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025:調略

 ワッツは年を越したばかりのタイミングで、ポーボク城・エクト城の城主2人と密会を行なう。

 この2人はレオンへの忠義に疑問を持っていた。

 レオンは泥舟なのでは無いかという風に考えている。

 だからこそ2人は、明らかな敵方であるワッツの密会の誘いに乗ったのである。

 これで自分の家を優位な地位に持っていきたいのだ。


 密会なのでワッツを盛大に迎えられなかった2人は、せめて自分たちが出迎えようと考えた。

 満面の笑みを浮かべながら、馬車から降りてくるワッツを出迎えるのである。

 だがワッツは作り笑いが気持ち悪いと感じた。

 正直なところ気に食わない奴だと思ったが、ローランド尊極大名の命令なので我慢して中に入る。



「我らの声に、迅速に返答してくれたのは嬉しく思う」


「いえいえ! まさかローランドさまの家臣団の中でも武勇が知れ渡っているワッツ殿が、我々のところまで来てくれるとは思いませんでした! なぁ!」


「えぇ! まさか噂に聞いていたワッツ殿に、こういう形で会えるなんて、我らは幸運です!」


「そうか、喜んで貰えて良かったよ」



 ワッツは社交辞令のように、今回の密会を受けてくれた事に関する感謝を述べる。

 すると2人の城主は、引くほどワッツを褒める。

 確かに騎士として名前は広まっている。

 それにしたって、ここまで褒めるのはあからさまだ。



「それで今回の密会に関して、我々が何を話に来たのかは理解しているな? こちらとて時間は惜しいからな、そこまで時間をかけたくは無い」


「はい! もちろん理解していますとも! 我々がボドハント州側に着けば良いという事ですね?」


「あぁその答えを聞く為に、わざわざ俺がボロック州まで来たんだからな。もちろん答えは?」


「はい! 我らは2人ともボドハント州の支配下に置いていただければと考えております!」


「それは良い答えだ」



 ワッツは時間を無駄にするのは嫌いだと、2人に軽い脅しをしてから何の話をするか理解しているのかを確認すると、2人とも大きく頷いて理解しているようだ。

 ちゃんと議題が分かっているのを確認してから、その答えについて聞くのである。

 それはそれは威圧感を出しながら答えを聞く。

 2人ともスッと椅子から立ち上がって頭を下げる。

 そして自分たちを、ローランド尊極大名の配下に加えて欲しいと頼んだ。

 この答えにワッツは、ニヤッとして褒める。



「お前たちは、そんなにレオンの下に居たくないのか? 話によればヒビオン軍という名のムホスチン軍に勝ったというじゃないか。それなのに、お前たちはローランドさまの下に付きたいのか?」


「もちろん勝利したのは聞いています! ここからも少しは兵を出しましたから! それでもあの人は、あまりにも破天荒過ぎるんです……我らに無理難題を投げつけるだけじゃ無く、それができなければ遠ざける!」


「そうなんですよ! レオンの周りには、その無理難題をこなすイエスマンしかいないんです!」



 ワッツは2人にヒビオン軍を倒すだけの力があるというのに、どうして裏切るのかとイジる感じで聞いた。

 その答えにレオンが破天荒過ぎるのだと語った。

 レオンは配下の人間たちに、無理難題とも思えるような命令を出し、その結果を出した人間しか登用しないのだと語ったのである。

 2人が言うにはレオンが、昔からの関係性よりも実力を優先しているのが嫌なんだと言う。



「お前たちの気持ちは理解した。これから城に帰り、お前たちの城にボドハント州の旗を掲げろ」


「分かりました、直ちに帰城しボドハント州の旗を掲げさせていただきます」



 ワッツは2人に城へ戻って、ボドハント州に着くという事を示す為に旗を掲げるように言うのだ。

 それに大きな声で返事し、やる事も終わったのでワッツは立ち上がって馬車に乗り込む。

 走り出す馬車を2人は見送るのだった。

 馬車の中でワッツは溜息を吐いている。



「本当にアイツらは大丈夫なのか? あまりにも馬鹿らしく見えるぞ」


「まぁ良い意味でも悪い意味でも、こちらに協力してくれるのは間違いないでしょう」


「それなら良いが、これは俺が出世するかどうかの重要な戦いだ。失敗だけは絶対にできないからな」



 あんなにもペコペコしている奴らは使えるのかと、ワッツは部下に聞いたが良くも悪くも協力はしてくれると聞いたのである。

 これはワッツはなら良いが、この作戦の成功と失敗は自分の出世に関わると認識している。

 だから失敗するわけにはいかない。


 そんな中で2人は帰城をしてから早速、自分たちの城にボドハント州の旗を掲げたのである。

 この事態にレオンの配下たちは、モルフェイ城に急いで伝令を送る。

 2つの城が同時に、ボドハント州に裏切ったのだから緊急事態も緊急事態だ。



「報告します! ポーボク城とエクト城の2つが、ボドハント州に寝返りました!」


「なに? 2つの城が同時に寝返ったのか?」


「はい! 2つの城の門前に、ボドハント州の旗が掲げられています!」



 レオンは2つの城が、ボドハント州に寝返った事を聞いて眉を少し歪ませる。

 本当に事実なのかと再確認してから腕を組んで、天井を「うーん」と見上げる。

 レオンの後ろにルシエンが立っている。

 この話を聞いたルシエンは、小さく何度も頷く。



「レオンさま、同時というのは少し驚きましたが、これも想定の範囲内でしょうか?」


「確かに同時に攻略してくるとは思わなかったな。だが想定内は想定内だ、こっちも向こうから引き抜くぞ」



 ルシエンはレオンに、同時という事には驚いたが概ね想定内であるかと聞いた。

 この質問にレオンは確かに想定内だと言った。

 そして逆に、こっちもボドハント州の陣営から有力者を引き抜くとレオンは宣言する。



「それで狙うべきところは、どこでしょうか?」


「もちろん狙う場所は明白だ……突いたらボロの出るところを狙う。それこそが戦い方の基本だ」


「分かりました、直ぐに調略の準備を進めます」



 レオンの自分たちもボロック州側の人間を引き抜くという発言に、マルセルはどこを狙うのかと聞いた。

 すると狙う場所は明白であり、突いたらボロが出るところを狙うと答える。

 これこそが戦争の基礎であると。

 明白にどこを狙うかは語っていないが、マルセルは了解したと言って行動を開始する。

 マルセルはレオンの考えが分かっているみたいだ。


 レオン軍が調略に動いたのは、ボロック州とボドハント州の中間地点にあるザラン州だった。

 このザラン州は州として独立しているものの実質的にボドハント州のローランド尊極大名の家臣である。

 そしてそのザラン州の大名であるエルセーヌ=デジャス=シントロは、ローランド尊極大名に使える為、ザラン州にいない。

 それを狙ってザラン州の中心から西に少し行ったところにある、デジャス=シントロ家の分家である〈ケザー=シントロ家〉に目をつけた。


 このゲザー=シントロ家と、宗家であるデジャス=シントロ家はジルキナ家のように仲が悪かった。

 その理由は明白で、宗家であるデジャス=シントロ家が守護代でありながらグスタフ家の家臣になったからに相違ないのである。

 それを知っていたレオンとマルセルは、キッチリと利用してやろうと考えたのだ。

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