023:決着
俺は痛む肋を庇いながら敵兵を薙ぎ倒していく。
しかしさすがに庇いながらでは限界があり、体力的にも厳しくなって来た。
早く決着をつけてくれなければ、ここからは死ぬ確率が上がって来てしまう。
そんな事を思っていると敵本陣の方から、大きな歓声が聞こえてくるのである。
「あっちは敵本陣……まさか!? もう敵総大将を討ち取ったのか!?」
俺はあの歓声を聞いた俺は、もしかして敵総大将であるヒビオンを討ち取ったのかと驚く。
確かに早く終わるように願ったが、それにしたって戦争を、たった2時間半で終わらせるなんて衝撃だ。
すると指揮官級の敵兵が「撤退だ! 撤退するぞ!」と叫んで歩兵たちは逃げていった。
こちらの指揮官は「追わなくて良い! こちらも下がるぞ!」と追わないように兵士たちに指示した。
その指示に従って俺たちは、俺たちの本陣に戻った。
こんなに早く終わってどうするのかと思っていると、指揮官たちは直ぐに隊列を組み直すように言う。
どうしてここから隊列を組み直すのかと疑問を抱いたが、直ぐにどうしてかを理解した。
それはこれから反転して奪われた2つの城を攻撃している2軍に合流する為だ。
ちなみに言えば予備隊は、既に向かっていると言う。
俺たちも直ぐ後ろから追うように言われている。
「さすがはレオンさまだよな? この事も考えての作戦だったんだぜ、きっとさ」
「うぉ!? アイゼルさま……アイゼルさまも、この軍に従軍していたんですね。今、初めて気づきました」
「おいおい! 最初から居たぞ?」
「それにしても確かに最初から、ここまで計算していたとなると……とてつもなく恐ろしい方ですね。何よりも突然の事であるアドニスさまの出現を利用するなんて」
「そりゃあそうだろ。周りからは大馬鹿者と言われているが、あの方の知恵は尊極大名と遜色ない」
俺がレオンの采配力に驚いていると、レオンの幹部候補であるアイゼルが隣にいた。
アイゼルが居るなんて知らなかったので驚いた。
そんなアイゼルが語るのは、レオンの采配力は周りから大馬鹿者と言われているが、尊極大名と何ら遜色ないレベルだと言うのである。
確かにそのレベルでもあると俺は納得した。
そんな話をしながら俺たちは、スペンティ城とティプス城に向かうのである。
しかし到着する頃には、2つの城とも掃討戦に移行しているところだった。
その為、到着はしたが既にやる事は限られていた。
俺は予備隊に回されて待機していると、別動隊で先に城を攻めていたワイツがやって来た。
「ワイツさん、初陣はどうでした? 俺の方は歩兵なら何人もやったんですけど、首級は無理でした……」
「そうだったのか、それは次回に期待だな。俺は言いづらいんだけど……首級を1人とったぞ」
「おぉそれは凄いじゃ無いですか! 初陣で首級を挙げるなんて、とてつもないですよ! さすがはワイツさんですね!」
「そ そうか? ありがとう、お前だって実力は俺以上なんだから、次の戦いの時には首級をあげれるよう!」
俺は首級を挙げられなかったが、ワイツは初陣にして首級を1人挙げたのである。
これは聞いた時、驚きながらも自分のように嬉しい。
俺の喜んでいる姿を見たワイツは、照れながら俺が落ち込んでいるだろうと思ってカバーしてくれる。
しかし俺はそこまで落ち込んではいない。
良い手応えは感じているので、これからに期待だ。
そんな風に話していると掃討戦も落ち着いて来て、レオン軍の勝利が確定的になる。
終わったところで俺たちは整列する。
そして少し高いところに、レオンが乗って兵士たちに顔を見せるようにする。
俺たちはレオンが何を喋るのかと固唾を飲む。
レオンは不敵に、ニヤッと笑うのである。
すると徐に右拳を天高く掲げる。
「お前ら無謀にも我らの領地に侵攻して来た侵略者どもを、この手で追い払ったぞ! これで我らが、覇道を歩む事に誰も異論を唱えられない! 我らの栄光に拳を掲げ歓声を上げろ! 我らの勝利だ!」
『うぉおおおお!!!!!』
レオンは自分たちこそが、これから覇道を歩むべき人間たちであると兵士たちに叫ぶのである。
それを聞いた俺たちは、心の奥から何か沸々と熱いものが上がってくるように感じた。
そしてレオンの掛け声と共に歓声を上げた。
まさしく心の底からの雄叫びである。
俺たちの雰囲気を見たレオンは、フッと笑ってから高台からを降りる。
レオンと替わるように、レオンの側近であるルシエンが姿を見せる。
ルシエンはピシッとしているタイプなので、レオンとも違うピリッとした雰囲気が流れた。
「今から帰還するが、ここら一帯の畑を全て焼き払う。その火に巻き込まれて死んだとしても、我々は一切の責任を取らないゆえ、そこのところは理解するように」
ルシエンは帰還する前に、ここら辺の畑を全て焼き払ってから帰還するというのだ。
この発言にワイツは「どうして?」という顔をする。
その疑問に俺は答えてあげた。
「焼き払うのは敗残兵がいて、この食糧を持って再起されたら困るんですよ。だから、それをさせない為に畑を焼き払うんです」
「そういう事なのか! よくそんな事を知っているな」
「まぁ身分が低い分、こういうところで勉強をしないとやっていけませんからね」
畑を焼き払うのは、ここに残る敗残兵たちが食糧を手にして、再起を図られたら困るからだ。
だから帰還する前に、一帯の畑を焼き払うのである。
それに納得したワイツは、俺の背中をバシバシッと叩いて勉強している事に感服したらしい。
そのまま俺たちは畑を焼き払ってモルフェイに帰還して、タースグの戦いは本当に終結する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヒビオン軍が大敗し、その上でヒビオンが討死した事がラシャドたちがいるタールド城にも知らされる。
伝令から緊急で話を聞いたマインケ郡長は、小さいテーブルをひっくり返し怒りを露わにする。
ラシャドは静かに俯いている。
「ラシャドっ! これはどうなっているのだ! お前が勝てるというから、この戦争を始めたというのに、貴様の倅は何をしているのだ!」
「……れ」
「はぁ? 何を言っているか、聞こえないわ!」
「少し黙れと言ったんだ」
マインケ郡長はラシャドに、この責任の所在を問い詰めて来るのである。
これに俯きながらブツブツと返す。
しかしマインケ郡長は聞こえなかったので、何と言っているのかとハッキリと言うように怒鳴る。
ラシャドはブチギレの表情を浮かべながら、マインケ郡長にタメ口で黙るように言う。
これにはマインケ郡長は、タメ口とかには触れずに言葉を失ってしまう。
「マインケさま……少し我らで話をしたいので、席を外して貰ってもよろしいでしょうか?」
「そ そうか? 分かった、しっかり頼むぞ」
少し冷静になろうとラシャドは深呼吸してから、笑顔でマインケ郡長に退室を願う。
これ以上は自分でもマズイと思ったラシャドは、仕方なく部屋を出て行く事を容認した。
マインケ郡長が外に出て部屋を離れたのを確認する。
そしてラシャドは叫びながら、座っていた椅子を蹴り飛ばして怒りを露わにする。
「あのクソガキが! 今度は絶対に許さねぇぞ……このまま終わると思うなよ。これから地獄を見せてやる」
ラシャドはヒビオンの仇を取ると共に、自分の顔に泥を塗った事を許さない。
レオンに復讐してやるとラシャドは決意した。




