方から説明させていただきます。レオンさまが家督を継いだのち、ボドハント州のローランド尊極大名と対立しているのはご存知でしょうか?」


「あぁレオン殿とローランド尊極大名の対立に関してはいえば、このザラン州でも話題になっている」


「その争っているローランド尊極大名が、モルフェイ郷の2つの城を抱き込みました。こちらとしても負けるわけにはいきません、そこで是非とも力を持っているゼブさまに手を貸して頂きたいのです」



 今回の議案に関して、事前に話しているので分かってはいるのであるが、改めてルシエンの口から今回の話し合いに関する説明を求めた。

 その頼み通りに、ルシエンは1から全て詳しく説明を行なうのである。

 それを聞いているゼブは小さく頷いていた。

 そして全ての説明を受け切ったゼブは、ルシエンからの協力して欲しいという頼みに返答する。



「レオン殿からの申し出は、実にありがたい事だったんだよ! 我らの大名であるエルセーヌは、全くもって使い物にならない! ザラン州の守護でありながら、今となってはボドハント州の属国に成り下がった」


「エルセーヌ大名は、証人としてグスタフ家に行っていたんですよね? それから先代が亡くなって、エルセーヌ大名が当主となったが、そのままグスタフ家に家臣として居続けたという事ですよね?」



 エルセーヌは先代が生きている頃に、証人としてソロー=ジルキナ家とフロマンタル=グスタフ家に居た。

 証人というのは和睦や同盟の証明として、子供や血族を相手に人質として送るというものだ。

 それを小さい時に経験してから、エルセーヌはフロマンタル=グスタフ家の家臣となった。

 そんなエルセーヌに、ゼブは嫌気が差している。



「情けない宗家を正す事こそが、分家の役割だと心得ている! だから今回、我らはソロー=ジルキナ家のレオン殿に味方しよう!」


「本当ですか! ゼブさま、ありがとうございます!」


「いや! こちらこそ武勇に秀でているレオン殿と、共闘できるのは嬉しい限りだ!」



 ゼブとしてもボドハント州の属国と成り下がった宗家の当主を排除したいと思っていた。

 だからこそ武勇として秀でていると思った、レオンが味方になってくれるのはありがたいのだ。

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